リリカルブレイカー

 

 

 第45話 『その身を持って罪を贖いなさい』





 赤と闇色の転移魔法陣から現れたのは、残る二人のマテリアル――シュテルとディアーチェだった。
 まずい。アホのレヴィ一人ならなのはで対応できたかもしれないが、この二人まで出てきたら始末に負えない。
 なのはもさっきまでと打って変わって、厳しい表情で二人の出現を見つめていた。

「王様ー、シュテるんー!見て見てー。ちゃんとこいつら見つけたよー!褒めて褒めて!」

 どうする。どうやってこの場を切り抜ける。戦っても勝ち目はない。
 考えろ。どんな方法でもいい。なのはやすずか達を逃がす方法を。って、そうそう思いつけば苦労なんかしねぇ!
 テンパりながら思考を回転させるうちに、シュテルとディアーチェは俺達とレヴィを睥睨する。
 レヴィ、なのは、すずか、アリサ、そして最後に俺へと視線を送るシュテルの目つきが鋭くなる。

「その身を持って罪を贖いなさい」

 シュテルがデバイスを高々と掲げて、ポツリと呟く。

「くっ!?」
「だめぇっ!!」

 この位置ではなのはは間に合わない。
 無駄とは知りつつも、せめてもの抵抗にと翼を広げ、すずか達から離れるように跳ぶ。
 そして解き放たれる紅き光の奔流。

「なんで―――っ!?」
「え」

 シュテルが撃ち放った砲撃。それは寸分違わずレヴィを直撃し、吹き飛ばした。
 俺もなのはも。目の前で何が起きたのか理解できず、無防備な状態でただ見ていることしかできなかった。

「このアホウがっ!貴様の頭は空っぽか!?何の為に我らがこんなところまで来たか忘れたか!?」

 ディアーチェが吹っ飛んだレヴィをキャッチし、ガクガクと襟元を掴んで揺さぶる。

「え?えーと…………ハッ、しまった!あいつの間抜け面見たらイラッとしてつい忘れてた!?」
「…………」

 無言でレヴィの頭をはたくディアーチェ。なんだ、このコント。というか間抜け面っていうのは俺のことか、おい。

「レヴィがご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
「あ、いや、えーと……」

 ふわりと俺の前に着地し、スカートをちょこんと摘まんで頭を下げるシュテル。ちょっと目の前の事態に頭が追い付いていかない。
 あ、でもこのポーズのシュテルはちょっと可愛い。

「ど、どういうことなの……?」

 遅れてなのはもふわりと着地し、困惑した顔で俺に聞いてくる。だから俺が知るか。

「私たちに戦う意思はありません。少し長くなりますが、話を聞いてもらえますか?」
「…………」

 俺となのはは互いに困った顔を見合わせる。
 そこへ鳴り響く、ぐ〜っという音。

「…………」

 無言のまま音の発生源へと目を向ける。

「うぅ〜。王様ー、シュテるんー、お腹減ったよー」

 盛大に腹の虫を鳴かせて、へなへなと座り込むレヴィの姿あった。
 またか。またこのパターンか。あれか、フェイトの遺伝子は俺の前で腹ペコになる因子でも持ってるのか、おい。

「……とりあえずクロノくんに連絡しよっか」
「……だな」

 なのはの言葉に頷く。
 こいつらが俺らを殺る気なら、すぐにやれるはず。それをこうして話し合おうと言うなら拒否する理由はない。どうせ戦ったら負ける。
 この様子ならすぐにどうこうされる危険はなさそうだ。
 何が目的なのかはさっぱりだが、とりあえずクロノ達やヴォルケンリッターを呼ぶのが先決だろう。
 っと、その前に。

「すずかとアリサは怪我ない――」
「怪我してるのはあんたでしょう!人の心配する前に自分の心配しなさいよ!」
「そうだよ!早く病院行かなきゃっ!血が一杯でてるんだよ!」

