GSと魔法使い(仮)
「で、今度は何なんスか?」
横島が通う高校の美術準備室。
そこには横島を始めとして、愛子、ピート、タイガーをといったいつもの面子、通称”除霊委員”が集められていた。
「コレなんだけど」
そう言って美術教師、暮井緑が指差したのはやたら古びた一つの壷だった。
「先生……これは……」
その壷の怪しげな雰囲気にピートが引きつった声を出す。
そう、その壷はただ古いというだけでなく、その口には一見してわかるように布が雁字搦めに巻かれており、さらに一枚の札によって封印されていた。
少しでも霊感があるものならば、あからさまにヤバイと感じるような代物であった。
「街の骨董品屋で買ったんだけどね、何をどーしても封を破れないのよ」
何気なく寄った店で、絵のモチーフに良さげだと買って帰ったまでは良かったものの、封が邪魔で壷の外観が損なわれている。
布で巻かれている部分を想像や推測で補えなくもないものの、画家としてはやはり本来の姿を描きたいというのが性分であろう。
だが、自分で封を取ろうとしてもビクともしない。
そこで除霊委員の面子にこの封印を解かせようとわざわざ収集をかけたのである。
「こんなあからさまに怪しいものの封印を解こうとせんでくださいっ!!」
かつて、いや、現在進行形であらゆる災厄に巻き込まれる才能を持つ横島が除霊委員全員の気持ちを代弁して暮井に詰め寄る。
彼の勘が全力で警報を鳴らしている。
『あの壷は危険だ……!』
無論、他の除霊委員も同じ意見だ。
「オカルトGメンか、エミさんあたりに相談して引き取ってもらうのが無難じゃと思うケンノー」
「そうねー、この状態でも魔力が漏れてきてるもの。迂闊に封印を解くのは危険だと思いますよ?」
「と、いってもねー。こっちもそれなりにお金出してるからそれじゃつまんないのよ」
ぷかー、とタバコの煙を蒸かす暮井。
タイガーと愛子の言葉もどこ吹く風だ。
「・・・先生、ここは禁煙だと思うのですが」
ピートの言葉にも耳を貸さず、暮井は横島へと目を向ける。
「この封を解けるなら、次の授業でヌードモデルになってもいいけど?」
「任せてくださいっ!この布を剥ぎ取ればいいんですねっ!?」
目を輝かせた横島が神速で壷を手にして札を剥がそうとする。
当たり前といえば当たり前の反応だが、暮井以外の面子は皆コケた。
「よ、横島くんーっ!?」
「あ、あなたという人はーっ!!」
愛子とピートが詰め寄るが煩悩全開の横島が二人の声に耳を貸すはずがない。
「くっ、あ、あれ?開かないっ!?なら、これでっ!」
霊力を込めた手で力尽くで札を剥がそうとしても、封印が強固なのかびくともしない。
ならば、と横島は文珠を取り出し、”解”の文字を込める。
貴重な文珠をこんな容易に使うのは理不尽極まりないのだが、暴走した横島がそんなことを考慮するはずも無い。
「ふははっ、美への探究心の前にはこんな封印、へでもないわーっ!」
壷が文珠の輝きの包まれる中、愛子、ピート、タイガーの三人は横島に対して呆れと諦観の表情を浮かべるのみだった。
「よしっ、解けたっ!」
文珠の輝きが収まると同時に壷に張られた札が剥がれ、自然と巻かれた布も剥がれ落ちる。
「わははっ!これでヌードモデルゲットじゃ……・あ?」
横島が浮かれるのも束の間、手にした壷の口に触れた途端、莫大な魔力がその壷から溢れ出す。
「あ、あれ……?なんかイヤ〜な予感が」
タラリと横島が冷や汗を流すも既に手遅れ。
既に暮井はもちろん、他の除霊委員も横島から大きく距離を取っている。
「う、うわあぁぁぁっ!?」
次の瞬間、横島は壷の中へと吸い込まれていった。
ドップラー効果を発しつつ、遠ざかる横島の叫び声。
横島の声が聞こえなくなると同時に壷から発せられた魔力が無くなる。
「……こういうのを自業自得というんですカイノー」
「ま、横島くんなら大丈夫でしょ」
「殺しても死にそーにありませんからねー」
残った者たちは誰も横島の心配をしていなかった。
「うわあああああああぁぁぁっ!?」
壷の中に吸い込まれた横島は次の瞬間には空中へと放り出される。
「へ?」
無論、空中にいる以上、重力があるために落下するのは必然。
「どわぁっ!?」
幸い、というべきか落下した先は硬いコンクリートや地面ではなく、水面だった為に怪我をすることはなかった。
「ぷはぁっ!な、何が起こったんだ?」
辺りを見回すとそこは高級ホテルの大浴場のような造りをしていた。
だが、外は既に日が落ちているようで窓から見える空には星が浮かんでいる。
「貴様……何者だ?」
「へ?」
横島が声のほうを振り向けば、そこには皮製のドレスを着込んだ金髪の美女が警戒心を含んだ目で東屋の屋根の上から見下ろしていた。
何故かその周りにはメイド姿の少女5人を侍らせて。
UP DATE 08/1/25
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