ROUND9「サバイバル」
――レース当日
《さあ!閉鎖された市街地で命知らずのレーサー達の暑いバトルが始まるぜ!》
晴天の中にアナウンスの声が響き渡る。
すでに出場する9チーム18台が位置についてエグゾ―スト音を響かせていた。
無論、祐一のカノンGSX、往人のプロトジャガーも含まれている。
出場しているマシン内で純粋なサイバーフォーミュラマシンはGSXのみだが、
どのマシンも規定を無視し、コースに合わせた改造により従来のC・Fマシンとも充分戦える戦闘力を有している。
閉鎖れたゴーストタウン、廃工場後、壊れた跳ね橋、丘陵カーブというコースを10周し、2台のポイント制で競われる。
ただし、チームの片方がリタイヤした時点でチームは失格。
ルールもほとんどなく他チームの妨害走行などお構いなしで、まさに潰しあいになるサバイバルレースだ。
「いいか、祐一。俺が抜こうとするときはお前が邪魔をする。お前が抜くときはその逆だ」
「ああ、やってみるよ」
「・・・ふっ、まぁ、そんなに固くなるなよ。お前が持ってる力を全部出し切ればいいんだ」
「・・・・・はい!」
サイバーエンジンの唸りが音をあげ、フラッグがふられ各車一斉にスタートしていった。
GSXとプロトジャガーは市街地を抜け、廃工場へと続く道へと出る。
後方のマシンの1台がGSXに並びかけてくる。
『加速せよ。あの入り口はマシン一台が入ることしかできない』
「負けるかよ・・・・!」
カノンの指示に従い、アクセルを踏み込む祐一だが、相手も負けじと加速してくる。
だが、徐々に迫ってくる狭い入り口。
そのプレッシャーは祐一を怯ませるのに充分だった。
「・・・クゥッ!」
反射的にアクセルを緩めてしまう。
当然相手のマシンが先に入り口に飛び込み,祐一は順位を落とす。
「たくっ・・・・何をやってるんだ、あいつは・・・・・」
ミラーで後方のやりとりを見ていた往人はその様子に顔をしかめる。
「くっ・・・こんなとこじゃ抜き返せない!」
廃工場の中には様々なガラクタが散らかっていて、思うようなラインがとることができない。
祐一もただ前走車のあとをついていくだけだった。
「おい!何やっている!?遠慮などしないでさっさと来い!!」
無線から往人の怒声が響く。
「そんなこといったって・・・・!・・・くそっ!」
祐一も覚悟を決め、アクセルを踏み込み、前走車にせまる。
だが、突如前走車のブレーキランプが灯る。
「い!?」
反射的にブレーキを踏む祐一だったが、前走車は減速せず、スッと離れてしまう。
こういったレースでは良く使われる牽制のフェイントだ。
「馬鹿か、お前は!そんなハッタリに引っかかるな!」
「・・・ぐ・・・・」
廃工場を抜けたマシンは跳ね橋を越え、丘陵カーブへと差し掛かる。
往人と祐一の間には既に2台のマシンがいる。
そして、またもやGSXの背後にせまるマシンが1台。
「おまえにまで抜かせはしない!」
熱くなっている祐一はアクセルを踏み込むが、このコースの注意点を忘れていた。
『危険、速度がつき過ぎている』
「え?」
カノンの警告が響くが、わずかに遅かった。
GSXは軽いスリップを起してしまい、アウトに膨らんでいく。
「しまった!!」
そのインをついて難なく後続のマシンはGSXをパスしていった。
「祐一!焦って相手の動きに惑わされるんじゃない!逆にこっちのペースに引き込むんだ!!」
「・・・自分のペースに引き込む・・・・」
無線で話している間にも往人の後方にマシンが迫る。
「他のマシンが近づいてきたら、こっちもぶつける気で突っ込め!
