アシュタロス事件。

魔界屈指の実力者である上級魔族アシュタロスによって起こされたこの事件を解決したのは神族、魔族でもなく人間たちだった。

アシュタロスを倒すことに大きく貢献した人間のゴーストスイーパーたちが支払った最も大きな代償。

それがアシュタロスを裏切り、横島と恋仲になった魔族―ルシオラの命だった。

ルシオラを庇い、瀕死の重傷を負った横島を救うため、彼女は自らの霊基構造を彼に分け与え、命を落とした。

そしてアシュタロスとの対峙の際、ルシオラの命と世界の選択を迫られ―――――――――

 

 

 

  横島は世界を選んだ。

 

 

       ――――――彼女との約束を果たすために

                    ――――――彼女が望んだ自分であるために

 

        

 

 

 

 

GS横島〜Endless Happy Time!!〜

 

 

 

 

「とりあえず、これでハッピーエンドってことにしない?」

 

ベスパの妖蜂によって集められた霊破片もルシオラが復活するには質量が足らず、転生して生まれ変わることすら許されない。

唯一、残された可能性がルシオラの霊基構造を取り込んだ横島の子供としての転生だった。

 

 

「いつか将来、生まれてくるあんたの子供に愛情を注いでやれば・・・ルシオラも幸せになるんだし、ね?」

夕暮れ時、惚けたように海を眺める横島に美神が遠慮がちに声をかける。

今回の最大の功労者であると同時に最大の被害者である横島に流石の美神も引け目があった。

この方法しか手段が無かったとはいえ、ベストではないことも事実。

慰めにもならないとはいえ、声をかけずにはいられなかった。

「そーッスね・・・」

短い沈黙の後、ようやく横島が口を開く。

「彼女に会えて良かったし・・・形は違ってもまだ幸せにしてやれる可能性は・・・残ってるんだし」

「そうね、ヨコシマ。恋は実らなかったけど・・・・・・私たち、何もなくしてなんかいないわ」

横島に残留するルシオラの意識が静かに語りかける。

 

「魔族には生まれ変わりは別れじゃないのよ

  今回は千年も待ってた人に譲ってあげる、パパ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、そんなんで俺が納得できるか――――っ!?」

その夜、一人きりで東京タワーへと上っていた横島は一人夜の闇に向かって吠えた。

それはもう力の限りに。

夕方は美神がいた手前、一応は納得した。

・・・が、一人冷静になって考えてみた。

「ついに・・・っ!ついに俺にも女ができたというーのにっ!こんな形で取り上げられてたまるかぁぁぁっ!!」

「ヨ、ヨコシマ?」

血の涙を流しながら叫ぶ横島にルシオラの残留思念も流石に引いていた。

「ルシオラっ!おまえだってそうだろうっ!?他に手段がないからっ・・・!だから恋人から子供にっ・・・!そんなんで満足できるのかっ!?」

「だ、だって他に方法が・・・っ」

「手段の問題じゃないッ!」

満足も何も方法がない以上、他にどうしようもない。

そうルシオラが続けようとした言葉を横島がさえぎる。

「おまえがそれで満足できるかどうかってのを聞いてるんだっ!心の底から納得できるのかっ!?本望なのかっ!?お前の本音を聞かせろっ!」

「・・・っ!」

横島の言葉にルシオラの息が詰まる。

確かに他に手段がない以上、それに満足する他になかった。

自分の望みは元より一つ。横島と彼の住む世界を守れればそれで良かった。

「―――バカ」

――――そう思っていた。

「満足なわけ・・・ないじゃないっ!もっと・・・っもっとヨコシマと一緒にいたいっ!ずっと一緒にいたいよ――――」

それが偽らざる自分の気持ち。心の奥に隠していた本当の願い。

「よし・・・っ、決まりだなっ!」

ニッと不敵な笑みを浮かべる横島。

「俺を信じろっ!必ず・・・っどんな裏技使ってでもお前を復活させてやるっ!」

クスッ。

そういって叫ぶ横島にルシオラは思わず笑みを零してしまう。

今の横島とあの夜の横島の姿がダブる。

横島はあの夜の宣言どおりアシュタロスを倒した。

ならばきっと今回も。

「ええ、信じてるわ、ヨコシマ。あなたがそう約束してくれるなら、きっと・・・」

あの時の約束と同じように自分を必ず復活させてくれるのだろう。

自分が愛した彼ならばきっと・・・。

「期待して待ってるわ、ヨコシマ♪」

任せろッ!俺がおまえを必ず復活させるっ!そしたら・・・・そしたらっ!」

 

 

 

「今度こそ俺はヤるっ―――――ッ!!!!」

 

 

 

 

「・・・・・・」

辛うじて残していた残留意識が消え行く中、ルシオラはなんだかなー、と思っていた。

(ま、それでこそヨコシマなんだけどね・・・♪)

口に出している言葉が横島の本音、全てではない。

 

 

次に会えるのを楽しみにしているわ

 

 

それがルシオラの残した最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの、俺の頭じゃ考えてもどーにもならないんだよなー」

ごろん、と煎餅布団に寝転がると横島。

自分の上司でもある美神令子や仲間のGS達。

おまけに小竜姫やヒャクメ、ワルキューレやジークと言った神魔族といった面々が知恵を振り絞ってようやく横島の子供としての転生案が出されたに過ぎない。

元よりGSとしての知識すらロクにない横島一人が何をどう考えたところでルシオラを復活させる方法など考えられるはずもない。

もし可能性があるとすれば・・・・・・。

キンッという音とともに自らの手の内に瑠璃色のビー玉サイズの玉が現れる。

文珠。

霊力を凝縮したこの玉に漢字一文字の念を込めることであらゆる現象を引き起こす横島の切り札。

だが、この文珠とて万能ではない。

死人を生き返らすことはできないし、自分より遥かに格上の相手に対してはその効果がない場合も多々ある。

それでも横島がルシオラの復活を可能とするにはこの文珠に賭ける以外の方法が浮かばなかった。

文珠は2個以上を同時に使うことでその効果や応用範囲を飛躍的に増大させることができる。

『復・活』や『増・幅』では効果がなかった。

だが、それ以上の文字数ならば?

