リリカルブレイカー

 

第9話 『アースラへようこそ』

 

 

「わお」
「うわぁ」

 クロノに連れられた部屋の中を見て、なのはと二人で思わず声をあげてしまう。
 無駄に数が多い盆栽に真ん中に台座のように備えられた畳。そこには野点に使われるような傘どころか鹿威しまであった。いかにも急ごしらえといった感じで、部屋の壁と酷くミスマッチだ。
 そーいやこんな部屋でしたね。多分、こちらに合わせて用意してくれたんだとは思うけど畳とかはどっから調達したのだろうか。元からあったのか。恐るべしアースラの資材倉庫。

「三人ともアースラへようこそ。まぁ、どーぞ、どーぞ、楽にしてちょうだい」

 正座で出迎えてくれた艦長さんはえらくユルユルなノリだった。知ってたけどね。
 予備知識の無いなのはとユーノは呆気に取られた様子で顔を見合わせていた。


「どーぞ」
「あ、はい」
「いただきます」

 出された羊羹にさっそく手をつける。ミッドチルダにも羊羹ってあるのか?イメージ的に和風のものは無さそうな気がするんだが。
 説明はユーなのに任せて俺は羊羹を食べるのに専念する。
 こちらの説明が終われば今度はリンディさんのロストロギア講義。すっかり忘れかけてたけどジュエルシード数個が完全に発動していれば幾つかの世界をまとめて滅ぼせるんだっけか。そんなもんの暴走体に取り込まれていたのだと思うと、今さらながらにぞっとする。
 くわばらくわばら。
 双方の話を聞き流しながら今後のことを思案する。ユーなのが取る選択肢など決まりきってるからどうでも良い。問題は俺自身というか、どこまでこちらが持つ情報をばらすかだ。
 下手に全部ばらして予想外の展開かつ悪い方向に流れるのは困る。今後の流れとしてフェイトが関わってくるのは海上大決戦となのはとの一騎討ち、そこから時の庭園に雪崩れ込んだはずだ。
 出来ることなら海上決戦後にそのまま時の庭園に雪崩れ込みたい。海上決戦の後、フェイトはプレシアに虐待を受け、それが原因でアルフはプレシアに反抗し て怪我を負い、アリサに保護されたはず。この流れだと一騎討ちイベントがなくなってしまうけど後でフォロー……できるか?一応二人の共闘イベントはもう経 験済みだからそれを考えれば……いや、でも、うーん?
 後先を色々考えるのはどうにも苦手だ。基本的に、後先考えず行き当たりばったりのその場のノリが全てだからなぁ。
 自分一人でならそれもいいのだが、他の人も巻き込む場合はそうもいかない。そもそも今回の場合は、基本的に俺が手出しできない。何か起こってもその責任を取れないのだから。
 何も手出ししなければ、結果オーライとはわかっていても、フェイトのことは早く何とかしてやりたいというのが人情である。
 俺が一人あれこれ考えている間に、話の流れは記憶どおり時空管理局が全権を受け持つと宣言し、なのは達は今夜一晩考えて、改めて今後のことを話すという結論に至る。

「送っていこう。元の場所でいいね?」
「あー、その前にちょこっとお話があるんですが。この二人抜きで」
「え?」

 なのはとユーノを指差す俺に二人は揃って驚きの声を上げる。

「ゆーとくん?」
「ちょっと俺の魔力に関して聞きたいことがあって。二人は先に戻ってていーよ」

 不審がる二人にはそう言いつつ、ちらっとリンディさんに目配せする。
 暗に二人には聞かせたくない話があるという意を込めて。

「そういえば、あなたはジュエルシードの暴走に巻き込まれていたんだったわね。確かに一度、ちゃんとした検査をしたほうが良いわね」

 さすが大人の美人。俺の考えを正確に察してくれたらしい。

「検査には時間がかかるから、勇斗くんの言うとおり二人は一足先に帰ったほうがいいわね。お家の人も心配するでしょうし」
「えっと」
「心配はいらないわよ。ちゃんと検査をして、問題がないことを確認したら責任を持って送っていくから、ね?」
「あ、はい」