 おう。言われてみれば絶賛、頭から出血中でしたね。
 気を抜いて自覚した途端、頭がくらくらしてきた。貧血だ、これ。
 とりあえず二人ともちょっとコートとか汚れてるくらいで怪我はないようだ。

「なに、これくらい問題ない。ほっとけば治る」

 頭ってのは出血が派手だと聞いた気がする。見た目ほど大した怪我じゃないだろう。多分。
 これ以上心配かけるわけにもいかないので、適当に嘯く。

「なんだったら吸うか?」
「……す、吸わないよ!それより早く病院!」

 今の間は何でしょうか、すずかさん。あれ、夜の一族って血、吸うんだっけ?まぁ、それは置いてといて。

「病院はちょっとな……」

 ちらりと視線をマテリアル達に向ける。流石にこいつら込みで病院行くのは躊躇われるし、かといってなのはに任せきりなのも気が引ける。
 いや、俺がいても役に立たないのはわかってるんだけどさ。

「じゃあ、うちに来て。輸血用の血液もあるし、ノエルならちゃんと怪我の手当てもできるから」

 こっちの事情を察してくれたらしいすずかがそう提案しつつ、すでに携帯を取り出して電話していた。
 もっかい視線をマテリアル達に向ける。

「ご心配なく。そちらに危害を加える気はありませんから。王やこの子にも絶対に手出しはさせません」

 と、言われても前回あれだけフルボッコされた挙句、ついさっきも攻撃を食らったばかりなんだがな。
 まぁ、現状考えると信じるしかないんだけど。

「これ以上巻き込みたくないんだが……」
「もう十分巻き込まれてるわよ!ちゃんと納得のいく説明してもらうまで、帰らないからね!」

 そう言いつつ、アリサがハンカチを俺の額に押し当ててこようとする。

「バカ、汚れるからいいって。こんなのほっとけば治るって」
「よくない!いいからこれくらいさせない!」

 いやいや、お嬢様のハンカチが血染めのハンカチになるとかやだよ、俺。洗っても落ちないし、代わりのハンカチとか買ってプレゼントもやだって。
 逃げようとしたところで足元がふらつく。

「あ」

 と気付いた時には足から力が抜け、一気に視界が暗転した。
 このまま倒れるかな、と思ったところで後ろから抱き止められる感覚。

「あまり無理はいけませんよ」

 この声はシュテルか。
 無理させたのはどこの誰だよ、と心の中で毒づきながらも動けない。

「ゆーとくん、ここはすずかちゃんの言うとおりにしよ?」
「もう少ししたらノエルが迎えに来てくれるから」
「……その間の説明は全部まかせた」
「ええっ!?」

 なのはの驚く声をよそに、ゆっくりと仰向けに寝かせられ、頭が何かに乗せられた。
 しばらくして額に布らしきものを押し付けられる。
 視界が戻ってくると、予想通りアリサがハンカチを押し付けていた。

「……ありがとう」

 文句を言うわけにもいかず、素直に礼を言っておく。

「いいわよ、別に。本当あんたってば、変なとこでこだわるわよね」
「それはよく言われるな」

 俺の額にハンカチを押し付けるアリサと、それを心配そうに見てるすずかとなのは。
 後ろでは「お腹減ったよー」と「やかましい!もう少し我慢せぬか!」というやりとりが聞こえる。

「変わりましょうか?」
「別にいい。というかあんたたちは一体何なの?」

 と、頭上でのやりとり。
 少し視線をずらせばシュテルの顔が見えた。
 あれ、もしかして俺シュテルに膝枕されてる状況か。
 本当になんだ、この状況。

「この人の娘です」
「ちょっと待てぃっ!」

 シュテルがとんでもないことを言い出したので思わず突っ込んだ。
 シュテルは何か間違えましたか?という感じにちょこんと首を傾げる。

「真顔で出鱈目を言うな!」

 アリサもすずかもなのはも目が点になってるじゃねーか!

