GSと魔法使い(仮)

嵐のプレリュード!! その6

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?ねー、アレって横島さんじゃない?」

 学園長室から出た夏子と横島を発見したのはまき絵。

「お、本当だ。なんでこんなとこにいるんだろ?」

「というか、一緒にいる人誰やろ?高等部の人かな」

 裕奈、亜子、アキラの三人も一緒である。修学旅行前日には部活動も無いので四人で道草して帰ろうとしたところ、横島を発見したのである。

「……引き摺られているのはスルーなんだ」

 アキラ以外の面子も横島のキャラを把握し始めているのかもしれない。

 何故かボロボロになって夏子に引き摺られている様は、声をかけるのを躊躇わせるのに十分な異様な雰囲気を醸し出している。

「横島さーん、こんなところで何してるのー?」

 が、勿論、通称バカピンクこと佐々木まき絵はそんな雰囲気を読むことなく、平然と横島に声をかける。

「ん、おー。アキラちゃん達か。ちょっと学園長に仕事を頼まれてな」

 夏子に引き摺られてぐったりしていた横島だが、まき絵の声を聞くと何事も無かったかのようにすくっと立ち上がり手を上げる。

「……なんで魔法の射手<サギタ・マギカ>をあれだけ食らってもう立ち上がれるんよ?」

 零距離魔法の射手<サギタ・マギカ>を無防備に受けたはずなのに、傷一つ無く回復している横島に突っ込む夏子。

 我を忘れてつい撃ち込んでしまったが、魔法の射手<サギタ・マギカ>は基本呪文ではあるものの、37矢も撃ち込めば普通の人間なら数日は立ち上がることすらできなくなる程度の威力はあるのだ。

「ははは、確かに物凄く痛かったが美神さんの折檻に比べればあの位軽い軽い!」

 高笑いしながら答える幼馴染に夏子は、ここは感心するべきか、呆れるべきか悩むと同時に、美神さんの折檻とやらはどんなものなのだろうと、思いを馳せていた。

「仕事の依頼って、GSのですか?」

「あぁ、学園長の知り合い経由で頼まれてさ。明日から京都だ」

 亜子の問いにあっさりと頷く横島。

「えっ、マジで?私達も明日から修学旅行で京都だよっ」

「そーか、そーか、だったら向こうでバッタリ会うかもしれんな」

「そん時は年上として奢ってねー?」

「……う、お手柔らかにな」

「ちょっと、横島!」

 裕奈とまき絵にたかられているのを見かねて、夏子が横島を襟首を掴んで引っ張り出す。

「あの子ら、誰なん?依頼のことそうそう話してもーてどーすんのや」

 魔法使いのことは秘匿せねばならないのにあっさりと仕事と告げる横島を夏子は信じられない思いで問い詰めていた。

「お、落ち着け。あの子らは例の木乃香ちゃんのクラスメイトだって。今のうちに京都で仕事で京都行くって言っとけば、万が一鉢合わせても言い訳しやすいだろっ」

 横島としても木乃香の事情を考えるとおおっぴらに護衛するわけにはいかず、ひっそりと陰から護衛するつもりである。だが、有事の際には木乃香たちの前に姿を晒す事も十分にありえる。そうなってから言い訳を考えるよりはあらかじめ京都に行くことを匂わせておいたほうが色々と誤魔化しやすくなる。

