新世紀GPXサイバーフォーミュラ Kanon

ROUND5「旅立ち」

 

 

 

 

 

「連絡が・・・・とれない?」

秋子から祐一の両親と連絡がつかないという知らせを祐一が聞いたのは富士岡GPX翌日のことだった。

「姉さんと義兄さんはしばらくイギリスを離れるそうなの・・・・」

「そんな・・・・どうして?」

モーターホーム内にいるのは秋子と祐一のみ。

一瞬、秋子は躊躇うような表情を見せるがやがてその口を開く。

「あのカノンは義兄さんが何年もかけて完成させたものなのよ。

そしてそのサイバーシステムは従来のものとは全く違う新しいもの。そのことは祐一さんが一番実感しているでしょう?」

その言葉に無言で頷く祐一。

サイバーシステムとしての完成度はもとより、人とコミニュケーションをとる能力は他のサイバーシステムの追随を許さないほど高いものだ。

通常のシステムは機械的に受け答えするだけだが、カノンのソレはまるで人間と話しているのと変わらない。

「だけど、そのシステムを狙ってい人たちがいるらしいの」

「それじゃぁ、俺が来るときにカノンが狙われたのも・・・・・・」

「カノンのサイバーシステムが目的だったのよ。・・・・・これは今朝、義兄さんから届いたものよ」

そう言って、一枚の手紙を祐一に差し出す。

その手紙にはこう記されていた

 

 

今日、カノンを日本に送った。

こちらにある資料は残らず処分し、シャーシの製作に必要な設計図とデータは全てカノンのコンピューターに入れてある。

カノンをレースに活かして欲しい。

カノンがレースで活躍し、その能力が公開されれば連中もカノンを諦めざるを得ないだろう。

それまで私は夏美とイギリスを離れ、身を隠すことにする。

長かった夢がこれでようやく実現する。

秋子、祐一とカノンを頼む。

*注 夏美とは祐一の母、秋子の姉の名である

 

「・・・・・そんな」

「祐一さん・・・・・こういう言い方をしてはなんですけど、あなたがGPXを走っていくということは義兄さんのためにもなるわ。

そのことを頭の隅にでも覚えていてください」

「そう・・・・・・ですね」

祐一は自分の父の手紙を見つめながら、自分のこれからのレースへの決意をより強いものへと変えていった。

 

 

 

 

 

 

そして数日後、祐一達はワールドGPX第1戦が行われるアメリカへと旅立とうとしていた。

スノークリスタルの面々は飛行機で現地入りすることになっていた。

 

「あゆさん、名雪さん・・・これだけは譲れませんよ・・・・」

「・・・・・・・・勝負だよ」

「うぐぅ・・・・・ボクだって負けないもん!」

「・・・・・・・なあ、あいつら何やってるんだ?」

「・・・・・・・さぁ?」

祐一と留美がチケットを受け取りにいって帰ってくると栞、名雪、あゆの3人が

真剣な表情で睨みあっていたと思いきや、いきなりじゃんけんを始めたのだ。

「「「じゃんけんポン!」」」

「「「あいこでしょ!!」」」

三人ともなにやらとても真剣だ。

その光景を見て呆れる祐一と留美。

「三人とも祐一さんの隣の席を取り合っているのよ」

「どわぁっ!」

「わぁっ!」

二人の後ろには何時からいたのか、秋子が立っていた。

「あ、秋子さんいつからそこに?」

「今きたところですよ」

「び、びっくりした〜」

「あら、勝負がついたみたいですね」

3人のほうを見るとどうやら確かに決着がついたようだ。

栞がガッツポーズを取り、名雪とあゆがうなだれていた。

「フフッ、これも日頃の行いですねっ」

「うう〜、負けちゃったよ〜」

「うぐぅ・・・・・どうせボクなんて・・・・・」

勝負に勝ったらしい栞はご機嫌だ。

「大変ね・・・・・・・相沢君も」

そう言って祐一の肩にポンと手を乗せる留美。

「・・・・・・・・ハァ」

祐一は軽い目眩がした。

 

 

 

「うう〜、結局私なんて・・・うう」

名雪は飛行機の中でもいじけていた。

ちなみに席は窓側から祐一、栞。

後ろ一列が、真琴、美汐

横に通路を挟み、名雪、あゆ。

その後方に秋子、留美が座っている。

あの後、祐一の後ろの席を巡って名雪、あゆの間で激戦が繰り広げられたのだが、

窓側の席に座りたいと言う真琴と付き添いの美汐も参戦し、名雪、あゆは惨敗。

「まぁまぁ、ほんの数時間の我慢だよ、名雪さん」

意外にも早く立ち直ったあゆは苦笑しながらも名雪を慰めていた。

「わぁ〜、見て見て美汐!地面がどんどん離れてくよっ!」

初めて乗った飛行機にはしゃぐ真琴。

そして、そんな名雪や真琴の様子を見た留美は

「・・・ハァ、なんか幼稚園の先生にでもなった気分だわ・・・・」

そう言って溜息をついていた。

 

