GS横島〜Endless Happy Time!!〜
妙神山で行こう! その1
「ここも久々だなー」
横島の目の前には妙神山修行場の門。
アシュタロス一味の襲撃で破壊された妙神山だが、神族の重要な霊的拠点であること、人間側も全面的に協力したおかげで、ほぼ早期に本来の機能を取り戻していた。
「おおっ、ヨコシマではないか?」
「随分と久しぶりではないか」
扉の前に立ったヨコシマに声をかけるのは門に備えられた二対の鬼の顔。
妙神山守護鬼神、鬼門である。
「・・・おまえら、生きてたのかっ!?てっきり妙神山が破壊されたときに運命をともにしたのかと」
横島がポツリと漏らした言葉に門の両脇に立つ鬼門の体がコケる。
「勝手に殺すなーっ!!」
「小竜姫様達と一緒にちゃんと脱出してたわいっ!」
「いや、だって、あの後原作じゃ出番なかったじゃん?まぁ、そんなことどうでもいいからさっさと開けろ。別にお前らに用なんかないんだから」
泣きながら叫ぶ鬼門たちにしっしっと、犬を払うかのように手を振る横島。
当たり前だが彼にとって鬼門たちの存在など知り合い以上の感情は持ちえてない。
無事であるに越したことはないが、特段かまう必要もない相手なのだ。
少なくとも敬意や尊敬の念は一切合切持ち合わせていない。
出会った当初からやられているところしか見ていないのだから仕方ないともいえる。
「ふんっ、貴様のような薄情者に開く門などないわっ!」
「そうだ、そうだっ!さっさと帰るが良いッ」
「あら?横島さんじゃないですか」
まくし立てる鬼門達の思いとは裏腹に門は内側からあっさりと開かれる。
「「小竜姫さまあぁぁぁっ!?」」
「小竜姫さまっ、相変わらずお美しいっ」
「昨日もお会いしてたはずなんですけど・・・とりあえずここではなんですから中へどうぞ。パピリオも喜びますよ」
絶叫する鬼門をよそに横島と小竜姫は中に入っていく。
「・・・・・・なぁ、右の。我らの出番これで終わりか?」
「言うな、左の。いつの日か我らも陽の光を浴びる日が必ず来る・・・・っ」
涙で語る鬼門達だが、少なくともこのSSではそれは絶対にありえないと断言しておこう。
「で、話とはなんじゃ、小僧?」
「ルシオラのことに関してです」
斉天大聖老師こと猿神の問いに横島は一瞬の間もおかずに答える。
その言葉に横島の隣に座るパピリオがビクリと体を震わせる。
パピリオへの挨拶もそこそこに横島は斉天大聖老師に相談したいことがあると言い、小竜姫に取次ぎを頼んだ。
本来ならば修行でもない限り、猿神直々に人間の相談に乗ることはないのだが、横島がアシュタロスの件で果たした功績もあり、猿神は快く横島の要請に応じた。
「ルシオラさんの・・・?それは横島さんの子供に転生ということで話が付いたのでは?」
「美神さんの手前はああ言ったんですけどね・・・やっぱりルシオラの為にもそこで妥協はできないって思ったんスよ」
小竜姫の問いに頬を掻きながら苦笑する横島。
「それにルシオラを産む相手のことも考えると・・・やっぱ問題も色々あるかなー、と」
自分が愛する男がかつて愛した女を自分で産む。
それを誰かにさせるということはどれだけ負担と枷になるのだろう。
ルシオラを自分の子供として転生させるのはあくまで横島自身の都合に過ぎない。
それを他の人間にまで背負わせて良いのか?