 その言葉になるほど、と頷く夏子。魔法使いである彼女は基本的に魔法に関わることは全て秘匿し、それに関わるような事柄も一般の人達は口外すべきではないのが常識だ。

 が、GSである横島は重要な項目さえ秘匿できれば、それに関連することでもバレなきゃいいと+いう思考だ。

 この辺りは秘匿を義務としている魔法使いと一般に認知されているGSとの意識の差であろう。

「あんたも色々考えるようになったんやなぁ」

 昔は全くの考えなしだった横島に感心する夏子。

「ねーねー、横島さん。その人は誰?どんな関係なのー?」

「ひょっとして転校初日で作った彼女とかー?」

「「へ?」」

 まき絵と裕奈の好奇心丸出しの質問に横島と夏子の声が重なる。アキラと亜子も何も言わないが興味津々の様子だ。

「いやいや、そんなんちゃうから。私は横島のクラスメイトで只の幼馴染やから」

「ふべっ」

 一瞬裕奈の言葉に動揺したものの、すぐに平静を取り戻して襟首を掴んでいた横島を床に投げつけ、やんわりと裕奈達の言葉を否定する夏子。

「ぐぐ、麻帆良に来てもこんなんばっかし……!」

 鼻を強かに打ちつけて鼻血を出す横島にアキラは苦笑しながらティッシュを差し出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻にティッシュを詰める横島を余所に、互いに自己紹介をする運動部四人組と夏子。

 道草の予定についでとばかりに横島と夏子を加え、一向は食堂練へと向かっていた。一応、横島の麻帆良学園案内も兼ねている。

「おっと、ごめんな」

「あっ、いえ、こちらこそー……って、え?」

 他愛もない話を続けながら、角を曲がったところで出くわしたセーラー服の少女を横島は体をずらすことで危なげなくかわす。

「ん?……な、何?」

 だが、横島を除く五人の少女達はぽかんとした顔で横島に注目している。

 おまけに避けたはずの少女まで何故か振り返ってこちらを見つめている。

「今の、誰に向かっていったん?」

「新手のパフォーマー?」

 夏子と亜子の言葉に首を傾げ、

「あ、あの、私のこと見えるんですか!?」

 と、セーラー服少女の言葉でポンと手を打つ。

 何気なく避けたのは良いが、よく見るとこの少女は存在感そのものが希薄だった。と、いうか注意して見ないとその姿そのものがはっきりと見えない。極めつけとして周囲には人魂が浮いている。

「あー、ここに幽霊の女の子がいるんだわ」

 と、幽霊の少女を指差す横島。

 が、夏子や運動部四人組からは何も無い空間を指しているようにしか見えない。

「あはは、そっかー」

「やだなー、もー。怪談の時期にはまだ早いってば」

「そー、そー、冗談上手いなー、横島さんは」

 まき絵、裕奈、亜子は横島の言葉を冗談と受け取って笑い飛ばすが、次の横島の言葉に凍り付く。

「いや、マジだって。本当にここにいるから」

「わ、私、相坂さよっています。私60年以上ずっと幽霊やってるんですけど幽霊の才能ないらしくて今まで誰にも気付いてもらえなくて……」

「さよちゃんね。俺は横島忠夫。よろしくな」

「はい、はい、こちらこそよろしくお願いしますっ」

 感極まったさよは涙を流しながら横島の手を両手で握り返す。

 一方、夏子たちからすれば横島は、誰もいない空間に向かって話しかけ、あまつさえ握手をする仕草をする頭のアブナイ人にしか見えない。が、横島はれっきとしたGSであることを夏子たちは思い出す。

「横島……冗談じゃなくて、ホンマにそこにいるん?」

 顔を青くした夏子がプルプルと震える指で横島が向いてる箇所を指す。

「おう、いるぞ。相坂さよちゃんって言って、60年以上も幽霊やってるんだとさ」

 そう言いながら横島はポンポンとさよの頭を撫でるが、当然霊能力のない他の五人がさよの姿を見ることはできない。

 乾いた笑みを浮かべながら五人は顔を見合わせ。

 次の瞬間、辺り一帯に悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

「大丈夫、この子は悪霊じゃないから落ち着けっ!」

「は、はい、私悪霊じゃありませ〜ん」

 悲鳴に動揺した横島とさよは慌てるが、勿論さよの声は夏子たちに聞こえない。

「ホンマにホンマ?嘘ついたら後でしばくで?」

 まき絵、亜子と共に木の影に隠れながら涙目で様子を伺う夏子。

「大丈夫だから落ち着いて出てこいって」

 幼馴染の意外な一面を発見しながらも苦笑する横島。

 ちなみに裕奈は恐怖よりも好奇心のほうが勝っているようで、ワクワクと目を輝かせ、アキラは平然として横島と苦笑している。既に横島とエヴァとの戦いを間近で見たために、ある程度の耐性が出来てしまったようだ。実際に姿が見えていないというのも二人には大きいだろう。まぁ、見えていてもさよの外見は可愛らしい少女なので反応は大して変わらないだろうが。