「・・・・・・・」

そんな喧騒をよそに祐一はぼんやりと窓からの景色を眺めていた。

「どうしたんですか?なんか元気ないですね」

「いやぁ、なんか俺がGPXドライバーってのがなんか実感なくてさ」

「ふふっ、そうですね。サイバーに乗ったことがないのにいきなり初出場で入賞ですからね」

「まったくなぁ」

祐一の脳裏にはこの前の富士岡での出来事が甦る。

初めて経験したサーバーフォーミュラレース。

浩平とのデッドヒート、数日たった今でもはっきりした実感とはなっていない。

「あ、そういえば私のお姉ちゃんもレースをやってるんですよ」

「へぇ〜栞には姉さんがいるのか。で、今はどうしてるんだ?」

祐一が何気なく聞くと栞の表情は暗いものに変る。

「実は昨日、お姉ちゃんが所属していたチームから連絡があって、今期の契約にも来なかったらしいんです。

アパートも引き払っていたらしくて・・・・・連絡がつかないんです」

「・・・・・・心配するなって、便りが無いのは元気な証拠って言うだろ?きっと元気にしてるさ」

祐一の言葉で栞の表情に明るさがもどる。

「ところで栞の姉さんはなんて名前なんだ?」

「名前ですか?香里、です。美坂香里。あ、写真もあるんですよ」

「・・・・・香里?」

それを聞いた祐一の表情が僅かに怪訝なものに変わる。

だが、栞はその変化に気付かず、ロケットの中の写真を見せる。

その写真には栞とウェーブのかかった髪の少女がいた。

それを見て祐一の表情が固まる

「・・・・・・・・・香里?香里が栞の姉さん?」

「・・・・・祐一さん?どうかしたんですか?」

そんな祐一の態度に栞も多少の疑問を抱いたようだ。

「レーサーで、名前が美坂香里・・・・・俺、会ったことあるぞ・・・・」

「・・・・・・え?」

「間違いない・・・この写真と同一人物だ」

「ええええ!!!」

今度は栞が驚く番だった。

「親父に紹介されて会ったのが半年ぐらい前だったかな?

レース関係のことで親父と知り合って、それで俺とも知り合いになったんだ」

「びっくりですね・・・世の中は狭いです」

「まったくだ。まさか香里と栞が姉妹だとは思わなかったよ」

その後も二人は香里の話題などで盛り上がっていた。

栞のほうは何年も直接会っていない姉の話を祐一から聞いてとても嬉しそうにしていた。

 

 

 

「やっと着いたよ〜」

「ボク、アメリカに来るの初めてだよ〜」

「えぅ〜、太陽の光が眩しいですー」

「あはっ、アメリカ、アメリカーっ!!」

「う−ん、アメリカの陽光の中で穏やかに微笑む・・・・・・乙女にしかなしえない特権よね・・・・」

空港に着くなり名雪、あゆ、栞、真琴、留美は嬉しそうにはしゃいでいる。

「やれやれ、名雪の奴やっと機嫌を直したみたいだな」

「ふふ、そうですね」

名雪は結局あの後、すぐに寝てしまったのだ。

無論、飛行機が到着したときに名雪を起こすのに苦労したのは言うまでも無い。

「今度からは船で行きましょうか?」

船ならば基本的に寝る時以外は一緒に行動できるので今回みたいなことはないだろうと思ったからだ。

「去年は船で行ったんですけど、名雪は船に酔っちゃったんですよ」

「・・・・あいつは・・・なんでサイバーのレーサーが船酔いを起こすんだ・・・?」

F−1などに比べればサイバーはマシンの振動などは少ないほうだが、

レースともなれば船など問題にならないぐらいの負担がかかる。

レースは平気なくせに船酔いするとはいかにも名雪らしいと祐一は思った。

「ところで連絡はまだ来ないんですか?」

ワールドGPX第1戦はアメリカで行うことは伝えられているが、

詳しいコースの場所などはレース直前まで知らされていないのだ。

一年で十戦のうち、どういうコースでポイントを稼げるマシンに仕上げるかをシーズンが始まる前に決めなければならない。

それゆえサイバーフォーミュラレースは「マシンのトライアスロン」とも言われている。

「そろそろ連絡が来る頃じゃないかしら。美汐ちゃん、どうですか?」

「ええ、今チェックしてみます」

美汐がトランスポーターのコンピューターにアクセスすると、サイバーフォーミュラ連盟からの連絡が入っていたようだ。

「今回の開催地はグランドキャニオンのようです」

「そう、じゃ早速出発しましょう。祐一さんは今からコースの攻略ポイントをレクチャーしますからね」

「え?今からですか?」

祐一は初めてアメリカに来たのだから景色を楽しみながら現地入りするものだと思っていた。

「ええ、そうです。レースは今このときから始まっていますからね」

祐一は何かを言おうとしたが、秋子の手に握られたオレンジ色の物体が入ったビンが目に入る。

「いいですね、祐一さん?」

「・・・・・・はい」

祐一は素直に従う以外、道は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2002/1/30

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