「さ、おしゃべりもここまでだな。ここからは気を引き締めて行くぞ」

「了解した」

先ほどまで二人の顔にあった笑みが消える。

“必ず生きて帰還する”

二人は心に同じ事を誓った。

いや、誓ったのではなく、決意したのだ。

“何があっても必ず生きて帰還する”と。

              絶望の大地 〜紅の竜 地獄への洞穴〜

目的の山岳にはいくつかの洞窟が開いていた。

そのうちのいくつかには大型ゾイドの足跡が見て取れる。

「あの真ん中の穴の足跡が一番新しいようだな」

「ああ。確かにあの大きさならゴジュラスmk−Uも余裕で出入り出来る」

シルフィードとブレイカーが並んで洞窟に進入する。

少し行ったところでハウンドが呟くように言った。

「もし、この穴が続くところが地獄だったら、お前はどうする?」

「どうする?愚問だな。意地でも這い出てやるだけだ」

「フッ・・そのいきなら大丈夫だな」

「何が大丈夫なんだ?」

「・・・嫌な予感がするだけだ。いや、ただ何となくだがな」

やがて二人は大きな空間に出た。

そこは明らかに人工的に作られた空間だった。

幾つもの照明用のライトが天井からつり下がり、何機かの小型ゾイドが待機している。

そして、待ちかまえていたかのようにそのゾイドが襲いかかってきた。

「チィ!さすがに易々とは司令塔まで行かせてくれないか!」

シルフィードがメガビームサーベルを展開し、一撃の基に敵機を切り裂いてゆく。

ブレイカーも襲いくるゾイドをエクスブレイカーで握りつぶしながら進んで行く。

やがて、そこにいた全てのゾイドを破壊し、さらに奥へと続く道を行く。

今度は先ほどよりも広い空間にでた。

そして、そこでは1機のゴジュラスmk−U限定型が二人を待ちかまえていた。

「俺もつくづくゴジュラスに縁のある男だな・・・」

ハウンドが苦笑するとゴジュラスがブレイカーに襲いかかってきた。

ゴジュラスの攻撃をかわし、エクスブレイカーで反撃をする。

その反撃で右腕を失って怯んだゴジュラスにメガビームサーベルでさらに攻撃を加えるシルフィード。

ゴジュラスといえど、流石にこの2体を相手に勝てるほどの性能を持っていなかった。

やがて洞窟に出来た空間に響き渡るゴジュラスの断末魔の叫び。

二人が攻撃箇所を定めていたために爆発はしなかった。

「貴様には聞きたいことがある。我々について来ていただこうか」

ハウンドがブレイカーのコックピットを開けようとした瞬間だった。

入り口の反対側の壁が破壊され、そこから一体の黒いゾイドが現れた。

そのゾイドをハウンドは一度見ていた。

「まさか・・・貴様が裏にいたとはな」

狂気に、憎悪に取り憑かれた男、グラン=ニコラスを乗せたゾイド、バーサークフューラーを。

「クックック・・・・・ずいぶんとご無沙汰ですね・・ハウンドさん」

フューラーの色と武装は多少変更されていたが、その邪悪な意志に溢れかえった眼は変わっていない。

「誰だか知らないが・・・・・活かすかねぇ野郎ってことはわかるぜ」

「グラン=ニコラス。俺がこの世でもっとも嫌いな男だ」

ブレイカーとシルフィードが戦闘態勢をとる。

「ククク・・残念ですが、この機体はまだ未完成の状態でしてね。まだあなた方と対等に 渡り合えるほどの力は無いのですよ」

「ハッ、それは何よりだ。こっちにとっては都合のいいことこの上ない!」

ブレイカーがフューラー目掛けて駆け出す。

「せっかちな方だ・・・。そんなに焦らなくてもいずれ葬って差し上げますよ。いずれ、ね」

ブレイカーの攻撃を軽くかわし、バスタークローで開けた穴に戻って行くフューラー。

「クッ、逃がすか!」

ブレイカーが再び駆けようとしたが、それよりも早く上の方で爆発音がした。

フューラーの放ったビームが空間を保っていた鉄の骨格を破壊したのだ。

「クックック・・・さぁ、せいぜい死なないように頑張ってください」

「待て!」

走り出そうとするブレイカーの上に大きな一枚岩が落下してくる。

それはブレイカーを潰しかけたが、シルフィードの弾丸によって粉砕された。

「ハウンド!今は脱出する事の方が先決だ!」

「・・・すまない」

ゴジュラスのコックピットを抱えてシルフィードの後を追うブレイカー。

「クッ!落盤が酷くなっている!」

やっとのことで一つ目の空間まで戻ることが出来た。

「大丈夫だ。このままのペースで崩れてくれれば脱出できる」

しかし、神は気まぐれだった。

加えて冷酷無情だった。

あと少しというところで入り口が塞がってしまった。

「あんな岩ぐらい楽に破壊出来る!」

シルフィードが弾薬を発射した。

そして着弾すると同時に空間の天井部がまるで雪崩のように、 ひとかたまりの巨大な岩石となって落下したのだ。

「「!!!!!!」」

帝国軍第19基地

司令塔を失った盗賊団は脆かった。

それでも果敢に挑んで行く者はただの1人もいない。

愛機や仲間を捨てて逃げて行く者が続出した。

マクロードはくわえた煙草に火を点けながら次の指示を出す。

「一通り片づいたようだな・・・。テュア、セリア、シーラ、私たちもけが人の手当をするとしよう」

「了解」

「任せて下さい」

シーラの返答は無かった。

「・・・ん。お前達は先に手当を頼む」

辺り見るとシーラはルーンクロノスから降りて山岳地帯を見つめていた。

「心配するな。司令塔が消えたから奴らも逃げ出したんだ。そのうち戻ってくるさ」

ライガーから降りてシーラの隣りに立ち、優しく声をかける。

「はい・・・。でも・・・」

言葉はそこで途切れ、マクロードの口から煙草がこぼれるように地面に落ちた。

シーラは見つめていた。

ハウンドとアークがむかった山を・・・。

ハウンドとアークがむかった山が崩れてゆくのを・・・。

「ウ・・・ソ・・・・・」

悲しみが込められた声と共に、その瞳からは涙があふれ出る。

「ウソ・・・だよね・?・ねぇ・・お兄ちゃん・・・お・・にい・・ちゃ・・・ん・・・ね・・・ぇ・・」

マクロードは黙っていた。

ただ、普段では絶対に見せないような驚きと悲しみが混じり合った表情をしている。

「お兄ちゃん・・・おにいちゃーーーーーーーーーん!!!!!!!!!」