 口を開きかけたなのはを遮るようにしてリンディさんに畳み掛けられたなのはは、少しだけシュンとした感じで頷く。

「さ、行こう」
「帰ったらメールするよー」

 クロノに背中を押されて出て行くなのはに、心配無用とひらひらと手を振って見送る。
 まったく心配性だねぇ。



「それで一体、何のお話かしら?あなたの魔力についてのお話だけではないんでしょう?」
「あの二人がまだ知らないフェイト・テスタロッサの事情とかその他諸々の情報を」

 にっこりと笑うリンディさんに俺は即答した。リンディさんは興味深そうに目を瞬かせる。

「そういえばあなたはフェイトさんとお話したって言ってたわね。その時に聞きだしたの?」
「まぁ、本人も知らない事情とかも色々知ってたりしますが」
「どうやって?」
「そちらの言葉で言う稀少技能みたいなもんですかね。予知夢とかそんな感じの」
「予知夢?」

 あらかじめ考えていたでっちあげの理由をぶちかましてみた。
 まぁ、こんなこと言われていきなり信じたりする人間はいないだろうが、この虚言をある程度、信じさせるだけの手札はある。
 仮に信じてもらえなくても、それでどうこうなるわけではないはず。多分。
 前の人生の記憶云々とかいきなりぶちまけるよりは、多少信憑性がある……と思う。たぶん。

「あなたたちのことも少しだけ知ってますよ。エイミィさんとかクロノ執務官の師匠で猫の使い魔のロッテとアリアの姉妹のこととか」

 俺が口にした単語にリンディさんの目が驚きに見開かれる。そして一瞬だけ警戒の色を見せたような気がする。

「興味深い話ね。詳しく聞かせて貰えるかしら?」

 食いついた。今の表情を見る限り、動揺や警戒の色を見せないのは流石。実際に何を考えているかまではわからんが、リンディさんなら悪いようにはしないだろう。
 エイミィに録画されてるかもしれんが……まぁ、大丈夫かな、多分。

「えーと、どこから話しましょうか?」
「そうね。まずはあなたのその能力について教えてもらえるかしら?」

 俺がでっちあっげた能力の詳細は以下の通りだ。
 自分の知らない未来の光景を夢として見る。時系列はバラバラ。そしてそこで見たことは必ずしも現実になるわけではなく、それに干渉するような行動を取れ ば、違う結果になることもある。俺の意思でその能力を制御することはできず、見たい光景や時期などを選択することもできない。発動も完全にランダム。俺自 身もあまりよくわかっていない力だということ。

「と、まぁ、そんなわけでして」

 我ながら色々穴のある説明だが、でっちあげだから仕方ない。突っ込まれてもそこはよくわからないで通せばいい。何しろ夢として見ているだけという設定なのだから。

「なるほど。それで私たちのことも知っていた、というわけね」

 ふんふんと頷くリンディさん。今のところ、いくつか質問はされたものの、俺の言葉そのものを疑っている様子はない。全部信じてくれてるとも思わないけど。

「まぁ、よく当たる占い程度に思ってもらえばいいかと。ちなみにこのことを人に話すのは初めてです」
「それはどうして?」
「さっきも言ったとおり、俺が見た未来は必ず実現するわけではないですからね。好きなように力を使えるわけでもなし。人に話してそれが広まって面倒なことになるのも嫌ですし」

 実際、俺の記憶なんてあやふやだったり、はっきりしない部分も多いのであながち嘘でもない。

「それに先に起こることを話して、変な方向に変わっても困りますからね。俺が見た未来は概ねハッピーエンドだったんで」
「と、いうからには今回の事件について、これから起きる事も結末も知っているのかしら?」

 流石に鋭い。俺の口ぶりと既に話した内容からそれを察したらしい。

「まぁ、全部が全部ってわけじゃないですけどね。それも必ず実現するとは限らないわけですけど」
「なるほど、ね。勇斗さんの能力については大体わかったわ」

 そう言ってリンディさんは例の角砂糖入りの緑茶に口をつける。
 角砂糖いれるときになのはが引きつった声上げてたなぁ。

「ちなみにどれくらい俺の話どのくらい信じてます?」
「そうねぇ。三割ぐらいかしら?」

 笑顔でこともなげに宣言するリンディさん。
 俺もお茶に口をつけながら思案する。ふむ。まぁ、三割ならいい線いってる、か?

