ROUND8「国崎往人」
勝ちを焦り、一気に飛び出した祐一はピットの忠告も無視し、トップを独走しつづけた。
しかし、その無謀ともいえるドライビングは強豪達の餌食となった。
最終的にマシンはエンジンブローを起し、祐一はリタイヤとなった。
― スノークリスタル・トランスポーター ―
留美や真琴たちメカニックはGSXの修理にあたっていた。
真琴「あうっ−、ブレーキが完全に逝っちゃってるよ〜・」
留美「パーツ類も全部交換するしかないわね・・・・これはちょっと骨が折れわ・・・」
GSXのシステムチェックを済ませた留美が結果を見て唸る。
マシンの限界を省みない祐一のドライビングはマシンに多大なダメージを与えていた。
真琴「GSXの性能は入賞したマシンに劣るはずはないのに・・・」
留美「全部、相沢くんのせいよ・・・・こっちの指示さえ守ってれば入賞できたかもしれないのに・・・!」
美汐「済んだことは仕方ありません。とにかく頑張ってGSXを修理しましょう」
黙々と修理をこなす美汐たち。
「・・・・・・・・・・・」
それを遠くから祐一は一人で見つめていた。
時刻は既に夜9時を回っていた。
祐一がチームからいなくなって既に6時間が経過していた。
「祐一どこに行ったんだろ・・・・」
名雪の呟きに答えるものはいない。
栞たちの表情も沈んでいるように見える。
誰にも祐一の所在はわからず、携帯の電源も切っているのだろう。電話もつながらなかった。
わかっているのは祐一のバイクが無くなってることから、それに乗って出ていったということだけだ。
「祐一さんなら平気よ」
「・・・・秋子さん・・・」
「みんなも祐一さんを信じてあげて、ね?」
「・・・はい・・・・・」
「うーむ・・・・こんなに金を消費してしまうとは・・・・不覚」
とある店から出てきたのはやたらと目つきの悪い黒いシャツをきた男だ。
ふとその男が道路を眺めていると一台のバイクが飛び出してきた猫を避けて転倒していた。
「ちっ・・・・・」
舌打ちをしながらも男は転倒したバイクへと近づいていく。
「いってぇー・・・・」
幸い、そのバイク乗っていたライダーはすぐに起き上がったので大した怪我はなさそうだ。
「おい、大丈夫か?ん・・・・・・おまえは・・・」
バイクに乗っていたのはチームを飛び出した祐一だった・・・・・・・・・・。
あの後、大雨に降られたため二人は近くにあったラーメン屋にいた。
「へぇー・・・・・・・あんたもレースを?」
ずずーっと音を立てながらラーメンを食べている男。
「まぁな。こう見えても俺は全米のサイバーレースじゃあ、賞金ランキング1位のドライバーだからな」
「ふーん」
「ふっ、フォーミュラを走るようなエリートじゃ、知らなくても無理はないか」
「いや、俺は・・・・・その・・・レースを始めたばかりだから」
「知っているさ、このアメリカがワールドGPXのデビュー戦。
レース経験がゼロにも関わらず初出場でライセンスを取得した天才・・・・・・。
その天才があんなとこで何やってたんだよ?」
男の言葉には多少からかいが含まれている。
「やめてくださいよ・・・・・天才だなんて・・・・・誰もそんなふうに思っちゃいない・・・」
「フッ・・・・・ま、昨日のレースはお粗末だったからな」
「俺のレースの何処がお粗末だって言うんだ!?」
その言葉に祐一はキッと男を睨む。
「スタートさえミスならなきゃ・・・・」
「そりゃそうかもしれんが・・・・・あんなレースじゃ何言われても仕方ないだろが。新人とはいえ仮にもプロなんだからな」
「・・・どうせ、俺はプロのドライバーじゃないよ・・・・・なりたくてなったわけじゃないし」
いいながらもその声は表情とともに落ち込んでいく。
その言葉に男の顔が険しくなる。
「だったらさっさと辞めるんだな。富士岡でおまえに負けた奴等には同情するぜ」
さらに声のトーンを厳しくして言葉を続ける。
「あのときはちっとは面白い走りをする奴だと思ったんだがな」
「・・・富士岡のレース・・・・・見てたんですか」
「ああ、あのときはもっとマシな走りだったがな」
「あのときは・・・・」
「無我夢中で走ってた・・・・・・・だろ?」
胸の内を読まれた祐一は男のほうに目を向ける。
男はフッっと笑い、
