傷ついた2機のゾイドが草原を歩いている。

コマンドウルフ・シルフォードカスタムとガンスナイパー・ルーンクロノス。

「しかし・・・思っていたよりも遠いな」

シルフィードの無線を通してアークがシーラに言う。

「そうだね〜」

彼らが帝国領アルダーナを出発してから丸1日たった。

「いくら受けたダメージが大きくて走れなくても、もうついていても良さそうなものなのに・・・」

「・・・おっ、あれじゃないか?」

アークの声でモニターを見ると、少し高くなった丘の上に何か建物が映し出されていた。

              絶望の大地 〜紅の竜 出会い〜

帝国軍第19基地の格納庫に愛機を留め、整備班長に礼を言った2人は基地内を歩いていた。

班長は、アルダーナの町長から連絡はあったが予定より遅れていたので心配していた、と語ってくれた。

「親切な人でよかったね」

「あの班長も、アルダーナの町長も、な」

格納庫から出て5つ目の角を曲がったところに自動販売機があった。

自販機の隣りに設置された長いすに腰掛けてよく冷えた飲み物を口にする。

と、そこを1人の男が通りかかった。

その服装から軍人でない事が分かる。

シーラが少し頭を下げて挨拶をすると、男も2人に同じように返す。

アークも頭を下げると、男の靴ひもが解けていることに気がついた。

「お、靴ひもが解けてるぞ。傭兵さん」

「すまない」

靴ひもを縛り、立ち上がった男にアークは再び声を掛けた。

「アンタ、もしかして格納庫のジェノブレイカーのパイロットか?」

根拠があるわけではない。

ただ、直感的にそう思って口にしただけだ。

男は少し驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んで

「そんなところだ」

と言って歩き出した。

去り際に、男は一言残していった。

「それから、俺は傭兵じゃない。盗賊だ」

夕方になった。

アークとシーラは与えられた部屋で休んでいる。

シルフィードとルーンクロノスの修理は終わっていたが、班長のすすめで今日はここに 泊まることになったのだ。

昼間自販機の前でアーク達にあった男は格納庫にいる。

愛機である紅の魔装竜を眺めている。

ふと、思い立ったように廊下にでて数メートル先の角の所までゆっくりと歩き、そこで呟いた。

「お前は共和国研究所の防衛隊長だろう。何故ここにいる?マクロード」

1人の女性が角から出てくる。

「あの研究所はダークと共に消え去っただろ。今はディープブルーウィンドウ小隊の隊長だ」

言って、フッと笑うと床に何かを叩きつける。

叩きつけられた黒い物体から煙が吹き上がり、双方の視界を塞いだ。

やがて煙りがはれると、そこに2人の姿はなかった。

「お前もしつこい奴だな」

「別に仕事で追っているわけではない。個人的にお前と戦いたかっただけだ」

闇に支配された草原を2機のゾイドが走っている。

共和国軍ディープブルーウインドウ小隊隊長セラ=マクロード中尉が駆る蒼き疾風ブレードライガー。

己の信念を信じ、戦場を求め荒野を駆ける盗賊フェル=ハウンドが駆る紅の魔装竜ジェノブレイカー。

「あの時は味方同士だったが・・・今は敵同士だ。遠慮は必要なし、だな」

「フッ・・・テュア、セリア!手出しをしたら承知しないぞ!」

マクロードが通信機に向けて言い放つと、近くの茂みから2機の青く塗装された シャドーフォックスが現れた。

「了解。存分にお楽しみ下さい」

「言われなくても分かってますよ。私たちが入っても秒殺確定ですしね」

フォックスのパイロットの会話はライガーの無線を通してハウンドにも伝わったようだった。

一呼吸できるほどの間が空いた。

そして・・・

「「オォォォォォォォ!!!!」」

両機のコックピットに雄叫びにも似た叫びが木霊する。