「何々、何の騒ぎー?」

「今の悲鳴は何っ!?」

「大丈夫ですか、皆さんっ!!」

 恐る恐る木の陰から夏子たちが出てくるのと、悲鳴を聞きつけた朝倉和美、ネギ、アスナが駆けつけたのはほぼ同時だった。アスナ達の後方には遅れて駆けてくる木乃香の姿も見える。

「あわわ、朝倉さんにネギ先生たちまでーっ!?」

「よしよし、大丈夫だから落ち着こうなー」

 突然の乱入者に慌てるさよを宥める横島。

 一方で朝倉とネギ達もアキラによって説明を受ける一方、それぞれ夏子と自己紹介を交わしていた。

「へー、そこに幽霊さんおるん?」

 さよの説明を聞いてもまったく動じない木乃香は流石である。

「あぁ、いるぞ。つっても、俺もかなり気合いれんとはっきり見えないけど」

「あー、近眼の人がよくやってますね、それ」

 横島が目を細めてさよが注視しているのを評するアスナ。

 実際、さよは今までに幾人ものGSを含めた霊能者や魔法使いにもその存在を認識されず、霊体としては極めて高い隠密性を持っていたりする。

 横島が彼女に気付けたのは、さよが女の子であったことを鑑みても偶然に近かかった。

「うぅ、私やっぱり幽霊の才能無いんでしょうかー、ずっとネギ先生たちの傍にもいるのに……」

「え?ネギたちの?」

 さよの声はネギ達には聞こえないが、自分達の名前が出たことに首を傾げるネギ。ちなみに言うまでも無いが幽霊は普通の人には見えないのが当たり前である。

「はい。私ネギ先生のクラスの生徒ですから。いつも朝倉さんたちと一緒に授業受けてるんですよー」

「あぁ、ネギの生徒ってわけか。なるほど」

 確かにネギの生徒ならば四六時中一緒にいるはずである。

「ちょっと待って、横島さん。今何かさらっととんでもないこと言わなかった?」

 聞き捨てならない横島の言葉に待ったをかけるアスナ。アスナの言葉に夏子を除いて面子もうんうんと、頷いてる。

「あぁ、この子、君らのクラスメイトでいつも一緒に授業受けてるらしいぞ?」

「えーっ!?」

「あ、朝倉さんの隣の席です」

「朝倉さんの隣の席だとさ」

「あー、あの席ね」

 和美の隣の席は座ると寒気がする、ということで誰も使ってない空席になっていたのだ。

「あのあの、私ずっと一人で寂しくて友達が欲しかったんですっ。それでもしよろしければ友達になってくださいませんかっ!?それで出来ればクラスの皆とも友達になりたいんですっ!」

 さよはクラスメイトの噂で横島がGSであることを聞き知っている。GSである彼ならば自分の存在を他の者にも見えるようにできるのではないかという微かな期待を込めて。

「うーん、友達になるのは良いんだけど、後半は難しいんじゃないかなぁ」

「うぅ……やっぱり幽霊が普通の人と友達になるなんて夢物語なんでしょうか?」

 うぅ、と泣き崩れるさよ。横島としても可愛い女の子の頼みは聞いてあげたいがこればかりは如何ともしがたい。

「いや、前例はあるんだけど、さすがに姿が見えんことにはなぁ」

 生き返る前のおキヌのことを思い出しながら頬を掻く横島。おキヌの場合は伊達に300年幽霊をやっているだけあって、普通の人にも見えるだけ無く、物すら持てる大ベテランだった。

