MemoriesOff Another Summer Vacation

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏。さんさんと照らしつくす太陽。うだるような気温。文句のつけようもないくらい完璧な夏である。

 暑い。誰がなんと言おうと暑い。正直普段なら速攻で帰って冷房の効いた部屋で涼みたい。暑いのも無駄に汗を流すのもイヤだ。

 が、今日に限って言えば話は別だ。目の前には見渡す限りの海。プライベートビーチというだけあってこの時期にはお約束の人混みもない。

 金持ちってすげー。何かもう色々びっくりだね。金ってあるところにはあるんだなぁ、と感心せざるを得ない。

 そしてそれ以上にこの先に待ち受けるパラダイスに俺の胸はワクワクドキドキで一杯だっ!

 そう、何故ならば……

「俊くーん!」

「すみません、遅くなってしまいました」

「お待たせです」

 振り向くとそこには三人の女神が立っていた。

 いや、もう比喩表現とかそんなもんじゃなくて。

 眩いほどに白い肌。風になびく髪。そして布面積の少ない水着。

 これにくらっと来ない男はいるはずがない。もし、いたとしたらそいつは男として大事な何かが欠落にしているに違いない。

 ってゆーか、なんでおまえらそんなに大胆な水着なんだ、おい。いや、嬉しいけどさ。

「えへへ……どう、かな?」

「三人一緒に新調したんですけど……」

「似合い……ますか?」

 それぞれが白、赤、青の水着に身を包みながらはにかむ姿はまさにこの世の奇跡。

 ビバ水着!ビバ海!夏サイコーっ!!

「俊くーん?」

「はっ!?」

 気付くと俺は不機嫌そうな彩花によって口の中に指を入れられて左右に引っ張られていた。

「せっかく、可愛い彼女が水着姿で登場したっていうのに何も言わないのは失礼なんじゃないかなー」

「ごへんひゃはあい。おもっひひひみひょへててこほひゃにならなひくひゃいかんひょうひてまひた(ごめんなさい。思いっきり見とれて言葉にならないくらい感動してました」

 俺の言葉に彩花の指の力が一瞬緩む。間違いなく俺の言葉に照れてやがる。

「あの、彩花さん、その辺で許してあげたらどうでしょうか?」

 ナイス、フォローだ、詩音。

「ほーだ、ほーだ、ひひょんのゆうほほりふぁ。ほのおひあひゅま(そーだ、そーだ、詩音の言う通りだ!この鬼!悪魔!)」

「ふーん、そういうこと言うんだ?この口はー?」

 力の緩んだ指が一瞬でさっき以上の力で引っ張れる。痛い痛い!本気で痛いってば!マジで涙出てくるからっ!

「ごへんひゃはい、ごひゃんひゃい、ひょうひにのひゅひまひた。ゆひゅひてくひゃひゃい(ごめんなさい、ごめんなさい、調子に乗りました。許してください」

「うん、よろしい」

 彩花はにこっりと笑ってようやく手を離してくれた。おお、いてぇ。千切れるかと思ったぞ、全く。何時になっても手加減を知らない奴だ。

「もしかしてあの状態でコミュニケーションを成立させてたんでしょうか?」

「彩花さん……恐ろしい人ですね」

 機嫌を直した彩花の後ろで詩音とさやかが何か言ってるみたいけど離れてるのでよく聞こえない。

「さて、改めて、どうかな?」

 と、先ほどまでの不機嫌さはどこいったのやら。やや照れながらくるりとターンを決める彩花。

「似合ってる。完璧だ。似合いすぎて本気で見とれた。頭が真っ白になった」

 感じたままの感想を口にする。自分で言ってって捻りも何も無いと思うが、そう感じたのだから仕方ない。

「う、うん。ありがと……」

 俺の言葉があまりにもストレート過ぎたのか、頬を染める彩花。うむ、そんな初々しい反応されるとこっちまで照れてくる。

 彩花の水着は白いビキニタイプ。出会った当初より格段に成長している胸の膨らみとか腰のくびれとか魅惑のお尻とかもう全てがパーフェクトっ!冗談、お世辞一切抜きで素晴らしい。

「俊・一・さ・ん?」

「私達もいるんだから二人だけの世界作らないでくださいねー」

「痛いっ、痛いっ!耳を引っ張るな二人ともっ!」

「だったら私達の水着もちゃんと見てくださいっ!俊一くんの義務ですっ」

 そんなものは初耳だ。彩花はともかく友達以上ではない二人の水着を俺が評価する義務は何処にもないはずだ。

 でもね、残念ながらボクに拒否権なんてものはありませんでした。だって後が怖いもんっ!