「まぁ、それなら話を聞く価値がある程度には思ってもらえるわけですよね?」
「そうね。流石に全部は信じてあげられないけど、話を聞くぐらいなら、ね。何か、私たちに頼みたいことがあるんでしょう?」
「そこまで見抜かれましたか」

 元から隠すつもりはなかったので、話が早くて助かる。

「こちらが渡す情報はフェイト・テスタロッサとその黒幕について。まぁ、信憑性を保障するもんは何もないんですが」

 これから起こることについては話さないほうがいいだろう。あー、でもアースラが攻撃を受けるタイミングくらいは言っておいたほうがいいかもしれない。

「で、こっちが希望するのは俺の事件解決までのアースラ乗船許可。あとできたらでいいので魔法を教えてください」
「その理由は?」
「ここまで関わったからには最後まで見届けたいですし。あとはフェイトやなのはのことも気になりますしね。なのはとユーノは絶対に捜査協力を申し出るはずですから」

 きっと今頃二人で相談してる頃だろう。クロノからは元の日常に帰れと言われても、なのはがフェイトのことを放っておけるはずもない。
 そうなれば必然的にユーノもついてくる。

「それはそういう未来を見たから?」
「友人としての確信です。ユーノだけならともかく、なのははフェイトのことを物凄く心配してますから」

 実際、原作知識が無かったとしても、なのはがこの件に最後まで関わろうとするのは想像に難くない。

「で、魔法覚えたいってのは、それを見てるだけの自分が歯痒いから。正直、なのはみたいにすぐ力が付くとは思ってませんけど、何もしないよりはマシかなーと」

 元より腹芸は得意ではない。思ったことをそのまま口に出して伝える。こんなことをなのは達の前で言ったら赤面ものである。
 リンディさんとエイミィについては最初から諦めてる。クロスケは……まぁ、いいや。

「と、まぁ、俺の条件はこんなとこですが、どんなもんでしょ?」
「そうねぇ……」

 リンディさんは顎に手を当てたまま、こちらを見つめている。俺も真っ向からその瞳を受け止め、やましいことは何もないですよー、という意を込めて見つめ返す。
 俺の条件を飲んでくれるかということについては正直、かなり分が悪い。
 なのは達は戦力としてのメリットを提供することで捜査協力の許可が下りたが、俺の場合はそうもいかない。俺の情報が正しいという証拠が無い以上、リンディさんらにとってのメリットは皆無に等しい。そもそも俺の情報なしでも事件解決には何にも影響しないのだから。
 まー、ダメだったら大人しく諦めよう。

「ま、いいでしょう。魔法を教えることに関してはまだ確約できないけど、それでもいいのなら」
「オールオッケーです」

 そんなあっさり許可出していいのか、アースラ艦長。と思ったが、こちらにとっては都合がいいので口に出さない。

「他に条件として、身柄を一時、時空管理局預かりとすること。こちらの指示には必ず従うこと。いい?」
「それは勿論」

 リンディさんの言葉に頷く。個人ならともかく管理局は組織として動いてるのだ。個々人が指示を無視して勝手に行動などしたら組織として成り立たない。
 非常時にはその限りではない場合もあるが、基本的に上の指示を効かない人間は邪魔にしかならない。人間社会の基本だね。
 もっとも、俺が現場に出張ることはないだろうけどさ。

「じゃ、聞かせてもらいましょうか。フェイト・テスタロッサについての情報を」

 そうして俺は何から話したもんかと思案しながら、フェイト、そしてプレシアのことを語りだす。
 フェイトがジュエルシードを集める理由は母であるプレシア・テスタロッサに命じられたから。
 プレシアは過去の事故によって一人娘であるアリシアを死なせてしまう。アリシアを死なせたプレシアは、死んだ娘を取り戻そうと様々な研究を行い、やがて 人造生命を作り出すことを目的としたプロジェクト『F.A.T.E』に辿り着く。その研究成果としてアリシアの遺伝子を元に作り出した人造生命体にアリシ アの記憶を転写することに成功する。
 だが、それは上手くいかなかった。アリシアの遺伝子情報、記憶を受け継いでも性格や利き手、アリシアが持っていなかった魔力素質を持っていた。
 そのアリシアをアリシアではない別の存在と認識したプレシアは、アリシアの記憶を削除してフェイトと名付け、自らの道具として育成していく。そして今現 在のプレシアはアリシアを蘇生させる手段を失われた異世界『アルハザード』に求め、次元震の狭間にそれへの道があると信じ、その為にジュエルシードを必要 としている。
 フェイトをアリシアの偽者として認識しているプレシアは、フェイトを密かに憎み、彼女を虐待していること。
 うろ覚えの為、細かいことや一部の概要は間違っているかもしれないことが、大筋では間違ってないと付け加えて、俺の話は終わりとなる。