 それに対してさよは霊体として安定はしているが、存在感は希薄で物を持つのはもちろん、人に見えるようにすることすら困難だろう。

「……一体、何の話をしてるんですか?」

 横島の困った表情を見かねてアキラが口を挟む。

「ん、実はさ……」

 

 

 

 

 

「と、いうわけなんだけど……」

「んー、確かになんとかしてあげたいけど姿が見えんことにはどうにもならんもんなぁ」

 夏子の呟きに他の面々も頷く。

 最初は幽霊であるさよに怯えていた面々もさよの境遇に同情し、なんとかしてあげたいと考えているようだ。

「横島さんでもなんとかならへんの?」

「んー、ちょっと難しいかなぁ」

 前例がないわけではない。美神のところにいたときも、さよのように人に見られない状態から演歌歌手として復帰した幽霊も存在する。

 が、それはあくまで美神の地獄の鬼も裸足で逃げ出すような厳しい特訓を乗り越えてこそ可能になったことだ。

 さよのようなか弱い少女にそんなことはさせたくないし、横島にそんなスパルタはできないだろう。

「あ、したら写真とかどうやろ?ほら、よく心霊写真とかで幽霊が写ってることあるやん」

「それだーっ!!」

 木乃香の案にビシィッと指を突きつける裕奈とまき絵。

「朝倉っ」

「はいはい、オーケーオーケー」

 裕奈に促されるまでも無く、和美はすでに肌身離さず持ち歩いてるカメラを既に構えている。

「ここにいるからな」

 カメラを構えた和美に横島もさよの頭をポンポンと手を載せることで位置を知らせる。

「き、緊張しますっ」

 和美のデジカメにはカチコチに緊張した様子のさよが写し出されることになる。

「へー、この子がさよちゃん?」

「わー、可愛い子だねー」

 和美のデジカメに写し出された姿に盛り上がる少女達。

「あ……この人?」

「ん、どしたネギ?」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 さよの姿を確認したネギは慌てて3−Aの出席簿を取り出す。

「あ、ありました。名簿にさよさんのことが載ってますっ!」

「どれどれ?あっ、本当だ」

「んー?」

「どないしたん?いきなり難しい顔して?」

「いや、ちょっとな……」

 夏子の問いかけになんとも言えない顔で言葉を濁す横島。

(名簿に載ってるってーことは、学園長はさよちゃんのこと認識はしてるわけだよな?でも何の手も打ってないってことは魔法使いにはどーにもできんということか?)

 以前に、学園長と話をしたとき、多くの魔法使いは世のため、人のため、陰ながらその力を使うことを目的としていると聞いたことがある。

 もし、学園側の魔法使いがさよのことを認識しているにも関わらず、放置しているということは彼らは意図的に放置しているのか、もしくは何の手も出せないから仕方なく放置しているかどちらかだろうと横島は考える。

 魔法使いに関しては知り合いに魔鈴という例がいた為、彼女を基準に考えていたが彼女は例外的な存在だとも言っていた気がする。

 ひょっとしたら幽霊や魔物といった存在は魔法使いにとって専門外なのだろーか?