「うっ……うん、まぁ、二人ともよく似合ってる」

 二人の水着姿を間近で見て思わずのけぞってしまった俺は悪くない。

 いや、マジで。詩音もさやかも彩花に負けず劣らず可愛いと言うか綺麗と言うか。

「……ありがとうございます」

「俊一くんがそう言ってくれるなら水着選びに悩んだ甲斐がありました」

 っていうか三人とも布面積の少ないその水着は嬉しいけど正直目のやり場に困ります、ハイ。

 男としては美少女三人の水着姿にうはうはというか眼福この上ないんだけどなっ!

「――はっ!?」

 気付いたら彩花さんがめっちゃ睨んでるっ!?

「よ、よしっ!時間も勿体無いし、今日は遊び尽くそうっ!なっ!!」

 パンッと手を打って彩花の手を引っ張って走り出す。

「あっ、ちょっとぉっ、そんなに引っ張らないで大丈夫だからぁっ!」

 彩花の声を聞こえない振りしてそのまま海へ向かって走り続ける。

「あっ、ちょっと待ってくださいーっ!!」

「置いてかないでくださいよーっ!!」

 詩音とさやかの声を置き去りにして、彩花と二人で海に飛び込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、なんでこんなことになったのか、少し説明しようか。

 俺が彩花に告白した後も色々あって、その後めでたく俺と彩花は付き合い始めることになる。

 色々あったけど彩花のことを想い続けて本当に良かった。とはいえ、無事に付き合い始めたからと言って、そこでハッピーエンド、と言うわけにはいかない。

 俺と彩花の物語はまだまだ続いていくのだから。

 俺たちが付き合い始めてからも色んなことがあった。何故か彩花と詩音がルサックでバイトを始めたり、朝凪荘に引っ越したり、どこぞの本屋の店員に因縁を付けられたり、信が学校を辞めてフリーターになったり、楽しい楽しい修学旅行などなど本当に盛り沢山だった。

 ちなみに詩音とさやかは俺達が付き合い始めても、

「私、まだ諦めませんから」

「私が俊一くんを好きでいるのは自由ですよね?」

 と、素敵な笑顔で宣言されました。

 幾度と無く、二人に俺は彩花一筋で二人の気持ちには答えられないと伝えても、二人の気持ちはそう簡単には変わらないそうで。

 えぇ、二人の気持ちは嬉しいけど恋人がいる身としては困ると同時に非常に申し訳なく思うところで。

 どこのギャルゲーの主人公だ、お前は、と自分で突っ込みたい。

 そんなこんなであっという間に高校最後の夏。

 世の高校三年生の多くがそうであるとおり、受験生である俺も彩花と同じ大学に通うべく毎日図書館で彩花と猛勉強。時々、彩花に引っ付いてきた今坂や智也がいるのはまぁ、良いだろう。

 そこに詩音とかさやかがいる時があるのか物凄く不思議で仕方ないがなっ!

 とにかく俺は頑張った。高校受験ん時は大して勉強した記憶もないけど、流石に大学はそんなに甘くない。

 周りの助けや必死の頑張りもあって、こないだの模試で見事にA判定!やったね、俺。これが愛の力という奴だ!

