リリカルブレイカー

 

第20話 『間違ってるのは俺じゃない』

 





 八神はやてにメールを返した勇斗は、行き先を変更し、歩きながら悩んでいた。
 闇の書事件をどう対応しよう、と。
 P.T事件で散々周りに迷惑をかけ、自らも酷い目にあったことを大いに自省し、闇の書事件には関わらないようにしようと考えた。が、すぐにそれは不可能だと悟る。
 問題の一つは、既に自分は八神はやてと友達になっていること。
 二人が出会ったのは去年の夏休み。遠峯勇斗、実は隠れた読書好きである。前の人生で通学に電車で一時間以上かけて通っていた彼は、暇つぶしの道具として 文庫本サイズの小説を愛用していた。新作の携帯ゲームなどを購入したときはその限りではなかったが、基本的に出歩くときには常に小説を持ち歩き、何かしら 時間が空けば本を読み耽る習慣が身についてしまっている。とはいえ、たかだが当時小学二年生でしかない勇斗に多くの本を購入するお金があるはずもなく―― お小遣いの大半はTVゲームやカードゲーム、プラモなどに費やしている――、学校の図書室や図書館などから本を借りることはそう珍しいことではなかった。
 八神はやてと出会ったのはいつものように図書館へ本を借りに行った時のことだった。
 自分と同い年くらいの車椅子の少女。肩にかからない程度の髪にバッテン状の髪飾りを見て、おぼろげに彼女が八神はやてだと気付く。
 初めて見た彼女は、自分の手がギリギリ届くかどうかという位置にある本を取ろうと、懸命に手を伸ばしていた。ベタベタというかテンプレ過ぎるだろと呆れ るのと同時に、こんなん現実にあるんだなぁ、と妙な感心をしながらその本を代わりに取ってやったのが、遠峯勇斗と八神はやての出会いだった。
 はやてに礼を言われながら、思わぬ原作キャラとの出会いにどうしたものかと逡巡する勇斗。このまま立ち去るか、思い切って話しかけてみるか。彼女の境遇 を知らなければ、迷わず前者を選んでいただろう。だが、彼はヴォルケンリッターと出会う前の彼女が、孤独に苛まれていたことを知っていた。同年代の友達と 交流がないのは、本人の自覚あるなしに関わらず、良いことではない。はやての正確な誕生日は忘れてしまったが、ヴォルケンリッターたちが現われるまであと 一年はあるはずだ。その間、年の近い友人のいない彼女の孤独は如何ほどのものであろうか。縁もなく、深い事情を知らなければ迷わず前者を選択できる。だ が、縁はなくとも自分はそれなりに事情を知っている。彼女にこれから起きるであろう出来事まで。結局、数秒悩んだ末に勇斗は後者を選択する。はやての境遇 に対する同情と、自分は所詮一般人であり、自分一人が彼女と友達になったところで悪影響はないだろうという認識の元、軽い気持ちで選んだ行動だった。