「間違ってませんよ?あなたの魔力を元にして私たちは人の姿を与えられたのですから」
「それならそう言え!過程を色々省くな!思わず声に出して突っ込んじまったじゃねぇか!」
「大声を出すと傷に響きますよ?」

 …………余りにも淡々としたシュテルの対応に、なんかもう色々とどうでもよくなってきた。

「なのは、アリサとすずかに説明」
「う、うん」

 迎えのノエルさんが来るまでの間、どうしてこうなったと何度も自問自答を繰り返さずにはいられなかった。







「……あー、まぁ、なんというか」

 ノエルさんに手当してもらい、案内してもらった部屋に通された俺はなんとも言えない気持ちで目の前の光景を眺めていた。
 本当にどうしてこうなった。
 テーブルに並べられた料理が次々に消えていく。
 ファリンさんが料理を並べる傍から消えていく光景はまさに圧巻の一言に尽きた。
 一体小柄な体のどこにそんな入るのか。レヴィだけでなく、シュテルもディアーチェも物凄い勢いで料理を平らげていた。
 俺だけでなく、忍さんを含めた他のみんなも呆然としている。

「どんだけ飢えてんだ、おまえら」
「今までいたところはロクに食ベる物もない世界ばかりだったもので」
「はぐっ、んっ、この世界に着いたのだってついさっきだったんだよ、はぐはぐっ、王様!シュテるん!これも美味しいよ!」
「ええぃ、食事ぐらいもっと静かに食わんか、愚か者!」

 治療中に奮い立たせた警戒心とか敵意とかが、物凄い勢いで萎えていくのがわかる。
 マテリアルって飯食わないと死ぬのか?ヴォルケンリッターはどうなんだっけ?うん、わからん。まぁ、もうどうでもいいや。
 遠慮しろと突っ込むのも面倒になってきた。素なのか計算なのか。……どう考えても前者にしか思えないから困る。
 大丈夫?と聞いてくるなのは達に、大丈夫だと返しながら、マテリアル達の食事を投げやりな気持ちで見守る。
 クロノとリンディさん達がこちらに来るまで三十分ほどかかると言ってから、もうそろそろか。
 忍さんに食費を請求されたら、管理局に丸投げしようと心に決めつつ、こいつらの目的を考える。
 一番ありがちなこの前の仕返し……と思ったが、この状況ではそれも怪しい。
 じゃあ、他に何があるかというと、管理局の保護を受けにきた……って、こいつらの性格考えるとそれもない気がする。
 そもそも俺はこいつらに関して知ってることが少な過ぎる。
 満腹になった途端襲ってきたらどうしよう。クロノ、早く来てくれー。

「おかわり!」

 レヴィが空になった皿を突き出してくる。

「ちったぁ遠慮しろ」
「あはは。おかわりはいっぱいるから大丈夫ですよー」

 ファリンさんはメイドの鏡ですね!うちにも欲しい。嫁でもいい。

「いっただきまーす!」

 そしてレヴィは俺の言葉など聞いてすらいなかった。

「御馳走様でした」
「うむ、なかなかに美味であったぞ。褒めてつかわそう」
「シュテルはともかく、タダ飯食らってふんぞり返るおまえは何様だ」
「決まっておろう?我こそが王よ!」

 無い胸を張ってドヤ顔の王様に外を指差して言う。

「帰れ」
「いやいや、ダメだよ!?クロノくん達来るまで待たないと!」

 レヴィが満腹になった頃、ようやくアースラが到着するのであった。





 忍さん達に丁重にお礼を述べ、アリサとすずかを含め、後日改めて事の顛末を話すと約束し、俺達はアースラへ。
 療養中のはやてとリインフォースを除いたヴォルケンリッターと、クロノ、リンディさん、そして俺となのはでマテリアルたちの話を聞いていた。

