HAPPY★KANON

 

第6話

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・迷った」

家に帰るべく乗降口に向かっていたはずが、何故か見知らぬ場所にいる。

広すぎるんだよ、この学校が。

辺りには誰もいない。どうやら中庭のような場所みたいだ。

「・・・・・・・戻るか」

 

ガンッ!

 

ここに来た扉のほうへ戻ろうとしたところで、大きな音が聞こえてきた。

しかもその音はすぐ近く。

俺は慌てて振り向くが、その次の瞬間には世界が回っていた。

「おおおっ!?」

何かに弾き飛ばされたらしく無様にも地面を転がっていく。

「いたた・・・・・・」

俺が体を走る痛みに顔をしかめながら体を起こし、元にいた場所をみるとそこには何かモヤモヤした黒い霧のようなものが見えた。

それを見た瞬間、体に悪寒が走る。本能的にあれはヤバイと感じた。

それが何なのかを考える前にそれは行動に出た。

霧がその形を変え、俺のほうへと伸びてくる。速い。

俺は体をよじってそれを避けようとするが、右肩に衝撃が走る。

その衝撃にまた吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

「いってぇ・・・・・・」

くそっ!なんなんだよ、いったい!

肩を押さえながら顔を上げるとそこには黒い霧が広がっていた。

・・・・・・・・何がなんだかよくわかならいけど、もしかして俺の人生ってここで終わるのか?

 

 

「せいっ!」

 

 

 

目の前で銀光が閃く。そして霧散する黒い霧。

・・・・・・・・・助かったのか?

俺が閉じかけた目を開けて霧散する霧の向こうを見るとそこには剣を振り切った状態の女の子がいた。

「・・・・・・・・・・・」

その子は呆然とする俺を一瞥すると何事もなかったかのように振り返り、去っていこうとする。

「ちょ、ちょっと待てよ!今のは一体何だ!?それにきみは!?」

混乱した俺の言葉に女の子はその足を止め、わずかに振り返る。

「私は魔物を討つものだから・・・・・・・」

・・・・・・・・・何それ?

さっきの黒い霧みたいのがそうなのか?

俺が頭を抱えて混乱していると女の子はキッと目つきを鋭くし傍らを疾走する。

慌てて目で追うとそこにはもう一体の魔物(?)がいて、女の子はそれに斬りかかっていた。

途端に背後に気配を感じる。

――もう一体いたのか!?

背後を振り返った瞬間、まさに黒い霧が俺に向かってくるところだった。

俺はそれを横に跳んでかわす―――――前に霧はその動きを止めていた。

何時の間にか霧の中央部に白い紙が見える。

・・・・あれは・・・・お札?

「掛け巻くも隈き大宮内の神殿に坐す神魂、この十種の瑞を合わせて

ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、いつ、む、なな、や、ここのたりというて布留倍由良由良と布留倍・・・・・・」

何かの呪文のような声に振り向くとそこには日本刀を携えた巫女さんが・・・・・・・・って何故巫女さん!?

巫女さんは鋭い目つきで日本刀を引き抜くとそれを構え、

 

 

「悪霊・・・・・・・・退散!!!!!」

 

 

気合とともに構えた刀を一閃する。

すると先ほどと同じように黒い霧は真っ二つに引き裂かれ、やがて空気に消えるように霧散してしまった。

「ふぅっ・・・学校にこんな霊が紛れ込むなんて珍しいわね。しかも3体も・・・・・・・」

巫女さんは一息つくと俺のほうに目を向ける。

・・・・・・・・三世院先生?

「あなたも大丈夫?・・・・・・・・・・・・あら?あなたは・・・・・・」

向こうもどうやら俺のことを覚えてくれていたようだ。

「たしか・・・・・相沢祐一くんだったわよね?」

「はい・・・・・・あの、さっきのはいったい・・・?」

俺の問いかけに三世院先生はちょっと困ったような顔をする。

「う〜ん、そうね、聞きたいことはあるでしょうけど、先にあなたの手当てをしないといけないわね。

それからゆっくり説明してあげるわ。森の清水でいれた美味しいお茶もつけちゃうわよ

三世院は軽くウインクしながら微笑む。

不覚にも一瞬ドキッとしてしまう。

「川澄さんもお茶に付き合わない?」

剣を携えた女の子もとっくに相手を仕留めたらしく、じっとこちらに目を向けていた。

「ふふっちゃんとお茶菓子もつけるわよ」

「・・・・行く」

・・・・・・餌付けかい。

「佐祐理も一緒にいい?」

「ええ、もちろんよ。保健室で待ってるわ。さ、相沢くん行きましょ」

「はぁ・・・・・」

 