 幸い、というべきか。人懐こい性格のはやてと勇斗はすぐに意気投合し、それなりに仲良くなっていた。今年に入ってからは、月一度くらいの頻度で図書館で 待ち合わせ、そのままお互いの家に交互に遊びに行って、夕飯を食べる程度に。(勇斗の両親にははやての希望で、はやてが孤児だということは隠されている)
 この段階でA's開始前にヴォルケンリッターと顔合わせすることは既に確定済みである。
 ユーノと出会い、なのはと一緒にジュエルシード探しを始めたとき、そんなことはすっかり勇斗の頭から抜け落ちていた。というか無意識に考えないようにしていた。
 はやての心情、その他、一切合財を無視して立ち回れば、回避は可能かもしれないが、勇斗にそこまでの気概などありはしない。別のフラグが立つ可能性も大いに有り得る。
 もっとも、それだけならば大した問題にはならなかっただろう。ヴォルケンリッター達が蒐集を開始して、なのは達と事を構えたとしても、自分は戦闘力の無 さを理由として管理局側に協力しなければ良い。そうすれば、ヴォルケンリッターと知り合いということは誤魔化せるし、後は勝手に原作どおりのシナリオが進 む……はずだった。
 ――自身の魔力覚醒という最大の問題点がなければ。
 覚醒そのものが問題なのではない。なのはの三倍以上という自身の強大過ぎる魔力量が大問題だった。
 どのくらいのページが埋まるのかは定かではないが、もし、自身の魔力が蒐集されれば、闇の書の完成は大幅に早まるのは間違いない。はやてを助けるのに闇 の書の完成は不可欠なので、蒐集されること自体は問題ない。ただ、時期を誤れば、なのはとフェイト、片方が戦闘不能の時に闇の書が完成してしまえば。その 時の結果はあまり想像したくない。
 早い段階でヴォルケンリッターと仲良くなっておけば、自身が蒐集されることは防げるかもしれない。だが、いざ蒐集が開始されたとき、戦闘能力が無く、た だ魔力だけがでかい自分は、ヴォルケンリッターにとって格好の的と判断され、クロノたちに自分が保護されるのは間違いない、と思う。そうなれば否応なしに 関わらざるを得なくなる。自分が前線に出ることは無いだろうが、猫姉妹の介入も考えればどさくさに紛れて蒐集される可能性がないとも言えない。
 勇斗の考える限り、どう転ぼうとも闇の書事件に不干渉を貫くことは不可避であった。
 不干渉ができないならば、どう関わるのが最良か。迂闊な行動は最悪の結果を起こしかねない。例え、原作知識があったとしても自分が関わった場合の変化まで知ることは出来ないのだから。
 図書館までの道すがら、散々考え抜いた末に出した結論は、

「今日は考えるのやめよう」

 問題の先送りだった。
 どのみち、今はまだ五月半ば。はやての誕生日は六月の頭、まだヴォルケンリッターすら出てきていない。シグナム達が行動を起こす場合にしても数ヶ月の猶 予があるはずだ。はやてを監視しているはずの猫姉妹についても、自身が闇の書に気付いたような反応させ見せなければ、手出しはしてこないだろう。勇斗が未 来の知識を持ちえていることは、上には報告しないようにと、リンディから確約を得ている。多少は警戒をされているかもしれないが、猫姉妹にとって自分は、 闇の書の餌程度にしか見られていないだろう。

「なんというエサマスター」

 自らが口にした言葉に思いっきり落ち込む勇斗。図書館を視界に納めながら、せめて今日一日くらいはフェイトとの別れの余韻に浸ろうと心に決めるのであった。






「よっ、おひさ」
「ん。あぁ、ひさし……ぶりって、その腕どないしたん?」

 図書館内で本を読んでいるはやてを見つけ、声をかける勇斗。はやても読んでいた本から顔を上げて声を返すが、勇斗の右腕を見て驚きに目を見開く。

「階段で転んだんだ。六階から一階まで」

 皆が皆、同じような反応を返すので、勇斗の答えもまた慣れたものである。さりげなく階数が増えてたりするが。

「あー、ゆーとくんならやりかねんなぁ。気をつけんとあかんよー」
「……うん。気をつける」

 笑顔でしれっと言ってのけるはやてにどこかやるせない表情の勇斗だった。まだ本当のことを話す気は無いが、ボケをスルーされてもそれはそれで寂しいものがある。無論、はやてはわかっててやっていた。