逆に後ろからつっつかれたら逆にスピードを緩めるくらいの気持ちでいるんだ!」
今、自分が言ったことを自ら実践する往人。
後方のマシンが迫ってくるのに合わせ、マシンのスピードを落とし、接触ギリギリまでけん制する。
相手が怯んだ隙にアクセルを踏み込み、相手を突き放していく。
「要は気迫だ!レースってのは命をかけた戦いなんだよ!」
往人の言葉は祐一の心に深く突き刺さる。
「命をかけた・・・戦い!」
レースはその後も熾烈を極め、激しい攻防とクラッシュの連続だった。
中盤ではすでに4チームが失格となり、残ったチームは5つにまで減っている。
「晴子!ピットインするぞ。タイヤ交換の準備をしとけ」
「わかった、まかしとき!おまえら出番やでっ」
往人のプロトジャガーがピットインし、晴子たちがタイヤ交換の作業に入る。
「祐一、お前も続け!後半に勝負をかけるぞ」
「わかりました!」
往人は祐一にもピットインを促すが、祐一はかなり遅れていた。
「往人さん、タイヤ交換終わったよ」
「・・・・ばっちり・・・・」
「おう!出るぞ!」
手早くタイヤ交換を終えたプロトジャガーがスタートし、晴子たちは祐一のピットインの準備に入る。
準備完了と同時にGSXもピットに滑り込んで来る。
「頼むで、あんちゃん。うちらはボランティアじゃないんやで」
「こらーっ、相沢祐一、しっかりしろー!!」
すぐにGSXもタイヤ交換を終え、ピットアウトするがトップを走る往人からかなり遅れている。
2台のポイントで争う以上、往人だけが先行していても優勝は望めないのだ。
「いつまでも調子にのるなよ!」
トップを走る往人に2位のマシンが肉薄する。
プロトジャガーとの差が詰まるとそのマシンの前輪ホイールから他車の妨害用に装備されたドリルがせり出して来る。
一般レースでは当然認められてないが、このレースでは黙認されている。
2位のマシンがプロトジャガーに接近し、回転するドリルが後部のバンパーに接触し、プロトジャガーにダメージを与える。
「何しやがる!!」
その衝撃によってプロトジャガーは後退し、2位と3位のマシンが抜いていく。
一方プロトジャガーのコックピットではサイバーシステムがダメージを報告する。
『リヤデュフュ―ザー破損。ミッション用オイルクーラーラント破損。オイル流出』
「やってくれるな・・・・・・・晴子!ピットインだっ、リヤをやられた!」
「なんやて!?」
レースもラスト1周で往人がピットイン。
その間に次々と抜かれ、順位が下がっていく。
「デュフュ―ザーを引っ剥がすんや!1周持てばええ!オイル漏れはパッキンとガムテープで!」
晴子が的確に指示をだし、観鈴たちもテキパキと作業にはいるが、デュフュ―ザーは衝撃で変形して、なかなか外れない。
「駄目!外れないよ、お母さん!」
「阿呆!根性見せたれ!」
みちると観鈴、そして晴子の3人が同時に力をこめ、力任せに引き剥がす。
「にょわっ!」
外れた反動で3人は後方に倒れこむが、その間に美凪が新しいものを装着させる。
「これでオッケー・・・・」
「よし!出るぞ!」
ピットアウトした往人にようやく祐一のGSXも追いついてきた。
「祐一!このままじゃ、賞金は手に入らん!俺は俺のやり方で飛ばす。お前も何とかしてついて来い!わかったな!」
「わかりましたっ!」
2台のマシンはペースを限界まで引き上げ、追い上げを開始する。
廃工場前のストレートで往人は1台をパスし、祐一も並びかける。
だが、相手のほうも譲る気はなく、先ほどと同じように速度を上げてくる。
「譲らない気か・・・・!」
『危険。速度を落とせ!』
「くっ・・・!」
「びびるな!突っ込むんだ!祐一!!」
カノンが警告を発し、アクセルを緩めようとした祐一だが、往人の叱咤で逆にアクセルを踏み込む。
「いけぇ!」
相手のマシンは壁に激突し、GSXは見事、入り口へと入り込む。
「よし!」
「フッ!やればできるじゃないか。そのリズムを忘れるなよ。さあて・・・ここからが見せ場だぞ」
廃工場の出口が見えてくる。
跳ね橋の手前には先行している2台のマシン。
「祐一!ブーストを使うぞ!」
「了解っ!いけぇーっ!!」