 その辺りのことを一度きちんと確認しておかないなー、と今さらながらに思う横島であった。

「それで、どうだ?さよちゃんはここにいるんだけどやっぱり見えんか?」

 以前、美神に霊というものは一度その存在を認識できれば以降は見えやすくなるという話を聞いたことがある。

 一度心霊写真としてでもさよの姿を確認できたならば、少しでも霊感があったり、霊的な相性は良ければ見えるのではないかと微かに希望を抱いたのだが。

「んー、ダメだねー。さっぱり」

「うん、ウチも見えないなぁ」

「やっぱ、無理か」

「そうですか……」

 裕奈や亜子の言葉に落胆するさよだったが、

「あ、私見えるかも……」

「わ、私も……かな?」

「ぼ、僕もなんとか……」

 ジーっと目を必死に凝らしてさよがいるのを見つめているのは和美、夏子、ネギの三人。

「ほ、本当ですかっ!?」

「おおっ、朝倉すげー」

「ネギ君や夏子さんも見えるんかー」

「なんで三人だけ見えるん?」

 和美、ネギ、夏子の三人の視点では最初は薄ぼんやりとした人影としてしかさよを認識できなかったが、それが徐々にはっきりとしたものになっていく。

「んー、そうだなぁ。朝倉さんはずっとさよちゃんの隣にいたから霊波の波長が合っちゃったんじゃないかなぁ」

 横島が霊視した限りでは和美からは特別強い霊力や霊感の類を持っているようには見えない。

 波長が合うというのはある意味憑かれている状態に近いのだが、診た限り特に害はなさそうなので横島は黙っていることにした。

「んで、ネギと夏子は他の人よりちょっとだけ霊感が強かったんだろ、多分」

「そかー。さすが専門家。頼りになるなぁ」

 木乃香の言葉にアキラ達も横島を見直したように頷いている。

 実際には魔法使いだから見えたんじゃないかなー、ぐらいに思って適当に言っただけであるのだが。

 とはいえ、ネギ達、魔法使いは横島の言うとおり、魔力を扱うだけあって一般人よりは遥かに霊的な存在を感じ取りやすいのも事実なのであながち的外れとはいない。

 最初にさよを認識できなかったのはさよの極めて優れた隠密性が原因である。他の魔法使い達もあらかじめさよの存在を認知し、その場にいると知らなければやはりその姿を確認することはできなかっただろう。

「良かったな、さよちゃん。これで一気に友達が三人も増えたぞ」

「は、はい!あ、あの改めて私の友達になってくれませんか?」

 さよの姿が見えるようになった三人に改めて自らの言葉で願いを告げるさよ。

「もちろん、私でよければ」

「僕のほうこそ、よろしくお願いします」

 和美とネギは笑顔で手を差し出し、

「う、うん。まぁ、よろしく……」

 と、夏子は恐る恐る引きつった笑顔で手を差し出した。

「あ、ありがとうございますっ」

 感極まったさよは嬉し涙を流しながら三人の手を抱きかかえるように握り締める。

 さよの姿が見えない面々は「いいなー」、といいながら羨ましそうにその光景を見守っていた。

「なぁ、夏子。おまえもしかして……」

 ただ一人、夏子の様子を不審に思った横島が声をかけると、夏子はビクッと体を反応させる。

「幽霊が怖いのか?」

「……」(コクコクッ)

 涙目で頷く夏子。

 

 沈黙の間。

 

 

 

「だってだって、昔めっちゃ怖い目あったんやもんっ!幽霊イヤ!怖いのイヤ!モガちゃん人形イヤーっ!!」

 何かのトラウマでも思い出したのか、いきなり泣き叫びだす夏子。

「お、落ち着いて夏子さんっ!」

 泣き叫ぶ夏子を必死の思いで宥めるアキラ達の頑張りでどうにかこうにか夏子は平常心を取り戻すことになる。

 落ち着いた彼女の話を聞いたところによると、何でも小学生の頃にモガちゃん人形の大群に自分の部屋の人形を持っていかれた経験があるとか。

 幸い、夏子自身は無事だったが、大量のモガちゃん人形が動いて迫ってくる光景が彼女のトラウマとなってしまい、魔法使いとなった今でも幽霊やお化けの類は苦手になってしまったらしい。

「あいつそんな昔から動いてたんか」

 中学生の女の子に宥められながらくすんくすん泣いている夏子を見ながら横島が苦笑する。

 夏子の見たモガちゃん人形の群れはかつて美神が所持することで魂も持ったあのモガちゃん人形にまず間違いないだろう。

「知ってるん、横島さん?」

 木乃香の問いに頷く横島。

「あー、助手やってたころにそいつと戦ったことあってなー。あれは確かにおっかなかった」

 確かにアレは怖かった。日頃、化け物の類は見慣れている横島でも相当ビビッてたのだから、幼い夏子がトラウマになるのも無理はないだろう。

「大丈夫だ、夏子。そのモガちゃん人形はとっくの昔に美神さんが退治してるから」

 美神さんの霊力で魂を持った他の人形がいないとも限らんがなー、という思いは心の中でだけ呟く。

「それにさよちゃんは悪霊とは程遠いから怖がらなくていいって」

「そ、そうですっ。わたしそんな怖いこと出来ませんからっ!と、いうか私も怖いのイヤですっ」

 その言葉通り、夏子の話を聞いて一番怖がってガタガタ震えていたのはさよだったりする。その証拠に瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「さよちゃんっ」