「で、その腕、大丈夫なん?」
「それはもう全然。こもうすぐ外せるし」

 首を傾げる少女にその証拠にほれ、と三角巾につられた腕を軽く振ってみせる。

「ならええけど。最近顔見せへんかったのも、その怪我関係あるん?」
「あるような、ないような」

 どこからどこまで話したものかと、一考する勇斗。ヴォルケンリッターたちが出てくれば、魔法関係の話も平然と話せる。だが、それ以前に話すのは猫姉妹の手前まずいのではないか、と。
 勇斗自身は、アリサやすずか辺りには別にいつバレても構わないと考えている。その二人に魔法バレをしないのはあくまでなのはに止められてるだけで、それ がなければ適当な機会に話しているだろう。機会があれば。ゆえに今現在なのはと関係ないはやてには、いずれ魔法バレをする気満々であった。
 問題はその時期なのだが、いっそのこと考え無しの子供を装って早々に魔法バレしてしまうのもありかもしれない。後で何か対策をするにしても、こちらの評 価が低いほうがやりやすいだろう。それにいざ、ヴォルケンリッター達が出てきたときも、あらかじめはやて本人から魔導師――自分を魔導師と形容していいか は甚だ疑問が残るが――の友人がいることを伝えさせたほうが、無駄な警戒をされずに済むかもしれない。リンカーコアやデバイスがあるからといって、問答無 用に攻撃されることは無いだろうが、手を打っておくに越したことはない。うん、そうしようと思いつきのままに結論付け、辺りに人気の無いことを確認してか ら勇斗は言った。

「えーと、魔法使いになった」
「いつの間に30歳超えたん?精神と時の部屋にでも篭っとったん?」
「その魔法使いちゃうわ、ボケェー」
「あたっ」

 寸暇を置かずにボケをかますはやての脳天へ、すかさず手刀が振り下ろされる。身構える間もなく直撃した為、効果は抜群のようだ。

「うぅっ、こんないたいけな少女に暴力振るうなんて鬼畜やわぁ」
「いたいけな少女はそんなボケかまさんわ」

 頭を手で擦りながら上目遣いの涙目で抗議するはやてだが、勇斗は一片の同情も浮かべず、きっぱりと言い捨てる。
 この年齢でこんなネタを使うはやての将来を心配しつつも、原作で乳揉み魔だったことを考えるともう手遅れかもしれないと内心で呟く勇斗であった。

「まぁ、それはともかく人目のあるとこで話す内容じゃないから、俺んちか、はやてんちに移動しよう。もう少しで飯時でもあるし」
「まだ引っ張るん?一発ネタを使いまわすのはあんまり感心せんなー」
「ネタかどうかは後でみせちゃるわ。で、どっちの家行く?」
「ゆーとくんが人目のないとこでわたしを手篭めにしようと考えてる件」
「洗濯板のお子様が寝言をほざいとる件。せめてブラつけるようになってから言え」
「うわ、セクハラや!セクハラ発言!」
「図書館ではお静かに」

 さすがに衆人環視の中でセクハラを連呼されると決まりが悪いらしく、人差し指を立てながら正論ではやての言葉を封じる。

「むぅぅ」

 はやてはとても不満そうだったが、正論をねじ伏せることもできず、他の人間に注意される前に渋々と図書館を後にするのであった。

「で、結局どーすんだ?」
「前はゆーとくんの家やったから、今度はわたしんちやな。ちょうど冷蔵庫の中も空っぽやし、調味料も切れ掛かっとったしなぁ」
「俺は荷物持ちか」
「よろしくなー」
「怪我人に荷物持ちとかはやてが鬼畜過ぎる件」
「無理なら別にええよ?」
「魔法使えるようになった俺に対する挑戦と見た。普段の三倍の荷物でも余裕です」
「ほっほー。それは楽しみやなぁ」
「一度死に掛けてパワーアップした俺を舐めるなよ」
「それ魔法使いちゃう。戦闘民族や」

 そういえば、一度死に掛けた(実際には気を失っただけ)なのははやはりパワーアップしたのだろうかと益体もないことを考えながら、片手一本で器用に車椅子を押していく勇斗と、久々に友達との会話を余すことなく楽しむはやて。
 仲の良い兄弟のようにじゃれあう二人の姿はどこにでもある、日常の光景だった。