『ブーストポッド作動ッ!!』
2台のブーストポッドが跳ね上がり、前走車に急速に接近する。
その加速力で往人は前走車の間をすり抜けていき、祐一も後方からその後に続こうとするが、
前走車は抜かせまいと間隔をせばめ、ブロックの体制に入る。
「カノンっ、やるぞっ!!エフェクトファン作動っ!」
祐一は跳ね橋を飛ぶ寸前に左右のエフェクトファンをそれぞれ上下に作動させ、
プロトジャガーを先頭に4台のマシンが跳び上がる。
前の2台に比べてスピードの乗っているGSXは空中でも2台との間をどんどん縮めていく。
2台との間にGSXの通るスペースはなく、そのまま激突すると思われたその瞬間――――
GSXは空中でその車体を傾けて2台の間をすり抜け、そのまま1回転しながら着地してしま。
相手チームは逆に着地の際に接触し、そのままリタイヤしてしまう。
「ほーう、やるな」
今までとは違う祐一の気迫のこもった走りに往人も感嘆する。
勢いにのる2台はそのままトップのチームを射程距離に捉える。
「あいつらを抜けば、俺達がトップだ。続け、祐一!」
「はい!」
往人のプロトジャガーが先にインから仕掛けるが、相手もそうはさせまいとブロックしてくる。
「今度はスクラップにしてやるぜ!」
再びホイールからドリルがせり出てきて、プロトジャガーに狙いを定める。
「往人さん!行くぞっ、カノン!!」
往人を助けようとアウトから果敢にしかけていく祐一。
それに気付いた相手もブロックに向かい、ブレーキランプのフェイントをかける。
「そう何度も同じ手を喰うか!!」
GSXはすかさずインに切り込み相手チームの間へ割ってはいる。
「何!?」
アウト側の相手マシンが抜かせまいと執拗にGSXに並びかける。
祐一は構わずアクセルを踏み込む。
『危険。速度がつき過ぎている!』
「俺は焦っちゃいない!うろたえているのは・・・・あいつのほうだ!」
「ここまで来て負けられるか!!」
相手はホイールのドリルを出し、GSXに接近していく。
「・・・・・・・・今だっ!」
限界まで引き付けた祐一はブレーキを踏み込む。
減速したGSXはドリルの一撃を回避し、相手マシンはオーバースピードでスピンを起す。
「うわあぁぁぁ!!」
スピンを起したマシンはガードレールに激突。
「やった!往人さんっ、俺、やりましたよ!!」
「・・・あいつめ・・・・」
往人はアウトからマシンをインに切り込ませ崖と自分のマシンで残った相手マシンを挟み込む。
相手マシンは崖に乗り上げ、そのまま横転してしまう。
「借りは返しといたぜ」
二人はそのまま祐一を先頭にゴール。
ワンツーフィニッシュを決め、見事優勝を手にしたのである。
「いいぞー、国崎往人ー!相沢祐一ー!」
「にはは、さすが。往人さんアーンド祐一さん、ぶいっ!」
「・・・ぱちぱち・・・・」
観客達も皆、彼等の勝利を祝福していた。
「祐一、お前の欠点は相手を意識しすぎて振り回されることだ・・・・それを忘れるな」
「・・・はい!」
二人は粗雑な表彰台の上で、喝采を浴びていた。
「往人さん、俺,今日のレースで自分に何がかけてるのかよく分かった気がするよ」
祐一の表情は吹っ切れたように明るいものだ。
「それは良かったな。レースはテクニック以上に駆け引きが重要なんだ」
台から降りた二人に主催者から賞金が手渡される。
往人はそれを受け取ると勘定をし、その中から祐一の分を取り出し、差し出す。
「ほら、お前の取り分だ」
「え?いらないよ、俺」
慌てて、拒否する祐一。
「そうか?ならばこれは俺が・・・・」
「あほかいっ!」
言いかけた往人だが、後方からハリセン持った晴子に思いっきり頭をドつかれる。
頭を抱え悶絶する往人。
ちなみに晴子のハリセンは鉄製である。
「ぐおおお〜〜〜。じょ、冗談がわからんのか、お前は・・・」
「・・・・プッ・・・・アハハハハ!」
「フ・・・・ハハハハハハ」
その光景に思わず祐一は吹き出してしまう。
周りのものもそれにつられ、笑い声がこだましていた・・・・・・・
2002/3/22
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