『霊・基・構・造・増・大』でルシオラの霊気構造を増やす。

または『霊・基・構・造・分・離』によって自らの魂からルシオラの霊基構造を取り出すことはできないか?

確実にできるとは言えないがやってみる価値はあるかもしれない。

「つっても、今の俺じゃ三文字が限界なんだよなー」

文珠の複数同時使用は文字が増えればそれだけ制御に必要な霊力が格段に増大し、コントロールも困難になってくる。

ルシオラの霊力が自分に残っていた状態でも5文字分が限界だっただろう。

と、なると霊力に関する修行を行わなければならない。

修行や訓練など大変なのも苦しいのも普段ならご免こうむりたい横島だが、惚れた女の命がかかってるとすればそうも言ってられない。

「妙神山にいくっきゃねーかぁ」

あそこならば修行もできるしルシオラ復活に関しても協力してくれるだろう。

自分の女のために、やれることは全てやる。その為の覚悟も決めた。

「待ってろよっルシオラ!俺は必ずやってやるからなぁーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーわけでしばらく休みください」

翌日、美神の元に来た横島は開口一番そう切り出した。

文珠の複数制御。最低でも六文字となると、一週間や二週間でどうにかなるとも思えない。

その為にバイトの長期休暇を申し出たのだ。

ルシオラの復活が目的・・・と、いうことは伝えていない。

今回の修行でそれが達せられるかどうかはわからないし、これ以上、ルシオラの事に関して美神やおキヌに心配をかけたくないからだ。

「ふーん?」

横島の突然の発言に訝しむように目を細める。

修行の為に妙神山に行く、

普通の霊能者の発言なら何も問題はない。だが、相手は横島だ。

何か理由がない限り、自ら進んで修行しようとする性格ではない。

とはいえ、今回のアシュタロス事件では色々なことがあり過ぎた。特に横島にとっては。

スケベは相変わらずだが、人間的にも一皮向けた感があるのは確かだ。

横島なりに何か思うことがあって、修行しようというならばそれを止める理由もない。

仕事をしようにもアシュタロス事件の後、悪霊達の活動はなりを潜め、一向に依頼がない状態なのだ。

美神の母、美智恵の話でも当分はこの状態が続きそうなので、彼がいなくても支障はない。

「ま、いいわよ。どーせ、仕事も無いしね。ついでだからこれ渡しとくわ」

そう言って机の引き出しから一枚の免許を横島に放り渡す。

「え?これって・・・・・・!?」

「そ、GSの本免許よ。ま、いくら成長したっていっても頼りないのは相変わらずだけど」

驚愕に歪む横島の顔を見て、美神が楽しそうに笑う。

「アシュタロスの件であれだけ活躍したあんたを見習いにしておくわけにもいかないでしょ?」

「お、俺が・・・・?ついに正式なGSに?」

「わぁっ、良かったですね、横島さん!」

わなわなと自分のGS免許を見つめる横島と、それを自分のことのように喜ぶおキヌ。

横島が修行で当分会えなくなるのは彼女にとって寂しいことだが、彼が認められるのは自分が認められるより嬉しいことだったりする。

「遂に・・・遂に俺の時代が来たぁーっ!この調子で成長していけば美神さんを超える日も間近っ!その暁には給料もアップし、女にもモテモッげはぁっ!」

「大声で妄言を撒き散らしてるんじゃないっ!!」

「しまったーっ!?またいつもの癖がっ!?」

例によって思考を大声で喚き、その頭蓋に美神の一撃を食らって血に沈む横島。

「まったくもー、アンタは・・・」

「ま、まーまー、美神さん」

そんないつものやりとりをしながら美神とおキヌは内心ホッとしていた。

ルシオラの件は一応決着をつけたが、横島の心に大きな傷を残したのは間違いないのだ。

こんな普段どおりのやりとりをすることによって、横島がいつもの、二人の傍にいた横島であることを再認識することができた。

成長しようが、何しようが、横島は横島。根本的には何も変わらない。

それが二人にとってある意味一番大事なことであったと言えるだろう。

本当は自分の実力を既に超えているのにそれを未だに自覚していない横島に美神は苦笑を禁じえない。

霊動シミュレーターで戦ったときの自分を、横島は未だにプログラムと思い込んだままだ。

あれがプログラムではなく、本当の自分だと知ったらこの男はどんな反応をするのだろうか。

(―――ま、もう一度戦ったら負けるつもりはないけど)

純粋な戦闘力はともかく、経験やそれに基づいた状況判断といった面ではまだまだ横島は美神には及ばないのだ。

「ま、せっかく妙神山に行くんだからとことんやってきなさい」

「横島さんが帰ってきたときは腕によりをかけてご馳走いっぱい作っちゃいますね♪」

こうして横島の妙神山での修行許可はあっさり下りたのである。

今の美神たちには知る由も無かった。

これが横島にとって大きな転機なることを。

 

 

 

 

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UP DATE 08/01/29

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