「まさか本当に三倍の荷物を持たされるとは思わなかった」
「まさか本当に三倍の荷物を持てるとは思わんかったわ」

 八神家と到着し、片手に担いだ荷物を降ろして一息つく勇斗に呆れたように呟くはやて。
 あれだけ偉そうな口を叩くならば、物は試しと、日用品を含めて普段の三倍の量を買い込んで見れば、当の勇斗は片手にも関わらず、本当にあっさりと大量の荷物を持ち上げてしまった。それも八神家に到着するまで文句一つ言わず、さほど疲れた様子すら見せない。
 泣きを入れて詫びをいれる勇斗を楽しみにしていたはやてとしては、感心すると同時に、拍子抜けもいいとこである。

「買った後に持てなかったら、どうするつもりだったんだ……」
「そんときはちゃんと宅配頼むから問題なしや」
「おいおい」

 しれっと言ってのけるはやてに苦笑しながら、ふとある事に気付く勇斗。

「あれ?それって最初から俺が運ぶ必要なくね?」
「さてさて、お昼の準備せなあかんなー。食材はちゃんとキッチンまで運んでなー」
「おーい、はやてさーん?」

 自分では何一つ持たず、さっさと家の奥へ入ってしまったはやてに呼びかけるが、勇斗の声は空しく廊下に響き渡るだけであった。





 はやてが振舞った昼食を存分に味わった後、食後のお茶を楽しみながらユーノと出会いから始まる一連の事件を語る勇斗。
 念のため、なのはやフェイトの戦闘スタイルなどに関しては、シグナムやヴィータたちに伝わる可能性を考え、詳細は伏せている。

「と、いうわけだ」
「はー、それは盛大な夢やったなぁ。うん、作り話にしては及第点やな」
「おい」

 勇斗と同じようにお茶を啜りながら、勇斗が話したことを夢と一笑に付すはやて。勇斗の力を見ても、作り話だと思ってるようだ。
 勇斗としてもそう簡単に信じて貰おうと思ってなかったが、夢や作り話の一言で片付けられるとさすがに文句の一言も言いたくなる。おまえ、話の最中に散々質問したり相槌を打っていたのとちゃうのかと。

「でもゆーとくんが全く役に立ってない辺りは、妙に信憑性があるわなぁ」
「はぐっ」

 痛いところを突かれ、思わず自分の胸を押さえる勇斗。
 はやてはニヤニヤとした邪な笑みを浮かべ、さらに追い討ちをかけていく。

「ジュエルシード探しで暴走に巻き込まれて、かえって相方の子に迷惑かけたり」
「ぐっ」
「執務官の子に蹴りをかまして返り討ちにあったり」
「ぐぬっ」
「でっかい魔力あっても才能ゼロで全然魔法使えなかったり」
「うぐっ」
「ラストダンジョンでその他大勢の雑魚一体も倒せなかったり」
「くぬっ」
「何もしないうちに敵に捕まったり」
「はうっ」
「デバイスとやらを手に入れてもラスボスにまるで歯が立たなかったり」
「くっ、うっ……」
「でも餌とか補給係としては役に立っとるんやから、いっそのことエサマスターとか人間補給装置とか名乗ったらええんちゃう?」
「…………」