「レースをやるからには勝たなきゃ面白くねぇ。けど、相手に勝つにはその前に勝たなきゃならない相手がいる。
焦りや不安、マシンや気負いとかな・・・・・・。
昨日のレースでおまえはフライングのペナに面食らって自分のペースを崩した。
勝てるドライバーってのは技術や体力以前に精神的にタフじゃなきゃならねぇのさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「で、どうするんだ、おまえは?」
「え?」
「レースを続けるか辞めるかだ。もっとも、今のおまえじゃ続けても結果は見えてるがな」
「・・・・・だったら・・・・俺にどうしろっていうんですか・・」
「続ける気はあるみたいだな・・・・・・・」
男は祐一の反応にニヤリとする。
「3日後に俺は賞金レースに出る。だが、そのレースは2人1組じゃなきゃ出場できん。
俺は今その相手を探してる最中なんだが・・・・・どうだ、俺と一緒にレースに出てみないか?」
「・・・・賞金レース・・・・・・・」
「フォーミュラとは主旨がまるで違うがな。今のおまえにかけてるもんが手に入ると思うぞ」
「・・・・・わかった・・・・やるよ」
「よーし、これで決まりだ。とにかく今日はもう遅いからな。全ては明日だ」
男のほうは最初から祐一をレースに誘う気でいたのだろうか。
してやったりと言う顔だ。
「あっ・・・・でも俺、黙ってチームから出てきたから・・・・」
今更チームには戻りすらづらいのだろう。
男もそれは察したようだ。
「しょうがないな・・・ラーメンをおごって貰ったことだし・・・格安のホテルを紹介してやるよ」
「え?いつ俺が奢ることに・・・・・・」
「じゃ、ここの支払いはまかせた。・・・・っと、まだ俺の名前を言ってなかったな。俺は国崎・・・・、国崎往人だ」
祐一が呆然としている間に往人はさっさと席を立ち、店を出てしまった。
「・・・・・うぐぅ・・・・・」
その後、レジで会計を済ませた祐一は結局往人の紹介した安ホテルで一夜を過ごした。
「ほら、早く行ってこいよ。マシンがなきゃレースはできないだろが」
「わかってるけど・・・・・さ」
翌日、祐一は往人と一緒にチームのところに戻ってきていた。
だが、祐一はいまだに渋っているようだ。
そんなとき、不意にモーターホームの扉が開いた。
「おかえりなさい、祐一さん」
中から出てきたのは秋子だった。
「あ・・・ただいま・・帰りました・・・・・あの・・・・」
「了承」
祐一は謝ろうとしていたが、それをさえぎって秋子はいつもの言葉で迎える。
その言葉で祐一はホッとしたような表情になる。
「他のみんなも心配してましたよ。あとでちゃんと顔を見せて上げてくださいね」
「はい・・・・」
「あんたが監督さんかい?実はちょっと祐一を借りたいんだが」
とりあえず話に区切りがついたようなので往人が本題の話を始めようとする。
「了承」
「「・・・・・・・・」」
話を始めるまでもなく一秒で了承された。
GSXの修理は完璧に終わっていた。
留美たちメカニックたちの成果である。
あの後、栞や名雪たちに賞金レースの説明をしたあと、祐一と往人はコースの下見にきていた。
「こんなとこでやるのか?」
今、祐一達がいるのは閉鎖された市街地だ。
「草レースだからな。お坊ちゃんレースの常識は通じないぜ。まあ、ついて来い」
それだけ言うと往人は自らのマシン―プロトジャガーを発進させ、祐一もそれに続く。
「スタートは閉鎖されたゴーストタウンだ。まずはここを走り抜ける」
『道幅が狭い。コース取りは慎重に』
往人の説明に続き、カノンのナビゲーションが続く。
「ああ、わかった」
『右90度カーブ接近。この後クランク状のコーナーが続く』
往人のプロトジャガーに続いて直角のコーナーを抜けていくGSX。
「見通しが悪い上に道は狭い・・・急に曲がったりもする。下手に追い抜こうとすると壁に挟み込まれるからな」
往人の説明に祐一は軽く息を呑む。
全開走行ではないとは言え、こんなところを走るのは初めての経験だ。
「次は廃工場に突っ込む」
市街地を抜けた2台はやや広めのストレートへと出る。
「工場!?」
「そう、廃棄された工場だ。中央に入り口が見えるか?そこに突っ込むんだ」
往人のいうとおり、前方の建物にはひとつだけ入り口があった。
『注意しろ。マシンが一台通れるギリギリの幅だ』