「つまり話をまとめると、あなたたちは前の戦いのダメージで自力で魔力を補給することができなくなったから、私たちにどうにかしろ、と。そういうこと?」

 リンディさんの言うとおり、シュテル達の話を要約するとそういうことだった。
 正式な手順を踏んで闇の書システムから切り離されたシグナムと違い、マテリアルたちは闇の書システムと繋がったままの状態だった。
 その状態で闇の書システムことフェリクスが消滅してしまった結果、マテリアル達のプログラムに異常をきたし、自力で魔力を補給できなくなってしまった。
 わかりやすい例えをするならゲームのセーブ中に電源切られて、セーブファイルが壊れたとかそんなイメージか。
 このままでは存在を維持することも難しいため、それをどうにかするために俺達のとこへやってきたと。

「まぁ、そういうことだ。貴様らの力を借りるのは我としても非常に不本意ではあるがな」
「そのまま消えてしまえ」

 無駄に態度のでかいディアーチェにボソッと言い放つ。
 人の力を借りに来たのなら、もっとそれらしい態度を取れと。
 俺の一言にディアーチェが剣呑な瞳を向けて来るが、今の奴らはアースラに乗船する前に、魔力の封印処置を受けている。恐れる理由など何もない。

「ゆーとくんっ!」

 なのはが怖い顔で睨んでくるが、俺はそれを無視して言い放つ。

「俺はこいつらのせいで痛い目に遭ったんだぞ。こんな態度で力を貸せって言われてもな」

 自分でも大人げないと思わなくもない。が、なのはのように過ぎたことだからと言って、無条件に許せるほど人間ができてない。
 こいつらが直接の原因ではないが、フェイトが魔法を使えなくなった原因の一端を担っているとも言える。
 そう思うと萎えかけていた敵意も再び沸いてくる。

「ねぇねぇ、シュテるん。こいつ人間ちっさいよ」
「やかましいわ!」
「だって、しょうがないじゃんかー。あの時は僕たちは生まれたばっかだったし、主に逆らうことなんてできなかったんだんだもん」
「……む」

 声を荒げる俺に、レヴィは眉根を寄せ、頬を膨らませながら口を尖らせる。

「って、ついさっき俺ぶっ飛ばされたばっかりだぞ、おい」
「あれは、え、と、その……つい、カッとなって。ごめんね!」

 てへ、と笑って舌を出すレヴィ。反省してないだろ、おまえ!

「ごめんで済んだら管理局はいらんわ!」
「重ね重ね申し訳ありません。この子には私からよく言って聞かせますから」
「シュテるん!いたひいたひ!」

 シュテルがレヴィの頬を外側に引っ張りながら、頭を下げる。

「少なくとも今の私たちに敵意はありませんし、今後も管理局の法を犯すつもりもありません。そこは信じていただけませんか?」

 まぁ、これまでのやりとりを見る限り、確かに悪意はないんだろうけどさ。

「主であるフェリクスを倒されたことに対して、あなた達に遺恨はないの?」
「……イコン?」

 リンディさんの質問に首を傾げるレヴィ。アホの子には難しい言葉だったらしい。
 リンディさんはその様子に苦笑しながら、わかりやすい言葉で説明し直す。

「私たちを恨んだり、怒ったりしてないかってことよ」
「うーん、あの時はやられたことにムカついたけど今はそんなでもないよ?」
「確かにフェリクスは我らを生み出した主ではある。が、だからといってそこに忠誠や情などありはせんよ」
「あなた達と戦ったのも、主に従うことをプログラムで定められているが故。私たち個人としては、あなた方に敵対する理由はありません」
「そういうものなの?」

 リンディさんがマテリアル達ではなく、騎士達に問いかける。

「はやてより前の主に関しては大体同じ意見だな。ムカつく奴らばっかりで、そいつがやられたからって敵討ちしてやろーだなんて露ほども思わねーよ」
「ヴィータの言うとおりです。主に従う義務はあっても、忠誠や親愛を抱くことはまずありませんでした。主はやてが特別なのです」