 はやてのトドメとも言える言葉に、言葉も無いままテーブルの上に撃沈する勇斗。ビクン、ビクンとたまに痙攣しているように見えるのははやての錯覚か。

「お〜い、生きとる〜?」

 指先でツンツンと勇斗の頭をつつく。

「返事が無い。ただのエサマスターのようや」
「やかましいっ!好きでエサマスターやっとるのとちゃうわ、こんちくしょーっ!」

 はやての言葉にガバッと身を起こしながら、力の限りに叫び出す勇斗。その目にうっすらと涙が浮かんでいるのをはやては見逃さなかった。

「そんなに弱くて悪いか、悪いのは俺かっ!?たかだか数週間であそこまで強くなるなのはが異常なんだっ!あんな戦闘民族と一緒にすんじゃねーっ!」

 一気に叫んだ為、軽い酸欠を起こしながら息を切らして両手を付く勇斗に、はやては生暖かい視線を送りながら言った。

「そこで決め台詞」
「間違ってるのは俺じゃない!世界のほうだ!」
「負け犬乙」
「アホなことやらすな」
「あたっ」

 いい加減はやてに合わせるのも飽きてきたので、手刀をはやての脳天に叩き込む勇斗。
 はやてに乗せられてノリのままに叫んだものの、頬が微かに赤くなっている辺り、実は結構恥ずかしかったのかもしれない。

「うぅ、暴力反対ー」
「言葉の暴力反対はいいのか?」
「レディーファーストっていう言葉知っとる?」
「生憎と俺は老若男女全て平等に扱う主義でな」
「うわ、やっぱり鬼畜や鬼畜。ドSや」
「その通りだ。羨ましいか」
「なんでそこで威張るん?」
「ノリだ」
「さよか」

 しょーもないやりとりに二人してため息をついた。

「で、今の話が本当なら魔法見せて。魔法。変身できるんやろ、変身」
「いいけどさ。ブレイカー」

 何事も無かったかのように囃し立てるはやてにため息をつきつつも、バリアジャケットを纏うために立ち上がり、ベルトのバックルへと装着した相棒へと声をかける。

『Get set』
「喋った!?」

 突如、声を発したダークブレイカーの声に驚くはやて。

「そりゃ、喋るさ。インテリジェントデバイスだからな」
「ほーほー。な、な、ちょっとわたしにも触らせて?」
「別にいいけど」

 そんなはやての反応に気を良くしつつ、それを表に出さないようにしながらバックルからダークブレイカーを外し、はやてに差し出す。
 はやては興味津々と言った感じで、壊れ物を扱うかのように丁寧にプレート状のダークブレイカーを受け取る。

「へー。この子が魔導師の杖になるん?」
「まぁ、便宜上そういうことになってるけど、実際には杖以外の形も少なくないけどな」

 普遍的なデバイスの形状は杖が多いが、勇斗の知る限り杖以外の形態を取るデバイスも多い。斧だったり、剣だったり、ハンマーだったり、ナックルだった り。勇斗の知っているメインキャラの中でまともに杖として使っていたのは、なのはとクロノくらいである。エクセリオン以降のレイジングハートを純粋な杖と 呼んでよいかは甚だ疑問ではあるが。

「な、この子、わたしが呼んでも返事してくれる?」
「大丈夫だよ。結構無口な奴だけど」

 こちらに戻って以降、身体を動かしたり実際に魔力を使ってのトレーニングは、腕の怪我が治るまで禁止されていた。勇斗としても、怪我を悪化させてまで頑 張ろうと言う気概は持ち合わせていないので、直接の魔力行使は行っていない。だが、早朝にはなのはと同じようにユーノの講義を受けたり、アースラでダーク ブレイカーにインストールされた初心者用の訓練プログラムを使っての鍛錬は続けている。魔力行使に関しての成果はまるで出ていないが、その過程でデバイス との信頼関係はゆっくりと、しかし確実に築かれつつあった。

「えっと、八神はやて言います。よろしく」
『こちらこそ』

 はやての呼びかけに無機質ながらもしっかりとした答えが返される。

「わ、わ。ちゃんと答えてくれたっ。聞いた、聞いた?」
「あぁ、しっかり聞こえてたから落ち着け」

 はやてには珍しい、子供らしい無邪気な反応に苦笑を零す勇斗。
 生来の気性か、その生い立ちによるものか。はやてはなのはらと比較しても、高い精神年齢を持っていた。それ自体は悪いことではないのだが、周りに心配や 迷惑をかけまいと振舞う様が、本来持っているはずのある種の子供らしさを打ち消していた。最近は多少なりとも改善されているように見えるが、なのはと同じ ように、はやてももっと子供らしく周囲に甘えるべきだと、勇斗は考えている。
 ヴォルケンリッターという家族ができれば、もっとこんな顔を見る機会も増えるのだろうか。そんなことを考えながら、勇斗は嬉しそうにダークブレイカーへ話しかけるはやてを見守っていた。