 

 

 

 

「はい!これでOKよ」

三世院先生は俺の肩に湿布を貼るとポンと軽く叩く。

「それにしてもあなたも朝から散々ねぇ。朝はさつきさん。そして放課後は悪霊の被害に会うなんて」

「悪霊・・・・・ですか?」

俺があからさまに疑念を顔に出すと三世院先生は苦笑して

「いきなり言われても実感は湧かないでしょうけどね。あれはれっきとした悪霊の一種なのよ」

「・・・・じゃあ、先生のその格好は?」

「ああ、これ?私の実家が神社でね。除霊なんかの仕事もしてたのよ。フフッ色々驚いちゃったでしょ?」

「そりゃ、まぁ・・・・・・」

唖然とした俺を見て三世院先生はクスクス笑いながらお茶を入れている。

むぅ・・・・・・なんか面白くないぞ。

 

「お邪魔しまーす」

 

保健室に響き渡るのは明るくて凛とした声。

開かれたドアを見るとさっきの子ともう一人の女の子が入ってくる。

「あははーっ、三世院先生こんにちはー」

「いらっしゃい,二人とも。ちょうどお茶も入ったところだしその辺に座ってちょうだい」

二人の女の子は用意された椅子に座り、黒髪の子はさっさとお茶菓子に手を伸ばし、もう一人の子は俺に目を向ける。

「あの、こちらの方は?」

そういって首を傾げる姿がちょっと可愛い。

「ああ、この子は相沢祐一くん。今日、転校してきたばかりの子よ。二人とも仲良くしてあげてね」

三世院先生は俺の肩に手を置いて二人に紹介してくれる。

「そして、この二人が3年の倉田佐祐理さんと川澄舞さん」

「倉田佐祐理といいます。相沢さんよろしくお願いしますね」

「相沢祐一です。俺のことは祐一いいですよ」

「あははー、それなら佐祐理のことも名前でいいですよー」

そういって太陽のような微笑みを浮かべる佐祐理さん。

・・・・・それに比べてこっちは。

「ほら、舞もお茶飲んでないで自己紹介しなきゃ」

「・・・・・・川澄舞」

一言だけいってまた、お茶菓子に手を出す。

無愛想極まりないな。

「なぁ、舞って名前で呼んでいいか?」

「・・・・・・・・・」

「いいか、悪いか」

「・・・いい」

一言だけ言うと黙々とお茶菓子を食べる舞。

「ふふっ、三人とももう仲良しね」

「・・・・これで?」

「あははー、舞は照れてるだけですよ。ねー?」

「・・・・・みまみま・・・」

「おまえなぁ・・・ちゃんと食べてから喋れよ。それにそんな食ってたら太るぞ?」

びしっ!

「うおっ」

俺の額に舞のチョップが炸裂する。

「ふぇ・・・・・」

「まぁ・・・・・」

それを見て何故か佐祐理と三世院先生が驚く。

「川澄さんが突っ込み入れたの初めて見たわ・・・・・・・」

「佐祐理もです・・・・・・ふぇー、舞はよっぽど祐一さんのこと気に入ったんだね」

びしっ!

「あはは、舞ったら照れなくてもいいのにー」

びしっ!びしっ!

 

・・・・・・・・と、まぁこんな感じでしばし談笑が続き、俺は保健室を後にした。

後で聞いた話だと舞も生まれつき除霊能力があって、時折三世院先生の仕事を手伝ってるとか。

・・・・・・・・・・この学校に普通の人って少ないのかな・・・・。

そんなことを思いながら俺は今度こそ昇降口へと向かっていた。

・・・・・・・・・今度こそ迷いませんように。

 

 

そして俺は談笑していたときに三世院先生の俺を見る目が変わっていたのに気付いていなかった。

 

 

 

 

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                                UP Date 7/24

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