「い?って、うわっ!!」
見た目より狭い入り口に入り、祐一は冷や汗を掻く。
『路面不良。障害物多数。注意せよ』
工場の中は当然灯りはなく、ヘッドライトの灯りのみだ。
オマケに路面には大小さまざまなガラクタが転がっていた。
「注意せよったてなぁ・・・!」
「ごろごろしてんのは昔使ってたロボットとか作業用具だ。上手くすり抜けないとたちまちゴツンだぜ・・・!」
障害物を避ける為、こまめにステアリングを切る。
「む、無茶苦茶だなぁ・・・・」
「怖かったら今から帰ってもいいんだぜ?」
「こ、これくらい何ともないさっ」
「ククク、その意気だ」
工場を抜けるとすぐ目の前には桟橋が広がっていた。
「ちょ、ちょっと待て!?」
だがそれが普通と違っていたのは・・・・橋は開いたままの状態だったのだ。
「そして跳ね橋だっ・・・・!」
アクセルを踏み込む往人。
『危険。加速せよ」
「ちぃ!」
GSXも加速し、2台は開いたままの跳ね橋を駆け上がる。
そして・・・・飛んだ。
「お、おいぃぃぃ!!!!」
川を飛び越え向こう岸の橋に着地する2台。
「だあ・・・・・」
「あの跳ね橋は壊れてたな。少し持ち上がったまま止まっている。だからジャンプして越えるしかないって訳だ。失敗すれば川にドボンだ」
「そ、そういうことは先に言え!!」
「はははっ、悪い悪い」
全く悪びれた様子のない往人。
往人は間違いなく祐一の反応を楽しんでいた。
そして2台はゆるやかなカーブへと入っていく。
『あまり速度を出しすぎるな』
「なんで?こんなゆるいカーブなのに」
「そのコンピューターのいう通りにしな。このカーブは一見なんでもなさそうなこのカーブ・・・・これがまた曲者だ。
緩やかに平坦なカーブに見えるが実は下りで、しかも徐々にRがきつくなってる。
調子に乗って飛ばしてると気付いたときにはマシンが空飛んでるぞ」
GPXレースではありえないこのようなコースを当然、祐一にとって初めての経験だ。
「このコースを1チーム2台で10週してゴールした順のポイントで競う。2台ともゴールすることが絶対条件だから
実際には潰しあいのレースになるって訳だ。何か、質問は?」
「チームスタッフとかは?」
「それは今から調達に行くんだ」
「い、今から?」
「出払ってなきゃいいんだがな」
「・・・・・・・オイオイ・・・・」
祐一は不安を感じずにいられなかった。
日が暮れる頃、二人がやってきたのは、寂れた工場だ。
往人は祐一を引き連れその中に入っていく。
中にはガラの悪そうな男達がたまっていた。
「晴子はいるかぁ!?」
往人が大声で叫ぶと、奥から一人の女性が出てきた。
「なんやねん、いきなり人を呼び出して・・・・ん?居候やないけ」
「おまえは未だに居候呼ばわりするのか・・・・・」
いささか苦渋に満ちた表情になる往人。
「それはそれとしてなんの用や?」
「うむ、そうだった。実は儲け話を持ってきたんでな。またお前等の手を借りたいんだ」
「儲け話?」
晴子の目は往人から隣の祐一へと移る。
「紹介しておこう。今度のレースで俺と走る祐一だ」
「あ,相沢祐一です」
まるで品定めをしているかのような目つきだ。
「む〜、ま、ええやろ。あんたの目に狂いはないやろうしな」
晴子自身は祐一のことを頼りなさげに感じたようだが、往人のことを信頼するようにしたようだ。
「いつものように4人だ」
「観鈴!美凪!みちる!」
晴子が呼ぶと2人の少女+1が奥から出てくる。
「あ、往人さんだ。にはは、久しぶり」
「・・・・・・運命の再会・・・・・・・ぽ」
「にょわっ!変態誘拐魔だ!」
「うちとこの3人や。ま、いつものメンバーやな」
「・・・・・・・・・・」
さすがの祐一もこのようなメンツは予想していなかったのだろう。
多少は動揺しているようだ。
「よし、じゃあ、明日のレースの3時間前にはピットに来い」
「命令口調なのがひっかかるが、わかったわ」
とりあえずチームスタッフが決まったので二人はその場を後にする。
「これで準備は万全だ。あとは寝るだけだ」
「・・・はぁ・・・・・」
なりゆきでこうなったが、祐一は不安を隠せなかった・・・・というより募るばかりだった。
2002/3/20
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