 もし、恋人と一緒に大学に行くと言う目標も無い独り身だったら、やる気でなくて浪人一直線だったに違いない。素晴らしきかな、愛のパワー。

 と、いうわけで模試のA判定のご褒美と息抜きを兼ねて彩花と二人で旅行に行こうという話になった。

 んで、ルサックで旅行のパンフレットを見ながら計画を立てていたわけだ。

「うーん、やっぱりこのシーズンだとどこも混んでるね」

「だなぁ。避暑地っぽい山はどこも予約一杯だし、海は人多すぎで逆に疲れそうだしなぁ」

 うーん、と二人で頭を抱えて唸る。旅行の計画立てるにはちょっと初動が遅かったようだ。

「だったらウチの別荘とかはどうですか?プライベートビーチだから人もいませんし、旅行には持ってこいだと思いますよ」

「あ、相摩さん、注文よろしいですか?」

 不意に聞こえた声に恐る恐る顔を上げる。ええ、もちろんそこには予想通りの人達が平然と俺と彩花の隣に座ってますよ。

 彩花のほうもなんともいえない微妙な表情で眉を顰めている。

「おまえら、どっから沸いてきた?」

「失礼ですね、たまたま俊一くんたちを見かけたから同席させていただいただけです。ね、詩音さん?」

「さやかさんの言うとおりです。えぇ。間違っても稲穂さんから情報を貰ったということはありませんとも」

 ほう。

 反射的にバックヤードのほうを見ると信がこっそりとこちらを窺がっていた。俺と目が合うと慌てて奥に引っ込む。

 同じように信を発見していた彩花とアイコンタクト。

 

 ――信くんには後できっちり復讐しようね

 ――おう、もちろんだとも

 

「二人で通じ合ってないで話聞いてもらえます?」

 ぷくーっと頬を膨らませるさやか。

 ちょっと可愛いかな、と思わないでもないけどそれ以前に君は色々間違ってる。

「いや、俺たちはあくまで二人で行く旅行の計画立ててるんだが」

「でも、今の時期ですと何処も混んでいてあまりゆっくりできないのでは?」

「その点、私の家の別荘ですと、人がいないので静かですし、海もありますし、快適に過ごせると思いますよ?」

「うぅ……」

 項垂れる彩花に対し、「もちろん、私達もご一緒させてもらいますけど」、と付け加えるさやか。

「っていうか、おまえも随分腹黒くなったな、おい」

「はい、俊一くんの影響ですね」

「違いありません」

「即答かよっ」

 えー、俺のせい?いや、彩花さん、そこで睨まれても困るっちゅーにっ!

「とりあえずそんなことは信に蹴飛ばしておいてだ。どうしよっか?」

 実際、詩音の言うとおり、今の時期だとどこも混んでてゆっくり過ごせるところを探すのは難しい。

「むー」

 彩花と二人で唸る。

「ちなみに場所はちょっと遠いですけど、息抜きに最適な場所だっていうのは保障しますよ?」

「二泊三日の場合は、こんなスケジュールでいかがでしょうか?」

 ぱさぱさっと、プリントされた紙束を差し出す詩音。

 うわぁ。行きの電車やら乗り換えのバスやら周辺の買い出しできる店まで全部調べ上げていやがりますよ、この人達。

 

 

 

 

 

 結局、他に良い場所も見つけられなかった俺と彩花はこうしてさやかんちの別荘とプライベートビーチへとお邪魔しているわけだ。

 

 

 

 

「えいっ!」

「それっ!」

「隙ありですっ!」

「って、三人で俺一人を集中攻撃してんじゃねーっ!!」

 気付いたら三方から集中的に水をかけられていた。

 って、怒鳴ってる間に口に水入ったっ!?

「男の子なんだからこれくらいで文句言わないのっ」

いや、男だからってこの物量は覆せないからっ!?

「んなくそっ!!」

 三対一ではこちらが圧倒的に不利。くっ、ならば一点突破を図るのみっ!

「オラオラオラオラオラオラッ!!」

「って、なんで私なのっ、きゃーっ!?」

 何故、ターゲットは彩花か?そんなのは日頃やれてる分を少しでも返す為に決まってるだろうっ!

 と、いうか詩音とさやかと扇動して俺を攻撃し始めたのはお前だっ!!

「彩花さんばかり狙っていると足元を掬われますよっ!」

「いてっ!?ってか、ボール攻撃は反則だろ、詩音っ!!」

 こらこらこらぁっ!三対一でも卑怯なのにビーチボールまで持ち出すなぁっ!

「残念っ!ルールがないのがここのルールですっ、えいっ!」

「だから三対一はアンフェアだあぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲れた。とにかく疲れた。ビーチパラソルの下でグデッと伸びる。

 美少女三人の中に男一人って一見ハーレムっぽくてウハウハなんだけど物凄い疲れるんだぜ?や、楽しかったけどね?