 守護騎士達の扱いは相当に酷かったらしいから、シグナム達の言葉にも頷ける。
 だとしたらマテリアル達の言葉もある程度は信用してもいいのかもしれない。話してる限りには世間知らずの子供っぽいし、フェリクスとの交流もゼロだったろうし。
 ただし。

「その割には、随分と乗り気で戦ってたように見えるが」

 クロノの言葉に俺も頷く。あれを「単に強制されたから戦いました」、で済ますのは無理があるだろう。

「はい。拒む理由もありませんでしたから、思いっきりやらせていただきました。あなた方との戦いは実に有意義な時間でした。近いうちにまた手合わせを願いたいところですね」

 したり顔で答えるシュテル。オリジナルと同じで実に戦闘民族な思考回路ですね!

「だってよ、なのは」
「うん。喜んで」

 ……てっきり断ると思ってたけど、オリジナルも完全に同じ思考でした。
 アースラが来る前に少し話してたみたいだし、こいつん中じゃもうシュテルと友達なのかな。
 シグナムとの戦いはガチだから嫌と言っていたが、シュテルの場合は違うような印象でも受けているのか、似た者同士で妙なシンパシーでも感じているのか。

「ふん。レヴィやシュテルはともかく、我としては貴様らに受けた借りを数百倍にして返しやりたいところではあるがな」

 剣呑な目つきでこちらを睨んでくるディアーチェの言葉に場の雰囲気が緊迫に包まれる。
 こちらもに、負けじと睨む返すが、ディアーチェはそれを鼻で笑い流し、口を開く。

「本来なら貴様らまとめて血祭りにあげてやるところだが……」

 そこまで言って、一瞬だけレヴィとシュテルに目を馳せたディアーチェは静かに息をつく。

「この二人を消滅させるわけにはいかん。王として臣下を守る責務があるからな」
「へぇ……」

 意外だ。思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
 こんな傍若無人が服着て歩いてるような奴がちゃんとシュテルとレヴィのことを考えているとは。

「王様……優しい!凄い!格好良い!」

 見れば、レヴィがうるうると涙ぐんだ目でディアーチェを見ていた。無表情のシュテルもそこはかとなく嬉しそうにディアーチェを見つめていた。
 つーか、この場のほとんどの面子が微笑ましそうに、あるいは生暖かい目でディアーチェを見つめていた。
 そして自らの失態にハッと気付くディアーチェ。

「か、勘違いするなぁっ!これはあくまで王としての責務で、別にシュテルとレヴィがいなくなったら寂しいとか困るとかそういうことでは断じてないぞ!」

 語るに落ちるとはこのことか。
 ここまでテンプレ通りのツンデレをやられると、かえって清々しい。
 俺は突っ込み代わりにこれでもかというくらい生暖かい視線を送ってやった。

「うがああああああぁぁぁっ!そんな目で見るなぁっ!」




「で、結局君らは僕たちに何をどうして欲しいんだ」

 ディアーチェが一通り落ち着いた後で、話を再開するクロノ。
 魔力封印してなかったら大惨事になってたかもしれん。

「ふん!簡単なことだ。我らと契約して下僕になれ!」
「お帰りはあちらです」

 偉そうにふんぞり返ったディアーチェに丁寧に出入り口を誘導してやる。

「くっくっく、まぁそう遠慮するな。貴様ごときが我が末席とは言え、我が臣下になれ……って帰るなぁ!?」

 一通りマテリアル達のことはわかったので、後は終わってからクロノに話聞けばいいやと思って、一人退席しようとしたら物凄い勢いでディアーチェが追ってきた。

「や、もう俺必要なさそうだし。じゃ、そゆことで」

 とりあえずこいつらが根っからの悪人とかじゃなくて、分別のついてないだけの子供だってのはわかった。あとはリンディさんに任せとけば問題ないだろう。

「だから待てぃっ!貴様がいなくては話にならんだろうが!」
「えー?」
「えー?じゃない!元はと言えば貴様と雷のチビの一撃が全ての元凶だろーがっ!?あの攻撃が一番我らのプログラムにダメージを与えたんだぞ!?ちゃんと責任とれぇぇぇっ!」
「だって下僕とかやだし」
「何が不満だ!王たる我の手となり足となり尽くせるのだぞ。栄光の極みではないか!」

