「遅い・・・・・・」
待ち合わせの時間から5分もオーバーしてる。
なのになんで・・・・・俺しかきてないんだ?
俺一人が遅れてくるってなら、よくあることだが・・・・
「あ、いたいた、智也ー」
「智ちゃん♪おっまったせぇ〜」
「遅いぞっ、おまえ・・・・・ら」
「ごめんね、ちょっと準備にてまどちゃって・・・・」
「ねぇねぇ智ちゃん、似合う〜?」
「・・・・・・・」
「智也?」
彩花の言葉で正気にもどる俺。
いかん、思わず二人の浴衣姿に見とれてしまった。
「え?あ、ああ二人とも結構似合ってるんじゃないか?」
「えへへ〜、ありがとっ、智ちゃん」
彩花は青い布地にトンボの模様、一方唯笑は赤い布地に猫の模様の浴衣。
二人の浴衣姿を見るのは随分久しぶりのような気がする。
「ほら智也、ぼーっとしてないでそろそろ行こ?」
「ああ、そうだな」
「わあー、やっぱりお祭りだけあって人がいっぱいだね〜。あ、見て見てっ、あのぬいぐるみ可愛い〜!」
夏祭りの喧騒の中、はしゃぐ唯笑。まるで子供のようだ・・・いや子供そのものだな。
俺と彩花、そして唯笑は毎年三人でこの祭りにきているが唯笑の行動パターンが変ってない気がするのは俺の気のせいだろうか?
「ぶぅっ、唯笑子供じゃないもん!」
「俺の心理描写を勝手に読むな!」
「まぁまぁ唯笑ちゃん、せっかくのお祭りなんだからそんなことで拗ねないの」
「うん、それもそうだね。あ、金魚すくいがあるよ」
3秒で機嫌を直して、金魚すくいの店に駆け寄る唯笑。
そんな唯笑に俺と彩花は顔を見合わせて苦笑していた。
結局、唯笑と彩花が金魚すくいにチャレンジしているわけだが・・・・・
「あっ、もうちょっとだったのに〜」
既に失敗した唯笑が唯笑に続き彩花も失敗する。
彩花の和紙を貼ったもの・・・・ポイというらしいが、すくい上げた金魚が暴れて紙が破れてしまう。
「あはっ、彩ちゃんも失敗だね〜」
「よし、ここらで真打の登場だな」
俺は屋台の親父に金を払いポイを受け取る。
「智ちゃんて、金魚すくい上手かったけ?」
「当然だろう。第20回澄空高校金魚すくい選手権2年連続制覇は伊達じゃないぞ?」
「ハァァァ・・・・・そんなのいつやったのよ・・・」
彩花に特大の溜息をつかれてしまったがいつものことなので気にしないでおく。
「まぁ、見てろ。金魚すくいの手本をみせてやろう」
まずは最初にポイを水に入れて、全部濡らす。
「あれぇ?いきなり水の中に全部入れちゃうの?」
「まあな。部分的に濡らすとそこから破れるからだ」
ポイを水に入れるときのポイントは、斜めから入れて水の抵抗を少なくすることだ。
そして水面近くまで上がってきた獲物に狙いをつけ・・・・・・素早くすくい上げ、手にしたボールへと放り込む。
「わ、ほんとに取っちゃった・・・・・」
「すごいっ、すごーいっ。さっすが智ちゃん」
「フッ、これくらい軽い軽い」
調子に乗った俺はそのまま次の獲物へと狙いを定めた。
「でも、智也があんなに金魚すくい得意だって、知らなかったなー」
「ほんと、ほんと。誰にも取りえはあるもんだね〜」
「唯笑・・・・・、それはどういう意味だ?」
唯笑の手にしたものに思いっきり冷たい視線を送ってやる。
「え?あ、ああ、と、とにかく智ちゃんは凄いよってことが言いたかったのっ!」
その視線に気付き、慌てる唯笑。
「・・・・・たくっ」
あの後俺は計6匹の金魚の捕獲に成功し、それらは彩花と唯笑が半分ずつ持っている。
「それより二人とも、そろそろ花火が始まる時間だよ?」
「お、もうそんな時間か?じゃ、例の場所に行くか」
例の場所っていうのは俺ら三人が毎年花火を見るときに使っているとっておきの場所だ。
ちょっと入り組んだ場所にあるのが難点だが、見晴らしもいいし、知る人ぞ知る穴場なのだ。
「あ、ゴメン。唯笑は音羽さん達と約束があるから二人で行ってきてよ、ネ?」
それだけ言った唯笑は止める間もなく走り出してしまった。
「お、おい」
「あ、唯笑ちゃん!」
慌てて声をかけるが、唯笑はそのまま行ってしまった。
「・・・いっちゃったね・・・」
あいつなりに気を使ってくれたのかもしれない。
俺と彩花が付き合い始めてからも二人でいるより三人でいることのほうが多かった。
「たまには・・・・二人きりってのも悪くないか・・・・」
「ウン、そだね・・・じゃ、いこっか?」
そういうと彩花は俺の腕をとって歩き始めた。
「あ、彩花?」
「たまには・・・こういうのも悪くないよね?」
歩きながら彩花は顔を真っ赤にして上目づかいで見上げてくる。
「・・・・・だな」
そんな彩花を、愛しく思いながら俺も歩き始めた。
「わあー、きれいだねー」
次々と打ち上げられる花火に見とれながら彩花が声をあげる。
「そうだな・・・・」
軽く相槌をうったものの、俺は花火より彩花に見とれていた。
花火の光によって映し出された彩花の姿はなんというか・・・・いつもよりも綺麗に見えた。
不意に彩花の手が俺の手に重ねられる。
俺も彩花の手を軽く握り返す。
「・・・来年もまた来ようね」
「ああ・・・来年も再来年も・・・」
「ずっと・・・・・ずっと一緒だよ・・・」
俺達はそのまま花火が彩る空に見入っていた。
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ネメシス「初のSS第一弾・・・・うぐぅ・・・上手くいかないもんだねぇ・・・」
栞「え!上手くいったSSなんてあるんですか?」
ネメシス「んな、大きな声で聞き返さんでも・・・・・」
栞「まぁ、いいですけど。これからもこういうSS書いてくんですか?」
ネメシス「おう、メモオフは彩花と詩音を中心に順次増加予定だ」(注:あくまで予定)
栞「私達のSSはどうなんですか?」
チャキ
ネメシス「・・・そのうち書く予定だからその物騒なものをしまえ」
栞「約束は約束ですからね♪書かなかったらどうなるか・・・楽しみにしてますよ」
「・・・・はい」