「うふふ、もうバテちゃったんですか?」

 にゅっと仰向けになった俺を覗き込んでくるさやか。

「むうっ……」

 手を突いて四つんばいになった姿勢は彩花や詩音とは一線を画した戦力がより一層強調され、思わず圧倒されてしまう。

 地に付いた両腕に挟み込まれた胸が水着からはちきれんばかりに強調される。

 いや、普段から結構なボリュームがあるなぁ、とは思っていたけどここまでとは……。

 男として非常に惜しいのだけれども、彩花の彼氏としては目の毒なので目を閉じておく。

「三人がかりで散々攻めてこられたら誰だってこーなるっての。疲れたからしばらく休む。放っといてくれ」

 あれはふつーにいじめだ。

「うふふ、じゃあ、お詫びに膝枕してあげますね」

 ずさっと、瞬時に飛びのいた。相変わらずさらっととんでもないことしようとしやがりますね、この人はっ!!

「そーいう反応はちょっと傷付きます」

「いやいや、君の発言のほうに問題あるから」

 非常に魅力的な提案でもあるけど彩花がいるのにそんなことはできない。と、いうわけでいくらしょんぼりされて罪悪感が沸こうともここは譲れないぞ。

「どーしてもダメですか?」

「無理」

 ここは断固拒否。っていうかいつの間にかさやかの後ろからジーっと彩花さんが見ているので間違っても了承できません。見てなくてもしないけどっ。

「残念です」

 うむ、納得してくれて何より。俺も心から安心できたよ。

「と、ゆーわけですので、彩花さんどうぞ?」

「え?」

 いきなり話を振られた彩花がきょとんとしている。

「俊一くんは彩花さんの膝枕でないとダメだそーです。私達に遠慮しないでどうぞ」

「え?え?え?」

 ささ、どーぞ、どーぞ、なんて言って彩花を押し出すさやか。

 グッジョブだっ、さやか!

「え、と、あのさやかちゃん?」

「彩花さんがなされないのでしたら、私が……」

「それはずるくないですか、詩音さん?」

 何やら詩音とさやかが口論を始めたが、とりあえず放っとこう。触らぬ神に祟りなし。

 とりあえず彩花に期待を込めた眼差しをじっと送ってみる。

「うぅ……」

 なんだかよくわからんが彩花の中では膝枕に何か抵抗でもあるんだろうか?

「えっと……どうしても嫌なら諦めるけど」

「べ、別に嫌ってわけじゃっ……ただ、こうして他の人の前で改めて膝枕っていうのも、ねぇ……

 ごにょごにょと後半から声が小さくてよく聞き取れないけど、その顔が真っ赤に染まっていく。すいません、破壊力でか過ぎ。

 うむ、これは是が否でも彩花に膝枕してもらわんとなっ。

 これが胸の大きさが戦力の決定的差でないという証拠かっ!!ちなみに今の台詞を声に出してたら明日の夕日は見られないので間違っても口にしない。

 やがて意を決したのか、彩花はペタンと腰を下ろし、

「ど、どうぞ……」

「お、おう」

 うん、そんなに緊張されるとこっちまで緊張してくるねっ。つーか、心臓バクバクしてきた。

 自身の頬が熱を持つのを感じながら、恐る恐る頭を彩花の膝へ。

 柔らかい。やべ、すげー幸せかもしんない。夢にまで見た彩花の膝枕。しかも水着バージョンだっ!

「ど、どう、かな……?」

 顔を真っ赤にしたまま緊張した声を出しながら覗き込んでくる彩花。

「えっと、うん……いい感じ」

 緊張した様子の彩花が可愛すぎて気の聞いた言葉も返せない。

「ん、そっか。なら良かった……」

 彩花は顔を真っ赤にしたまま、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

「俊一くんと彩花さん、完っ全に二人の世界に入ってますねー」

「二人とも初々し過ぎて見てるこちらが恥ずかしくなってくるのですが……」

「とりあえずお邪魔するのも野暮ですからお昼ご飯の準備しちゃいましょうか?」

「そうですね。あんまり人の恋路を邪魔をすると牛に蹴られると言いますし」

「……それを言うなら馬ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、まぁ、こんな感じで適度に彩花といちゃつきつつ、昼飯はバーベキュー。夕食には女性陣が腕に腕を振るった料理がずらりと並んでいる。

「父の取っておきのワインもあるんですよー」

 とか言ってちゃっかりアルコールの準備までしてるさやかは手回しがいいというかなんというか。

 出会った当初に比べるとこの子も色々変わったよなー、としみじみ思う。随分と積極的になっというか黒くなったというか。

 初めてあった時の人見知りして遠慮がちだった少女はどこに行ってしまったのだろう?