「……と、まぁ、俺が知ってるのはこんなことです」
「……そう」

 俺の話を聞き終えたリンディさんは静かにため息をついた。
 俺からここまで詳細な情報を聞けるとは思っていなかったこともあるだろうが、フェイトやプレシアの境遇にやるせない思いがあるのだろう。
 俺自身、改めて口に出して話すことで暗鬱とした気分になってきた。
 プレシアの境遇には同情もするし、哀しむ気持ちもわかる。
 小説版では事故においてもプレシアに責は無く、利益を優先するために無茶なスケジュールを立てた上層部や、彼女の立てた安全基準を無視していった上司こそが加害者といえる。プレシアは間違いなく被害者の一人なのだ。
 だからといって、彼女がフェイトを憎む理由にはならない。彼女が暴走した魔力炉と同じ魔力光を持つことも、アリシアと似て非なる存在になったことも何一つフェイトの責任ではないのだから。
 フェイトをアリシアの偽者でなく、もう一人の娘として接することさえ出来れば。プレシアもフェイトも今とは違った形で幸せに暮らすことができたはずなのだ。
 そう思うと、やるせない想いで胸が苦しくなる。
 実際にフェイトと会って言葉を交わした時間はわずかだが、彼女が凄く良い子だというのは肌で感じ、だからこそ少しでもその負担や悲しみを減らし、力になってやりたいと思う。
 知らず知らずのうちに俺は自らの拳を力一杯握り締めていた。
 その手にそっとリンディさんの手が添えられ、俺は慌てて顔を上げる。

「ありがとう。勇斗さんには辛い話をさせてしまったわね」
「あ、いえ。別に俺は。っていうか、そもそも俺から持ち出した話ですし」

 そもそも俺が辛い訳じゃないし。リンディさんの気遣うような視線に慌てて手を振る俺に、リンディさんからハンカチを差し出される。

「えっと?」

 差し出されたハンカチの意味がわからずに首を傾げる。

「目に涙、溜まってるわよ」
「おおっ!?」

 言われて見れば、涙こそ流れていない流れていないものの、確かに涙が溜まっている感じがあった。
 慌てて目を閉じて自分の手でそれを拭う。やばい、これは恥ずかしい。

「あ、あははは……」

 流石に気まずくなった俺は愛想笑いを浮かべるが、リンディさんの慈しむ様な視線が物凄く痛かった。

「さて、随分と長話になってしまったわね。今日はこの辺でお話は切り上げましょうか」

 だからリンディさんの言葉は正直有難かった。このまま生暖かい視線を向けられ続けたら死んでしまう。

「この件が解決するまでアースラに乗るんだったら、ご両親にお話する必要があるでしょう?これ以上遅くなるまえに一度帰ったほうがいいわ」
「あー、そういえばそうですね」

 忘れていたわけではないが、気が重い。どう話すかは考えてはいるものの、信じてもらえるかは微妙なとこだ。
 今更許可下りなかったらどうしよう。

「艦長、お話は終わりましたか?」

 俺が頭を悩ませているとタイミングよく、扉からクロノが入ってくる。
 いや、違うか。多分、エイミィと一緒にモニタから話を聞いていたんだろう。

「えぇ。クロノ。勇斗さんを送ってあげて」
「はい」
「じゃ、勇斗さん。またね」
「はい」

 リンディさんに頭を下げた後……立ち上がろうとして、

「……何をしているんだ?」
「あ、足痺れた……」
「あらあら」

 リンディさんはともかくクロノくんの視線が物凄く痛かったです。
 最近あんまり長時間正座をする機会がなかったのを、ちょっぴり後悔した。








「艦長、彼のこと本当によかったんですか?」

 勇斗とリンディの会話は勇斗の予想通り、クロノとエイミィの二人でモニターしていた。
 それだけにクロノは安易に勇斗のアースラ乗艦を許可したことに対して不安を覗かせている。