「んじゃ、お待ちかねの変身といきますか」

 ひとしきりダークブレイカーと会話して満足したはやてから、ダークブレイカーを受け取る勇斗。

「わくわく」

 ダークブレイカーと会話したことで、はやてはすっかり勇斗の話を信じたらしく、期待に満ちた眼差しを送っていた。

「んじゃま、変身」

 気の抜けた声と共に勇斗の姿が光に包まれ、パーカーとジーンズの服装が、漆黒のジャケットと同色のシャツ、パンツへと変わっていく。その腰にあるベルトにはダークブレイカーの本体である赤い宝玉が鈍い輝きを放っている。

「どーよって……凄く不満そうだな」

 多少得意げに声をかけた勇斗だったが、はやてに浮かんでいる表情に気付き、怪訝な目を向ける。

「地味!」
「……知らんがな」

 ビシッと指を差して指摘するはやてに脱力しながら返答する勇斗。
 そうか。お前にとっては魔法が実在したことよりそっちが重要なのか、と内心で突っ込むのがやっとだった。

「変身するならもっとこう、仮面ライダーのように気合の入ったポーズと掛け声がお約束やろ!?」
「すまん、素のテンションでやるにはちょっと恥ずかしい」

 時の庭園では文字通り仮面ライダーを真似た変身ポーズをノリノリで決めていたが、こういったお披露目かつ、素でやるのには抵抗がある勇斗だった。

「ヘタレや。ヘタレ。ヘタレがここにおる」
「うっせ」
「そもそもそれの何処が魔法使いの格好?ベルト以外、全然普通やん。全身真っ黒とか厨ニ病真っ盛り?」
「……ほっといてくれ」

 はやての指摘に多少なりとも自覚があるのか、返す言葉にも力が篭もっていない。

「魔法使いならもっとフリルとかマントつけて、カラフルな色使いで額にはティアラとか」
「そんなん着た俺を見たいか?」
「…………ごめん、わたしが悪かった」

 一瞬なりとも脳内でそのビジョンを浮かべてしまったのか、げんなりとした表情で呟くはやて。
 勇斗としてもそんなのを喜々としてリクエストされたり、はやてが特殊な性癖に目覚めるようなことになったらたまったものではない。

「じゃ、今度は魔法見せて。どんなん使えるんやったっけ?」
「えっと、魔力供給に、足場を作る魔法、下に落ちる速度を緩める魔法。あとは体が頑丈になったり、力が上がったり」
「まほう……つか、い?」

 勇斗が使う魔法のバリエーションに彼を魔法使いとして呼んで良いものか。思わず首を傾げてしまうはやて。

「得意な距離は?」
「近接戦」
「魔法使い?」
「……やっぱ微妙だよなぁ」

 本人も常々自覚があったらしく、力の無い笑みを浮かべたまま、はやてから目を逸らしていく。
 そもそも最後のはどこぞの執務官に指摘されたとおり、ミッドチルダの定義では魔法と呼べる代物ではない、別の何かである。

「やっぱりエサマ「だまらっしゃい」

 はやてに最後まで言わせず、三度手刀を叩き込んで黙らせる勇斗だった。





■PREVIEW NEXT EPISODE■

日常へと戻った勇斗達が過ごすのはありふれた平穏な日々。
そんな日々の中、フェイトへのメッセージ作成の為、勇斗は月村家への招待を受けるのであった。

アリサ『天上天下唯我独尊』

 

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UP DATE 09/9/7

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ゆーとのデバイスの名前が一向に決まりません。どうしませう。