 と、いうか彼女が無駄に積極的なのは俺限定というのは気のせいだろうか?

 などと益体もないことを考えつつ、料理やワインに手を付けていく。

 この面子の料理は本当に美味い。たまーになんか形がいびつなのも混じってるけど、味は悪くないので問題ない。ワインのほうもとっておきというだけあって、美味いし飲みやすい。

 これ、なんて贅沢?

 三人娘のほうもたまには羽目を外すのも良いだろうってことで、遠慮なくワインを飲んでるようだ。

 つーか、俺より飲むペース早くね?

 夕食後それぞれが入浴。勿論俺は一人で入ったけど、女の子三人組は三人一緒に楽しそうに入ってた。

 まー、仲良きことは美しきかな、と。ちょっとだけ寂しかったとかそんなことはないぞっ!

 その後はワインと詩音が作ってくれたつまみを共に四人でトランプ。金賭けようって言ったら三人揃って冷たい目を向けられ、即却下されてしまいました。くすん。負けた奴が脱ぐとか言わないだけマシじゃないかっ!

 もちろんそんな事は、女三人の男一人でそんなこと言ったらセクハラどころか身の破滅なので口に出せません。

 っていうかまかり間違ってそんな提案通ったら間違いなくデッドEND確定な気がする。主に俺の。

 ちなみにやったゲームは、ポーカーに七並べ、大富豪をそれぞれ繰り返す。

 ついでにそれぞれの最多勝利者ー。

・ポーカー:さやか

 なんか「うふふー」とか笑いながらロイヤルストレートフラッシュとか繰り出すから困る。

・七並べ:詩音

 なんか一方的に俺がいじめられたっ!そこの詩音!自分でカードを止めておいて満面の笑顔で「うふふ、俊一さんはまたパスですか?」とか聞くなっ!

・大富豪:彩花

 人が必勝の思いで出した階段革命六枚を彩花が楽しそうに「あ、ごめんね。革命返しーっ!」だって。

 こっちは今の革命に全てを賭けていたのにあっさりと嬉しそうに革命返しするなぁぁぁぁっ!!

 

 俺?どのゲームでも問答無用で最下位でした。しくしく。だってなんか、皆、俺をターゲットにしてるんだもんっ!!

 絶望した!昼に続いて夜にも総攻撃食らっていじめられるなんて絶望した!

 

「うふふ、じゃあお詫びにお風呂でお背中お流ししましょうか?」

「そうですね。俊一さんがお望みならベッドまでご一緒致しますよ?」

 項垂れる俺をガシッと左右から腕を絡ませてくる二人。

 おおっ!?腕にふにふにと柔らかい感触がぁぁっ!?

「って、お前ら酔ってるだろっ!?正気に戻れっ!!」

「ひっく、酔ってなんかないですよー。うふふ」

「そうですよー、ワインなんかで酔ったりしませんってー」

「ええいっ、酔っ払いは皆そー言うんだーっ!!」

 明らかに頬が上気してるし、顔も赤くて目もトロンとして酔ってるからっ!

「あ、彩花、ヘルプっ!た、助けてくれっ」

「俊くん、鼻の下伸びてるよー?」

「伸びてないっ!嬉しくないと言ったら嘘だけどマジ困ってるから、ねぇっ!」

「しょうがないなぁ、もう」

 俺の必死の懇願に彩花はようやくその腰を上げ……。

「えいっ♪」

 背後から抱きついてきた。

「おまえもかあぁぁぁっ!?」

「何よー。こんな美少女が三人もいるのに何が不満なのよー?」

 と、肩越しに顔を覗かせる彩花。顔が近いっ!っていうか目が据わってるよ、この人!

「って、お前も押し付けるなぁっ!?当たってるっ!当たってるからっ!?」

 あぁっ、腕だけでなく背中にも柔らかい感触がぁぁぁっ!?

「……俊一さん、顔がにやけてますよ?」

「いや、それは男として当然だからっ」

「だったら問題ないじゃないですかー♪」

「そこで更に押し付けるなーっ!?」

 振りほどきたくても左右背後をがっちり固められて動くに動けない。

 嬉しいは嬉しいけど理性の問題がねっ!?ここで理性を吹き飛ばして暴走なんてしたら正気に戻ったときに後悔と自己嫌悪の嵐とかそんなもんじゃないですよっ!?