「確かに、彼の言うことをそのまま鵜呑みにすることはできないわね」
「未来予知なんてレアスキル中のレアですからねー」
 クロノとは対照的にアースラ通信主任兼執務官補佐である少女、エイミィは暢気な声を上げながらアースラの端末を操作している。
 未来の出来事を夢として見る事ができると少年は言った。確かに幾多の次元世界の中にはそういったような能力が存在したという記録はある。
 とはいえ、それがそのまま彼の言葉を信じる理由にはならない。

「夢に見たにしては、情報がやけに細かい」

 彼の話した情報は、あいまいな夢という形で見たにしては、やけに具体的過ぎた。視覚情報と聴覚情報だけで得られるような情報ではない。
 フェイト達に関しての話は全て出鱈目。何らかの方法で自分達のことを調べ上げ、この世界以外の世界の住人、もしくは犯罪者――という可能性もゼロではない。

「彼の言っていることが本当ならばよし。もしも虚言や何か別の目的があるなら、身近に置いておいたほうが対処しやすいでしょ?」
「それは……たしかにそうですが」

 勇斗が何かを企んでいるというのなら、目の届かない場所に置くよりもアースラ内のほうが監視も警戒もし易い。
 それがリンディが勇斗の乗艦を許可した理由の一つでもある。

「エイミィ、彼の語ったことと彼自身に関する情報の調査。まかせたよ」
「もっちろん。既に取り掛かってますよー」

 クロノの言葉に軽快に答えながらも、手を動かし続けるエイミィ。
 リンディとの会話時から既に勇斗の証言を裏付ける事実に関しての調査は開始している。
 勇斗に関しても、この世界での生い立ちや経歴について何か不審な点がないかどうかなどを調べる必要がある。

「頼りにしてるよ」
「おう、まっかせて♪」

 流石に一昼夜でその全てを調べ上げるのは不可能だろうが、執務官補佐の名は伊達ではない。
 数日中に必要な情報は全て手に入れてくれるだろうとクロノは確信している。

「ま、直接話した限りでは、杞憂に終わりそうな気はするんだけどもね」
「ですねー。あれが演技だとしたら超一流の役者になれますね」

 おとがいに指を当てながら勇斗の様子を脳裏に思い起こすリンディの言葉に、エイミィも同意する。
 能力云々の話ははっきり言って胡散臭いと感じた。
 だが、フェイト・テスタロッサとプレシア・テスタロッサの話をするときに彼が浮かべた哀しみや苦悶の表情。そこに嘘や偽りは感じられなかった。
 リンディは一見、のほほんとした暢気な人物に見えるが、AAクラスの優秀な魔導師であり、時空管理局提督としても確かな手腕と能力を持っている。
 人を見る目に関しても、相応の自負を持っている。
 そのリンディが見た限り、勇斗は全てを語っていない。未来のこと以外にも何か隠している節は感じられるが、プレシア親子に対して深い憂慮を抱き、フェイトやなのはを気にしていると言った言葉におそらく嘘はないだろう。
 少なくとも本質的には悪人ではないだろう、というのがリンディの判断である。
 無論、それだけで信用するほど迂闊な人間ではないが。

「クロノ。余裕ができたらでいいから、彼の魔法訓練を見てあげなさい」
「僕が……ですか?」
「えぇ。直接接する機会が多ければ、その分、彼の人となりも理解しやすいでしょ?」
「了解です」

 もし、彼が何らかの行動を起こしたとしても、自分たちならば十分対処は可能だろうとも思う。
 勇斗との会話記録に目を通しながら、今後のことを思案する。

「大魔導師プレシア・テスタロッサにジュエルシード、か。思っていた以上に厄介なことになりそうね」



■PREVIEW NEXT EPISODE■

なのは、ユーノと共にアースラへと搭乗する勇斗。
そこで勇斗は自らに秘められた可能性を知ることになる。

なのは『元気出そうよ、ね?』

 

TOPへ INDEX BACK NEXT

採点(10段階評価で、10が最高です) 10
お名前(なくても可)
できれば感想をお願いします

UP DATE 09/7/7

************************************************************