「夏子さんっ」

 ガシッと涙目の二人ががっちりと手を握り合い、ここに新たな友情が誕生した。

 おー、とパチパチと拍手を始めるネギと和美。さよの姿は見えないけどそれにつられるようにして拍手をするクラスメイト達。

「まー、めでたしめでたし、かな」

 と、横島が安心するのはまだ早かった。

 ネギ、和美、夏子の三人を通訳として、女の子達の会話が盛り上がったのは良い。横島としても微笑ましく見守っていた。

 だが、話題が明日の修学旅行のことになると途端に雰囲気が暗くなってしまった。

「実は私、地縛霊だから学校の周辺しか動けないんですー」

 と、いうわけでさよは修学旅行に行けないという事実が発覚したのである。

 自然とその場にいるものの視線が横島に向けられる。

「え?え?」

 過去、様々なGSや魔法使いにも認識すらされなかったさよだ。地縛霊である以上、麻帆良から彼女が出ることも難しいだろう。

 だが、それでもネギと彼女達の視線は訴えていた。

 

 それでも横島さんなら…横島さんならきっと何とかしてくれる…!!

 

「い、いや、落ち着け、みんな。な?」

 その視線にたじろぎ、汗を掻く横島。

 GSとしての力は一級品である横島だが、生憎と彼にはその自覚とGSとしての知識が圧倒的に不足してる。

 言うまでも無く、地縛霊であるさよをどうにかする術など知っているはずも無かった。

 無言のまま両手を挙げ、イヤイヤと首を振って後ずさる横島。

 が、横島が後ずさった分だけ詰め寄るネギと少女達。

「――はっ!?」

 気付けば横島の背後は壁に遮られ、既に逃げ場は無かった。

「……お願いします。横島さんだけが頼りなんです」

 ガシッとアキラに手を握られ、真摯な瞳で見つめられる。

 サッとその視線を右に逸らす。

 そこにはネギ、さよ、夏子、アスナの視線。

 左側に視線を逸らす。

 待ち構えていたのは裕奈、亜子、まき絵、木乃香の視線。

「はははははっ、このGS横島に任せなさいっ!!」

 大した時間を持ち堪えることなく横島は敗北した。

 

 

 

 

 

 数分後。どこかに連絡を取っていた横島がなんとかなりそうだ、と告げ、ネギ達がクラス全員誰一人欠けることなく修学旅行に行ける事を喜ぶことになる。

 さよやアキラ達を始め、誰もが横島に感謝の言葉を告げる中、その横島の背中が煤けていたことを気付くものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/8/28

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よーやく修学旅行前準備編終了。うーん、3話くらいでまとめるはずがエヴァ編より長くなってるオチ。

ともあれ次回から修学旅行編に突入です。

>個人的には横島とアキラ・夏子の仮契約が見てみたいです。
>この話では魔族化した魂の力を使う機会ってあるのかなぁ?それも是非見てみたいです。体調に気をつけてこれからも頑張って下さい。
ありがとうございますー。仮契約候補にその二人は入ってるのですが、現時点では未定っすねー。
特に中学生組にチャンスがあるであろうラブラブキッス作戦に横島をターゲットにするか、というとうーん?ってな感じですし。
子供のネギと違って遊び相手には不向きというかなんというか。おもちゃ的な意味ではアリでしょうけど。
魔族化はしてても本編のほうでも封印状態なんで少なくとも学園祭編までは使う予定なしですね。