「むー、やっぱり鼻の下伸びてるじゃないー」

「はっ!?」

 気付いたときには背後から腕が首に回される。

「俊くんの……浮気者ーっ!!」

断じてちがーう!!って、首絞まってうぐっ……っ!

 死ぬ!マジで死ぬ!しっかり決まってるっ!

「きゃはは、俊一くんガンバレー」

「すー、すー」

 そこのさやか、笑い事じゃねぇっ!!詩音!寝たなら腕を放せっ!がっちり抱え込むなぁーっ!

 って、ヤバイ、マジで息できないからっ、死ぬっ、本気で死ぬっ!!

 流石に生命の危機を心底感じ、俺は全力で立ち上がり三人娘を振りほどく。

「きゃうっ!?」

「くー」

「わっ」

 とりあえず振りほどいた三人が怪我をしてないか見回す。

 寝てる詩音を除いて、尻餅ぐらいは付いてるみたいだけど怪我はなさそうだ。

「じゃー、ま、そういうことで」

 これ以上酔っ払いに関わるとロクなことがない。三十六計逃げるに如かず。今のうちに割り当てられた部屋に逃げるとしよう。

 シュタッと手を上げて脱兎のごとく逃走を謀ろうとして足を掴まれた。

「ほぶっ!?」

 顔面からモロに床に突っ込んだ。いてぇっ!マジでいてぇよっ!?

「何しやがっ……!」

 がばっと上半身を起こして文句を言かけて白けた。

「うーん」

「くー」

「むにゃ……」

 うわぁ。詩音だけじゃなくて彩花もさやかも寝ていやがるし。

 人が痛い思いをしてるにも関わらず、すやすやと幸せな顔して寝てますね、ハイ。

 ちなみに人の足を掴んでくれたのは彩花で人の足を抱き枕がわりにして寝ていやがりますよ。

「どーしろってのよ、これ」

 目の前の惨状に辟易しながら大きくため息をつき、金輪際この三人と一緒に酒は飲むまいと心に誓った。

 まー、夏だから放っておいても風邪引いたりはせんと思うが……。

「……そういう訳にもいかんか」

 部屋は一人一人個別に割り当てられてるので適当に運んでベッドに放りこんどきゃいいだろ。

 彩花を起こさないようにゆっくりとその腕を剥がしながら、一人ずつ抱き上げて部屋に運ぶことにする。

 俗に言うお姫様抱っこってやつだ。

 ……肝心のお姫様方が酔っ払って眠ってるというのがなんとも格好つかんがなー。やれやれだ。

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっと」

 最後に彩花をベッドに下ろし、一息つく。うん、お姫様抱っこは思いの外、重労働だった。

 始めのうちはお姫様達の軽さとか匂いにどぎまぎしてたけど、すぐに腕がきつくなってきた。

 詩音、さやかに続いて彩花を運び終えた今ではわりと腕が限界だったりする。

 ……もうちょっと身体は鍛えておこう。

 だるくなった腕を回しながら少しだけそう思った。

「ふわぁ……」

 部屋の時計を見ると既に時計の針はとっくに深夜二時を過ぎていた。

 惨劇の後片付けは明日に回して、俺も自分の部屋に戻って寝ますかね。

「って、おい」

 何時の間にやらしっかりと彩花に手を握られてる罠。

 手を上げる。当然彩花の手も一緒に持ち上がる。

 上下に振る。

 外れない。

「彩花さーん?」

 小声で呼んでみる。

「ん、しゅ、ん……く、ん」

「……」

 まぁ、いいか。彩花の手を振りほどくのは諦めた。と、いうか無理。

 無邪気に寝てる彩花の頬を空いてる手でつつきながら、ベッドの脇に腰を下ろす。

「おやすみ」

 彩花の手を軽く握り返して俺はそっと目蓋を閉じた。今日一日の疲れと多少の酔いが回ったせいか、程なく俺は眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、一番最初に目を覚まして彩花を起こしに来たさやかの声で俺たちは起こされることになる。