少なくとも簡単に是として良い問題ではなかった。
「そう・・・ですね」
横島の答えに小竜姫も納得したように頷く。
「でもヨコシマはどうやってルシオラちゃんを復活させるつもりでちゅか?」
「まぁ、美神さんや小竜姫さまたちが考えても他に方法はなかったんだからなー、俺に出来るとしたらこいつに賭けるくらいのもんだ」
そういって手のひらに文珠を出し、パピリオに見せる。
「文珠・・・ですか。でもそれでもやはり・・・」
「確かに一つの文珠では無理でしょうけど・・・複数の文字をこめればどうですか?」
横島は自分で考えた案を猿神たちに説明する。
文珠の複数制御と、その可能性。
横島がない知恵を振り絞って必死に考えた案だ。
だが、
「無理じゃな」
猿神の一言によって即座に否定される。
「なじぇにっ!?」
「『霊・基・構・造・増・大』では一時的なものに過ぎん。文珠の効果が切れれば元の量に戻ってしまう」
「うぐっ」
「『霊・基・構・造・分・離』ではルシオラは復活させることはできるだろう。だが、人間であるおまえがそれをしては魂が持たず崩壊してしまう。それでは本末転倒じゃろ」
「うぅっ・・・・」
土偶羅も言っていたことだが、霊体が皮を被ってるような神魔族ならばともかく人間が魂を分割などをしては魂そのものが原型を維持できず、崩壊してしまうのだ。
「うぅ、ちきしょーっ!せっかく一生けんめー考えたのにッ!いけると思ったのにっ!俺みたいなヤツが考えても結局は無駄だったというんかーっ!?」
「お、落ち着くでちゅ、ヨコシマっ!」
ガンガンと頭を打ち付ける横島とそれをなだめるパピリオ。
猿神と小竜姫はその光景を見て苦笑を浮かべることしかできない。
皆がみな、横島の力になりたいとは思っているが、事が事だけに力になれない。
そのことに歯痒さを感じているのがその表情から伺い知ることができた。
「 ちくしょーっ!俺が人間だからいかんとゆーのかっ!?人間じゃなかったら簡単にルシオラを生き返らせてやれる・・・・・のに?って、あれ?」
ふと、何かを思いついたように横島の動きが止まる。
「・・・・・・横島さん?」
何かを考え込むように黙り込む横島に猿神は眉根を寄せ。小竜姫とパピリオは怪訝な顔で見守る。
「俺が人間じゃなくなれば全部解決するんじゃないか・・・?」
横島がポツリと漏らした言葉に場の空気が固まる。
「そーだよっ!なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ。俺が神族か魔族になれば魂を分けても平気でいられるじゃねーかっ」
周りの空気にも気付かず横島は一人暴走を続ける。
「ふはははっ、俺は人間をやめるぞ! ルシオラ――――っ!!」
「落ち着かんかい、バカタレ」
「おぶぅっ!?」
ゴンと猿神が横島の頭を手にした如意金剛でドつく。
「横島さんっ、正気なんですかっ!?人間をやめるっていうのがどういうことか分かって言ってますかっ!?」
「・・・・・・あう?どういうことでせうか?」
「そうでちゅっ!横島が人間をやめて何か問題があるんでちゅか?」
倒れながら頭から血を流す横島に同意するようにパピリオが叫ぶ。
「当然でしょうっ!そもそも人間をやめるということはですね・・・・・・・・」
そこまで言って小竜姫の言葉が止まる。
横島が神族、あるいは魔族によって起こる不都合を考える。
寿命が延びる?が、既に彼の周りにはバンパイアハーフという友人がいるし、神魔族でも人間と変わらない寿命の一族も少数だがいる。
霊力キャパシティが大幅に上がる?それはメリットであり、デメリットではない。
人間社会で生きていけなくなる?それも否。
少数ではあるが、人間社会に溶け込み、人間として生きている神魔族も存在する。
そもそも彼の上司は魔族さえ舌を巻く悪党・・・もとい悪知恵が働く人物だ。
自らが魔族と露呈さえしなければ、人界においてさほど大きな混乱もないだろう。
「・・・・・・・・何か問題があるのでしょうか、老師?」
「・・・・・・」
「・・・・・・アホでちゅか」
流石の小竜姫も横島とパピリオのジト目の視線に冷や汗を掻いていた。
そんな弟子の様子を見ながら猿神は嘆息する。
「全く問題がないわけではないな」
人間が神族や魔族になる前例は過去にいくらでもある。
その前例を思い浮かべながら猿神は問う。
「小僧、お前は人間をやめると言ったが、神族と魔族どちらになるつもりじゃ?」
「え?そりゃ、まぁ、どーせなら神族・・・かな?」
魔族に偏見があるわけではないが、人間のイメージ的には神族のほうが印象が良いだろう。
「人間が神族になるのには清い心を持った人間でなくてはならん。かつて菅原道真はその恨みを捨て神として認められた。お主は自分の煩悩を捨てられるか?」
「え?煩悩をすか?」
「無理でしょうね」
「まぁ、ヨコシマでちゅからね」
横島に代わり、小竜姫が即答し、パピリオがうんうんと頷く。
二人の反応に涙する横島だが、自身のことだけもあって反論もできないことも自覚している。
「そして魔族になった場合じゃが・・・・・・これが一番大きな問題かもしれんのう」
「どういうことスか?」
「小竜姫、魔族の本質はなんじゃ?」
「魔族の本質・・・・・?」
