「ッ!しまっ・・・」

チャージが完了したベイカー機の口内に荷電粒子の塊が現れる。

それが口内を離れる瞬間、洞窟の入り口から颯爽と現れた1機の純白のゾイドがベイカー機(ジェノザウラー)を襲撃した。

それにより、発射された荷電粒子は目標をそらし空の彼方へと消えていった。

              絶望の大地 〜紅の竜 伝説の地・新たなる旅立ち〜

ライガーの系統にも見えたそのゾイドは、明らかに興奮していた。

殺気だった眼でベイカー機を睨みつけ、恐ろしいほどの咆吼をあげた。

「ここを汚す者は…風族の末裔として…許しません。悪しきものよ…去りなさい!!」

白いゾイドは爪を立てながらベイカー機を睨み付ける。

ベイカー機は後ずさりを2,3歩してから向きを変えて走り去っていった。

それを見届けた純白のゾイドの頭部が開き、1人の女性、いや、少女が降り立った。

少女は何がなんだか解らずに呆けていた氷隼とハウンドを見て、微笑む。

「リュ、リュウナさん・・・」

氷隼が安堵の声で少女の名を呼んだ。

「・・・この人か?お前の“大切な人”は」

「はい」

少し誇らしげな声だった。

「間に合って良かったぁ〜」

彼女の、愛機から降りたときの第一声がそれだった。

ハウンドと氷隼も愛機から降りた。

その後で昨夜のようにコーヒーを沸かした。

「助かりました、リュウナさん」

「本当にな。礼を言う」

それを飲みながら、やはり昨晩と同じく雑談をした。

「あははっ、ごめんねぇ…おいしいところだけ持ってっちゃった」

リュウナがハウンドの方を向き、微笑して自己紹介をする。

「私、キリサキ=リュウナといいます。リュウナ、と呼んでください」

「フェル=ハウンド。盗賊だ・・・といっても傭兵のやる仕事しかしていないが」

「昨夜と一字一句違いませんね」

「自己紹介にバリエーションは必要ないからな。しかし、まだ子供の女がこんなゾイドを操縦して出てくる とはな」

リュウナの愛機である純白のゾイドを見上げる。荒々しく、いかにも凶暴そうな面構えをしていた。

「子供っていっても、もう14ですよ〜。それに、この子は昔からの私の相棒ですから」

「昔から・・・?どういうことだ。こいつはここで眠っていた、あの機体だろう」

「ケーニッヒウルフ、と言います。格好良いでしょ」

純白のゾイド、ケーニッヒウルフを見上げ、誇らしげに言う。

「いや、名前を聞いたのではないのだが・・・」

リュウナがえへへ、と笑う。

それを見ていると、気持ちが落ち着く気がした。

「氷隼」

氷隼がハウンドを見る。

「はい?」

「お前の言っていたことが分かった気がする」

「・・・そうですか」

微笑する二人。

「え?なになに?」

話に入れない一人。

やがて、夜が深まってゆく。

三人の言葉は少なくなっていったが、それでも三人はこの時を楽しんでいるようだった。

「ハウンドさんはこれからどうしますか?」

ゆっくりと燃える薪にあたりながら、氷隼がたずねた。

「これまで通り、旅を続ける」

「旅ですか・・・何か目的でもあるんですか?」

月を眺めていたリュウナが視線をハウンドに向けて言った。

「生きるため、だな」

それに、何処か寂しげに答える。

「旅をして、あちらこちらで戦い、その報酬で生活を立てる」

「・・・・・」

「人を殺して、その報酬で生活を立てる」

ハウンドの眼に、燃える薪が映る。

「こう考えると、俺は人を殺すために旅をしているようだな」

悲しげに冷笑する。

「ハウンドさんには、守りたい人はいますか?」

氷隼が呟くように言った。

「大切な人は、いますか?」

「・・・・・・」

一瞬にして、今まで出会った人の顔がハウンドの脳裏に浮かんだ。

そして、消えていった。

誰かの顔が少し残っていた。

誰かわからないうちに、消えていった。

「・・・・・・・」

答えられなかった。

(当然と言えば当然だな。俺は傭兵。一度きりのつき合いだ。全て、一度きりなのだ…。)

「う〜ん。それなら・・・そうだっ!大切な人を見つけることを宿題にしま〜す!」

リュウナがにこにこと笑いながら、強烈なことを言い放った。

「・・・宿題?」

「そうです!次に私たちと会う時までの宿題です!」

沈黙。

しかし、場の雰囲気は悪くはなかった。

「・・・つまり、旅の目的を大切な人を捜す、に変更しろ、と。そう言うことか?」

「その通りっ!お金だけのために、戦ってるんじゃ何か…何か寂しいと思うんですよ。 他の人はどうか分かりませんが、ひとまずあたしはそう思っています。」

リュウナをじっと見た後、ハウンドはゆっくり月を見上げる。

「・・・そうだな・・・それもいいかもしれない」

リュウナが微笑む。

氷隼も微笑む。

「見つかるか分からないが・・・やってみる価値はあるだろう」

風が吹いた。

薪の火が揺らいだ。

穏やかな風だった。

「見つかりますよ。絶対に」

「そうですよ。風も言ってくれています。必ず見つかる、って」

「今、連絡を入れた。数十分で来るだろう」

ブレイカーのコックピットから顔を出し、氷隼に伝える。

「ありがとうございました」

ペコリとお辞儀をする。

「さて・・・そろそろ行くとするか」

「また、会いましょうね」

リュウナが笑顔で言う。

「ああ。宿題を出されてしまったからな」

「お元気で」

「ああ。お前達もな」

コクリと頷く。

ブレイカーが走り出した。

後ろを見ると、氷隼とリュウナが手を振っていた。

ブレイカーの左手を振らせる。

走りながら、振り返ることもせずに手を振る真紅の魔装竜、ジェノブレイカー。

「・・・異様な光景だな。これは」

やがて、二人が見えなくなる。

ふと、昨夜のことが思い出された。

『見つかりますよ。絶対に』

『そうですよ。風も言ってくれています。必ず見つかる、って』

すると、自分が微笑んでいることに気がついた。

「そうだな。きっと・・・いや、必ず見つかるな」

ここから、盗賊フェル・ハウンドの“大切な人”を探す為の旅が始る。

二人の少女との出会いにより始まる新たなる旅。

その果てには何が待つのか。

眩しく輝く、未来への希望か。

それとも・・・。