 おまえは栄光という文字の意味を辞書で調べるか、ググれ。

「だが断る。主なら考えてやらんこともないが、下僕なんぞ真っ平御免だ」

 なにが悲しゅうてこんな幼女の下僕にならなにゃいかんのだ。俺にとってのメリットなど何一つない。
 尽くされるのは大好きだが、こんなのに尽くすのなんて嫌だ。
 相手が美人でおっぱいでかくて優しいお姉さまならまだ考えないこともない。

「主?ロクに魔導も使えん塵芥風情が?……ハッ」

 おもいっきり馬鹿にしやがったな、こんにゃろ。

「こひゃ!きひゃまなんのつもひだ!はなひぇ!いたひ!いたひ!」
「おー、よく伸びる伸びる。いくら王様でも自分の立場を弁えるってことは覚えとかないといけないぞー」

 ちょっとムカついたので両頬を引っ張ってやる。
 暴れるディアーチェだが、魔力を封印された幼女など何するものでもない。

「貴様ぁっ!後で覚えていろよ!!」

 程々にして解放してやると、そそくさとシュテル達の後ろへと逃げた。ふはは、可愛いものよのぅ。

「ゆーとくん、あんまり女の子をいじめちゃ駄目だよ」
「なのはさん。私めはさっきの百億倍は痛い目に遭っておるのです。あの位は許されて然るべきだと思うのですよ」
「うん、確かに」
「至極当然の権利ですね」
「貴様らが頷くな、馬鹿者ぉっ!」

 頷くレヴィとシュテルに突っ込むディアーチェ。いいトリオだな、おまえら。

「っていうか俺じゃなくてもいいだろ。リンディさんに適当な人見つけてもらえよ」

 要は使い魔と同じで魔力供給とかのラインを結ぶってことだろう。
 なのはとか立候補しそうだし、大丈夫だろう。

「いえ、それは難しいかと」

 シュタッと手を挙げて答えるシュテル。

「自慢になりますが、私たちは並の使い魔とは比較にならない程優秀です。ですから契約者にかかる負担も並大抵のものではありません。並みの魔導士では、まず耐えられないでしょう」

 自分で優秀とか自慢するあたり流石ですね、シュテルさん。でも戦闘力はともかく他の面は色々アレなんじゃないだろうかと思わなくもないけど、ここは黙っていよう。

「私とかでも?」
「あまりおすすめはしません。普段の行動には支障はでないでしょうが、全力での魔法戦闘にはそれなりに支障をきたすと思います」
「……流石にそれは負担が大きすぎやしないか?」

 クロノの言葉に頷く。なのはクラスでも支障が出るとかどんだけ燃費悪いんだ。

「元より本来は想定していないイレギュラーな手段ですから仕方ありません。例え人の手を借りたとしても、消滅を免れる手段が見つかっただけ御の字と言えるでしょう」
「おんの……じ?」
「後で辞書引きなさい」

 首を傾げるなのはにピシャリと言い放つ。

「さすがになのはさんクラス以上でこの子達と契約してくれそうな人を探すのは、難しいわね……」
「正直に言うと、私たちの魔力残量もあまり余裕はありません。このまま契約者が見つからなければ消滅まであと二週間ほどでしょうか」

 リンディさんとシュテルの言葉に、必然的と俺に皆の視線が集中する。
 まー、俺ならどうせ契約していようがいまいがロクに魔法は使えないしな。
 こいつらと話すことで、根っからの悪人じゃないということもわかった。演技とか計算じゃなければだけど。