猿神は横島の問いに直接は答えず、小竜姫へと話を振る。
「闘争と殺戮・・・・・・そういうことですか」
猿神の言葉の裏にある真意に気付き、納得したように小竜姫は頷く。
「小竜姫、二人だけで納得してないで私達にも納得するように説明するでちゅっ!」
「簡単なことですよ。横島さん、GS試験で対戦した白竜会の陰念を覚えていますか?」
白竜会の陰念。雪之丞のかつての同門であり、魔装術の制御に失敗し、魔物と化した男だ。
「・・・・・・誰スか?」
「・・・・・・・」
勿論、横島がそのとき限りしか出番の無かった男の名前を覚えているはずもなかった。
「コホン、つまりですね。魔族の本質は闘争と殺戮。人間が魔族となった場合、その多くは破壊と殺戮の衝動に飲み込まれて自我を無くしてしまうんですよ」
横島の言葉に軽い眩暈を感じたものの、気を取り直し説明する小竜姫。
実際、陰念は自我をなくし、本能の赴くままに破壊をするだけの魔物と化し、陰念本人の人格は完全に残っていなかった。
「え、それってとってもまずいじゃないですか」
「ええ、そのとおりです。上手く魔族化できたとしても本来の人格を失っては元も子もありませんからね」
「もっとも、魔族の衝動を理性で押さえ込んで制御したものも少なくはないがの」
小竜姫の言葉を補足するように猿神が言葉を続ける。
「ん〜、じゃあヨコシマが魔族化した場合はどっちになるんでちゅか?」
小竜姫と猿神の言葉に首を傾げるパピリオ。
「なんとも言えんの。こやつの霊格は人間としても上位に入るが、煩悩は人並み外れて強い。」
「つまりやってみなきゃわからないってことでちゅか?」
「ま、そういうことになるな。それ以前に小僧はどうやって魔族になるつもりだったんじゃ?」
「え?」
猿神に話を振られて固まる横島。
その顔は何も考えてないということを如実に語っていた。
はぁ、とパピリオと小竜姫のため息が重なる。
「え〜、と。何か方法ないんですか?」
タラリと冷や汗を掻きながら猿神に訪ねる横島。
「お主の魂は魔族の、ルシオラの霊基構造を持っておるから魔族化の手段はあることにはあるが・・・」
「問題は魔族の破壊衝動・・・ですね」
猿神はどこからか煙草を取り出して吸いだす。
「ま、お主にはアシュタロスの件で借りもあるからのぅ。とことんまで手を貸してやるわい」
猿神のその言葉は魔族の破壊衝動を克服する手段があるということを示唆していた。
「何か手があるんスねっ!?」
「うむ、要は魔装術の制御と同じじゃな。魔族の衝動に負けないだけの精神力、霊格を身に付ければ良い」
「えー、と、つまり・・・どういうことでせうか?」
何故か楽しそうな猿神の表情に何かイヤな予感を感じつつも、聞いてみる。
「一言で言えば、修行あるのみ、じゃな。なに、ちょっと死ぬほど痛いくらいで死にはせんじゃろ。多分」
「や、やっぱりーっ!?ってか、多分って何じゃーっ!?」
「ついでじゃ、わしの直弟子として徹底的に鍛え直してやるわい」
「人の話を聞いてないっ!?」
神界屈指の実力者である斉天大聖老師の直弟子。
人間はおろか、神魔族でさえもそれを願ったからといってそう簡単になれるものではない。
ましてや人間で猿神の弟子になったものなぞ存在すらしない。
それほど名誉なことでもあるのだが、痛いのイヤな横島にとっては別に嬉しいことでもない。
「元々、修行のつもりでここに来たんじゃろう?やることに代わりはあるまい」
確かに猿神の言うとおりだ。
ルシオラ復活の為なら痛いのもキツイのも耐えるつもりでいた。
だが、横島の予定では猿神ではなく、小竜姫に手取り足取り教えてもらうという予定(妄想ともいう)だったのだ。
猿神ような巨大なサル相手の修行など色気がないこと甚だしい。
「小竜姫、パピリオ、お主らにも手伝ってもらう。異論はないな?」
「勿論です。それが私がここにいる理由ですから」
「当然でちゅっ!ヨコシマとルシオラちゃんの為ならなんだってしまちゅよっ!」
訪れたものを鍛えるために妙神山修行場は存在する。
その管理人である小竜姫は横島を鍛えることに異論があるはずもない。
パピリオも姉の復活も懸かっているし、その協力を惜しむ理由など何一つない。
「あの〜、老師?別にそこまで張り切らなくても、ルシオラさえ復活できれば良いんで、必要以上の修行は要らないっすよ?」
「何、遠慮するな。わしが鍛える以上、中途半端はせん。弟子を取るのは久々だからのぅ、腕が鳴るわい」
成長期の人間を鍛えてどこまで上を目指せるか興味もあるしのう、と不敵な笑みまで浮かべる始末。
「あぁっ!?なんだか妙な方向にスイッチが入っていらっしゃる!?」
以前の修行で猿神と相対したときの恐怖が脳裏に浮かび、泣きが入る横島。
「大丈夫ですよ、横島さん。ちゃんと私達もフォローしますから」
「小竜姫の言うとおりでちゅっ!ルシオラちゃんのためにもしっかり頑張るでちゅよっ」
「イタイのも苦しいのもイヤーっ!!」
盛り上がる三人を余所に泣き叫ぶ横島だが、その声が三人に聞き入られることは無かった。
UP DATE 08/02/04
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