「うぅ、頭いたーい」

「ペース配分考えないで飲みすぎだ、アホ」

「うぅ……」

 目を覚ました彩花は身体を起こし、頭痛に苛まされる頭を抑えていた。

「……それよりなんで俊一くんが彩花さんの部屋で寝てるんですか」

 俺らを起こした当の本人も二日酔いらしく眉間にしわを寄せながら詰め寄ってくる。

「や、だって、こいつが俺の手放さないんだもん」

「えー、私のせいなのー?」

 まだ目が完全に覚めてないのか、目蓋をこすりながら呟く彩花。

「ほれ、その証拠だ」

 彩花に掴まれたままの右手を持ち上げてさやかに見せる。

「うっ、そんな手が……彩花さん、恐ろしい人っ」

 うん、さやかはまだ盛大に酔ってるようだ。

「いーから、お前ら、詩音を起こして顔洗って来い。二人とも酷い顔してるぞ」

 二人とも髪は乱れてるし、服もしわになってる。

「えっ、あっ、ああ!?」

「あっ、うぅっ!?」

 自分達がどんな状態なのかを察した二人はあからさまに狼狽し始める。

「んじゃ、俺は自分の部屋戻って着替えてくるわ」

 慌てふためく二人を余所に彩花の部屋を出て行く。うー、変な姿勢で寝てたから身体の節々が痛い。

 つーか、もう10時過ぎてんじゃん。せっかくの休養日にこんな寝過ごすなんて勿体ない……こともないか。

 俺の夢は美人の嫁さん手に入れて、退廃的な生活することだ。怠惰に過ごすことこそ我が本懐よ。

 詩音から本でも借りて今日はまったりゆっくり過ごすとしよう。

 

 

 

 

 

 

 三人娘のほうも二日酔いで動く元気はないらしく、リビングでダラダラしてた。

「ところで……私達何時の間に解散したんですっけ?」

「さぁ……皆でトランプをしているところまでは覚えているのですが」

「あ、詩音ちゃんたちも?私もなんか途中から記憶ないんだよねー」

 うわ、こいつらあれだけのことやらかして綺麗さっぱり忘れていやがるよ。信じらんねー。

 こっちはどんだけ嬉し……いやいや、しんどい目に遭ったことか。全部詳細に語ってやろうか。

 ・・・・・・・彩花に絞め殺されそうだからやめとこう。

「俊くんは覚えてる?」

「お前らが暴走した挙句に酔いつぶれて俺がお前らを部屋に運んだんだよ。重かったぞ」

 あれ?なんか今ピシリ、と空気にヒビが入った音がしたような気がしなくも無いなぁ。

「あ、あの俊一さんが私達を運んでくださったのですか?」

ぎぎぎ、と油の切れたロボットのような動きでこちらを振り返る詩音。

「まぁ、そのまま放置するのも忍びなかったし。一人一人お姫様抱っこで運んでやったぞ。敬え、崇め称えろ、感謝しろ」

「……え?」

「お姫様……抱っこ?」

「俊くんが?」

 ボンッと音を立てそうな勢いで三人の顔が朱に染まる。

 あれ?何、その反応?

「俊一さんに……部屋まで?……」

「……お姫様抱っこ……」

「え?あ?じゃあ、起きたとき俊くんがいたのって、あれ?」

 何やら顔を真っ赤にしながら小声でボソボソ呟いてるお三方。あー、うん、なんだ。そーゆー反応されると今更ながらにこっちまで恥ずかしくなって来るんだが。

 今、昨日俺にしたこと話したら卒倒するんじゃないだろーか?

「あ、え、と。あ、ありがとうございます」

「ありがと……俊くん」

「ありがとうございます……俊一さん」

「お、おう」

 だからそんな顔で礼を言われるとこっちの調子が狂うってーのっ!可愛いけどっ!