「どうか私たちと契約を結んでいただけませんか……?」

 可愛らしく小首を傾げるシュテルの視線が真っ直ぐに向けられ、レヴィとディアーチェも僅かながら緊張した面持ちでこっちを見てくる。
 こいつらにされたことを鑑みても、これから悪事を働かないと言うなら消滅という末路は可哀想だと思うし、なんとかしてやりたいとも思う。

「もう人に迷惑かけるようなことはしないって誓えるか?」
「誓います」
「誓う誓う!」
「……誓ってやる」

 シュテル、レヴィ、そして渋々ながらもディアーチェも頷く。どこまで信用したらいいかは怪しいとこだが、魔力封印してあれば当面は大丈夫だろう。

「30分くらい考えさせてくれ」
「えーっ!?」
「はぁっ!?人に誓わせておいてこれかっ!?ふざけるな、今すぐここで契約しろぉっ!」
「……だから、おまえらは人にものを頼むときのその態度をどうにかしろって」

 大声を上げるレヴィとディアーチェに嘆息しながら、部屋の出入り口へと向かう。

「どこ行くんだ?」
「散歩」

 クロノの問いに振り向くことなく答え、ギャーギャーうるさいディアーチェ達の声を無視して部屋を後にする。
 向かうはエイミィさんのいるであろう、通信室。




「というわけなんだけど、フェイトとしてはどう思う?お前が魔法を使えなくなった奴らの一端はあいつらにもあると思うんだけど」

 そもそもの元凶が俺というのはひとまず置いといて。
 エイミィさんに頼んで、ミッドのフェイトと話をさせてもらっていた。
 あいつらと契約を結ぶのなら、まず一番の被害者であるフェイトに話を通すのが筋だと思ったからだ。
 万が一、いや億が一?フェイトがあいつらとの契約に難を示すようなら、契約しないつもりだった。
 まぁ、絶対にそんなことがないのはわかりきっちゃいるんだけど。

『ゆーとはどう思ってるの?』
「先にお前から教えてくれ」

 俺がそう言うと、フェイトはくすりと笑って。

『ゆーとがあの子たちのことどう思って、どうしたいのか教えて欲しいな。お願い』

 両手を合わせ、くいっと可愛らしく小首を傾げて言うフェイト。

「無駄にあざといな」

 どこで覚えたそんなの。微妙にキャラ違くないか。
 俺が突っ込むと、見る見る間にフェイトの顔が真っ赤になり、シュンとなっていく。

『す、すずかに教わってやってみたんだけど、やっぱりダメだった……かな?』
「何を教えとるんだ、あいつは……」

 思わず額を抑える俺の傍らで、エイミィさんがクスクスと笑いを零す。

「いやいやフェイトちゃん、今のは可愛かったよー。どんどんやってこー!」

 あなたも無駄に煽らないでください。

「まぁ、無理はしない程度にな。で、俺がどう思ってるかだけど」

 前に自分で言うこと聞くって宣言した手前、フェイトにお願いされたら断るわけにもいかない。
 思っていることを正直に話すことにした。

「そうだなぁ。良くも悪くもあいつらはアホだ」
『あ、あはは……』

 アホの部分を強調しながらきっぱり断言した俺にフェイトは苦笑する。

「生まれたてで、単純に物事を知らないと言うか善悪の区別ついてないと言うか子供なんだろうな。まぁ、根は悪い奴じゃなさそうだから、なんとかしてやりたいと思ってる」
『うん、ゆーとならそう言うと思った。私も同じ考えだよ』
「おーおー、二人とも通じ合ってるねー」
「誰でも大体同じ考えだと思います」
『だよね』