>夏子登場話では実はずっと好きだった。ってのが多い中、これは新鮮。正直その手の話には違和感感じてたので、個人的には賛成です。
>勿論ここからヒロインに昇格、に反対ってわけでも無いです。想い続けてた、ってキャラじゃ無いだろう、ってだけなので。
>そしてアキラが修学旅行編で割を食う、ってことですが、非戦闘員なら二日目夜でスポット当たるだけで十分だと思いますよ。
いつも感想ありがとうございます。
まぁ、ずっと想い続けられる人もいないとは言いませんが、やっぱ小学生の頃の想いをずっと持ってるというのも不自然ですよねー、と。
再会することでまた湧き上がるということは充分アリですけどね。非戦闘員でも本誌のネギま見てるとなんとか活かす道はあるかなー、とか思案中。
どーもアキラヒロイン説が受けてるっぽいんで活躍の場は増やしてあげたいです。

>ああ・・・横島のボケと悲鳴を聞いてると心が高鳴ってきます。はっ、これが・・・変!?
>GSとネギまのクロスは数あれど、同一世界で且つルシオラ復活は珍しいです。
>今後も横島を「人類の裏切り者」ネタでからかってやってください。恋人が居る奴は、敵じゃ!
>あと、「魔族化」してるってのは地雷ですね…。うまく使えば物語を引き立てれますが、失敗すると収集が付かなくなる恐れがあります。劇薬の使用はご注意を。
>神族公認ってのを出せば一発で黙らせれるとは思いますがw
>あと、孫悟空の直弟子ネタはどこかで出してくれるとうれしいですね。
同一世界は設定の擦りあわせとかがめんどいですからねー。とりあえず独自解釈しつつ、今のところ曖昧に誤魔化してます(苦笑)
そのうちちゃんと書かないといけないんでしょうが。魔族化は上でも書いてるとおり今のとこ使う予定はなしです。そもそも横島の本文は他力依存ですからw
「人類の裏切り者」ネタに限ったことでもないですけどあんまり同じネタを使いまわすとマンネリ化しそうなので多分自重します。
孫悟空の直弟子云々は少なくともここの横島は弟子というより認識はなくていびられた相手くらいにしか思ってないですw
小竜姫は手取り足取り教えてもらいたいという願望から師匠と思ってそうですがー。

>ただ一言。面白かった
ありがとうございますー。

>夏子か…良いですね。
まぁ、出た早々修学旅行編では出番なさそうですが(苦笑)

>プロローグからまとめて読みましたが、最高に面白かったです!
>今後の展開も楽しみですが、約600歳のエヴァとピート(約700歳)やカオス(約1000歳)が絡んだら楽しいことになりそうですね。
ありがとうございます。
GSの吸血鬼はなんか吸血鬼同士でネットワークがあるっぽいので知り合いの可能性は充分にありますねー。カオスのほうは知り合っていてもボケて忘れてるかもしれません。

>まだ読み始めだけど面白そう・・・
期待に応えられてば良いのですが・・・

>エヴァは横島に興味持ったりするんでしょうかね
オモチャ的な意味で持ってそうです。

>おもしろいっすね〜 夏子がグレートマザーに見えました
まー、そこまでは強くないですけど麻帆良では今のとこ貴重な突っ込み役ですね(物理的な意味で)

>一気に読みました!ネギま!とGSのクロス作品が増えてますが、久しぶりに新鮮で面白い作品が読めて感激&感謝です!
>特にアキラとの絡みがいい感じ〜。横島に嫉妬するシーンとか想像すると・・・w!!裕奈とパルとかも面白そうだけど。なにはともあれ期待大です!
>GSもネギまも好きな作品ですから、これからも楽しみにしています。いつまでも続きを待ってますので、これからも頑張って下さい!
楽しんでいただけたようで何よりです。ゆーなとパルは嫉妬というより人の恋愛模様をかき乱して楽しむタイプですねw

>1話から一気に見ました世界融合系のSSは珍しかったです
そうですねー。世界融合系の利点を活かして色々GSネタを絡めてきたいです。

>乙でした
ういー