「え、えーと、俊一くん……」

「何?」

 おずおずとこちらを窺がうさやか。

「今夜も途中でダウンしたりとかしたら、また運んでくれたりするの……のかな?」

 その言葉に詩音も瞬時に反応してさやかと同じように期待したような視線を向けてくる。そして何故か彩花は睨んでくる。

「頑張れ、風邪を引かないようにな」

 俺は三人から目を逸らし、手元の文庫本へと目を向ける。

「「……ケチ」」

「……ふぅ」

 詩音とさやかの落胆した声と彩花のホッとしたようなため息が聞こえた。

 また昨日みたいに泥酔して逆セクハラをかまされては色んな意味で困る。今日は絶対にアルコール禁止を貫かせよう。

「明日も二日酔いで苦しみたくなかったら、自重してろ。今日はまったりしてようぜ」

「うっ……」

「……残念です」

「は〜い」

 流石に今現在、悩まされている頭痛が二日続けるのは嫌らしく三人ともすんなり俺の提案を受け入れる。

「……」

 ふと、思い立ち、こっそりと携帯から一通のメールを送る。

「ん、あれ?」

 程なくして彩花の携帯がメールの着信を告げ、それを見た彩花の顔がまた赤くなる。

「バカ」

「ふっ」

 そんな彩花が可愛らしくて思わず笑いが零れて出てしまう。

 俺が送ったメールの内容は以下の通り。

 

 『おまえの場合はいつでもお姫様抱っこのリクエスト受け付けるからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い風だね」

「ん、そうだな。夏の思い出作りとしては申し分ない」

 二日目をまったりゆっくり過ごした夕食後、俺は彩花と二人で夜の海岸を歩いていた。

「二人きりならもっと良かったのにな」

「あはは。もう、さやかちゃんと詩音ちゃんのおかげで快適に過ごせたんだからそんなこと言ったらバチが当たっちゃうよ」

「はは、そだな。あの二人には後でちゃんと礼を言っておくか」

「うん」

 四人で行くことになったときは彩花と二人の時間が取れるか正直、不安だったがそこはちゃんと空気を読んで気を使ってくれたようだ。

 本当、感謝しなきゃいけないよな。

 そのまま二人、無言のままゆっくりと歩く。

「桜峰の海岸もいいけど、やっぱりこーゆー田舎だと星が綺麗だねー」

「まったくだ。都会じゃこんなたくさんの星は見られないもんな」

 足を止めて二人で砂浜に腰を下ろす。空を見上げるとそこは満天の星空。空気の汚れた都内近辺ではこうはいかない。

「あっ、流れ星!」

 彩花が声を上げるのと同時に一筋の流れ星が浮かんでは消えていった。

「あー、願いごと間に合わなかったっ〜」

「ま、普通はそんなもんだ。気にするな」

 あんな一瞬で三回も願い事を言うなんて物理的に不可能だろうに。

 俺がそういうと彩花は頬を膨らませて、

「もー、俊君はロマンが無いなー。夢見る女の子にそういうこと言うのは禁句だよ」

「さよですか。ちなみに何を願うつもりだったんだ?」

「うーん、とね。俊君だったら何を願うの?」

 質問に質問で返すなよ。まぁ、いいけどさ。

「そうだなぁ……」

 ちらりと目を這わせる。

「彩花を嫁に貰って、退廃的な生活を送れますように、かな?」

 言いながらにやり、と彩花を見る。

「……え」

 案の定、彩花は頬を染めて硬直する。

「も、もう、何よ、退廃的な生活ってっ」

「はっはっは、照れるな、照れるな」

「うぅ……」

 涙目で上目遣いに睨まれたって可愛いだけで怖くも無いなんともないねっ。ふはははっ。

「で、おまえは何を願うつもりだったんだよ」

「うー、知らないっ」

「おーい、人に聞くだけ聞いといて自分だけ答えないってのはアンフェアだぞー」

「……うっ」

 俺が指摘すると彩花は困ったように唸る。

「……と…ますようにって」

「ん?」

 小声でぼそぼそ言われても聞こえんて。

「俊君と、ずっと一緒にいられますようにって……」

「……そっか」

 顔を真っ赤にしたまま俯く彩花の手を何も言わずに握り締める。

「大丈夫、俺はずっとお前の傍にいるから」

 そう、それはあの時に誓った。彩花のことを名前で呼んだあの日に。

「おまえは俺が守る。ずっと俺の傍にいろ。お前が傍にいてくれれば、俺は何だってできるから」

「……うん」

 そっと肩に彩花の頭が寄りかかる感触。

「ずっと、ずっと一緒だよ……」

 月明かりの空の下、二人の唇がそっと重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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UP DATE 08/8/25

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三人娘の水着姿書いたらムラムラきてカッとなって書いた。色々アレな気がするけど後悔はしてない。反省はちょっとしてる。