 茶化すエイミィは二人でさらりと受け流す。

「じゃあ、そういうことで」
『でも、アルフの魔力もお願いしてるのに、マテリアルの三人まで契約して大丈夫?』

 アルフとは、フェイトが目を覚ました日のうちに魔力供給の契約は済ませている。主はフェイトのまま、魔力の供給だけ俺という形だ。
 フェイトは計四人分の魔力負荷が俺の負担にならないかどうか心配しているのだろう。

「へーきへーき。魔力の大きさだけが取り柄だからな。後はリンディさんにお任せだし」

 魔力を供給した後のことはリンディさんに全部丸投げする所存だ。小学三年じゃ、お子様三人の身の上をどうこうできないし。はやては特例。
 あいつらが今後、どんな道を選んでいくつもりなのかは知らないが、リンディさんに任せれば悪いようにはしないだろう。
 犯罪行為に手を染めないのなら、後はあいつらの自由だ。何をするかは全く想像つかないが。
 もしかしたらフェイトと同じようにハラオウン家の養子になるかもしれない。
 そうなったらそうなったでクロノの顔が見物である。自然と頬が緩むのも仕方ない。
 って、こっちのフェイトはプレシアが死んだらどうするつもりなのだろう。少し気になったが、プレシアが生きている今、それを聞くのは流石にデリカシーがないので自重する。

『そっか。後でどうなったのか教えてね』
「それは俺よりエイミィさんとかに聞いたほうがいいと思うけど、まぁ、わかった。あんまり待たせすぎてもうるさいだろうし、そろそろ行くよ」
『うん、頑張ってね』
「おまえもな」

 何を頑張るのかはよくわからんが。






「で、契約を結ぶのはいいけど、俺らに危害を加えない保証はあるのか?」

 部屋に戻って契約する旨を話すと、すぐに契約しようということになって、場所を広い訓練室へと移した。

「そう言うと思いまして、契約の術式に組み込み済みです」
「術式は既にこちらで検証済みよ。魔力供給の他には、契約者に危害を加えないこと、契約者の意思で任意に契約を破棄できるってことかしら」
「魔力以外で君に負担や危害を及ぼすようなことがないのは保障する。安心して契約するといい」

 シャマルだけなら疑うところだが、クロノがそういうのなら大丈夫だろう。
 こいつらが悪巧みをした時の抑止力としては弱い気がするが、ここら辺がお互いの歩み寄れるボーダーラインみたいなもんだろうか。
 契約者による命令は絶対強制とか組み込んだら、ディアーチェ辺りが猛反発しそうだ。まぁ……大丈夫、なのかな。ちょっと不安だ。
 フェイトと話していた間に検証が済んだってことは、俺が契約することを完全に見透かされたようでちょっと癪だけど。
 他にも何か色々聞いておくことがあるような気がするけど、まぁ、後でいいか。
 さっさと契約を済ませよう。

「もう一度言っとくけど、二度と俺や俺の仲間に手を出すようなことはするなよ。そんときは即契約破棄して塵も残さず消滅させるからな」
「はっ、魔力しか取り得のない塵芥風情が吠えよるわ。その言葉そっくりそのまま返そう。レヴィやシュテルに仇なすならば、文字通り塵芥として葬り去ってくれる」

 契約の魔法陣の中央上で、ディアーチェと敵意全開にして睨みあう。

「意外に二人とも似た者同士?」
「「一緒にするな!」」

 なのはの呟きに俺とディアーチェの声が重なる。

「ハモった!」
「ぐっ」
「くっ」

 レヴィの楽しそうな声に、俺たちの悔しそうな声が続く。

「あはは、やっぱり似た者同士だ」
「これなら仲良くやっていけそうですね」
「……お前らは一度、脳をゆすいでこい」

 なのはとシュテルに向けて漏らした言葉は、他の面子の笑いを誘うだけだった。







■PREVIEW NEXT EPISODE■

マテリアル達を契約を結んだ勇斗。
だが、そこには思わぬ落とし穴が待ち受けていた。

勇斗『これは悪夢だ』




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UP DATE 12/5/13

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