帝国領、アルダーナ。

改造されたコマンドウルフとガンスナイパーがこの小さな町から数メートル離れた林で停止する。

              絶望の大地 〜紅の竜 2人の旅人〜

ガンスナイパーのコックピットが開き、小柄の女性が顔をだす。

その女性シーラ=プリムローズが、コマンドウルフから降り立った長髪の男に話しかけた。

「お兄ちゃん、今度は無駄遣いしすぎて宿代が無くなった、なんてこと言わないでね」

お兄ちゃんと呼ばれた男、アーク=レインリーフが振り返って答える。

「それはお前だろ!まったく・・・。今度から買い物は宿をとったあとでだ」

「あ、待ってよ〜」

アークが歩き出し、その後をシーラがついて行く。

同時刻、アルダーナから数キロ離れたところで起こっていた戦闘に負けた帝国軍が撤退を始めた。

この部隊を率いるテュオ=マッケンハー少尉は、愛機ダークホーンで列の先頭に立っている。

「おのれ、共和国めが!」

コンソールを思い切りたたきつけ、少しでも気を紛らわそうとするが、彼のいらだちは一向に収まらない。

一方、アルダーナではアークとシーラが今夜の宿を探していた。

「ここ、結構安そうだよ」

「確かに安そうだ。・・・・・だが、明日まで建っていられるかすら分からないぞ、この宿は」

シーラが指さした宿場は、看板は取れ掛かり、玄関には蜘蛛の巣が張っている。

しかし、表に“営業中”と出ているのでまだ商売はしているのだろう。

「いくら安くても斜めに傾いている宿には泊まりたくないぞ」

「じゃあここは?」

その合い向かいの宿場を指さすシーラ。

「う〜む・・・ちょっと高い気もするが・・・しょうがない。ここに止まるぞ」

「少尉、そろそろ小休止をいれませんか?兵達もくたくたです」

ダークホーンの隣りを歩いていたレッドホーンのパイロットがテュオに言う。

「五月蠅い!今共和国の奴らに追いつかれ出もしたらどうなる!?」

テュオのいらだちは限界に足しいていた。

ここはすでに帝国領。共和国軍などは追ってきていない事はテュオにも分かってる。

ふと、ダークホーンのモニターの端に小さながら町が映った。

「・・・・・あの町まで行ったら小休止するぞ。全兵にそう伝えておけ」

「はっ!」

(クックック・・・丁度良い憂さ晴らしだ)

「ふぅ〜」

宿場の風呂からでて部屋に戻ったアークが一息つく。

シーラとは別室なのは言うまでもあるまい。

「さて・・・なにすっかな・・・」

部屋には1つ窓があった。

それを開け、夜風にあたる。

道を挟んで建っている、傾いた建物にも明かりが灯っていた。

(・・・あんなとこに泊まるやつもいるのか)

不意に激しい衝撃がアークを襲った。

「な、なんだ!?」

目の前の建物が消え、代わりに1機のレブラプターが出現した。

「行けぇぇ!」

テュオの声を合図に、それまで固まっていたゾイド達が次々にアルダーナ目掛けて走り出した。

「奪った物は全て自分の物にしていいなんて、うちの隊長は気前がいいぜ!なぁ」

町に入ったレブラプターのパイロットが隣にいるイグアンのパイロットに話しかける。

しかし、応答はない。

「おい!無視すん・・」

そこで彼の乗るレブラプターは切断され、爆発した。

「ん・・・これは・・・・帝国のマーク・・」

コマンドウルフ・シルフィードカスタムのコックピットでアークが呟く。

愛機からはメガビームサーベルと呼ばれる1本の光りの剣が出ていた。

「こいつ等・・帝国の正規兵か?」

突然、幾発もの弾丸がシルフィードを襲った。

「おっと!」

それをかわし、前足に装備されたボマーユニットで反撃する。

ボマーが着弾した場所には何も居ない。

「喰らえ!」

横から声が聞こえ、ダークホーンがシルフィードに迫ってくる。

「バカが!声を上げなければあたったのにな!」

シルフィードに増設されたブースターに点火し、これを避ける。

しかし、避けた地点すら予想されていたのか、今度はレッドホーンが襲いかかってきた。

「危ない!」

声とともにレッドホーンのクラッシャーホーンが爆発する。

「サンキュー、シーラ」

横目でシーラが駆るガンスナイパー・ルーンクロノスを確認し、ダークホーンを狙って砲撃した。

「俺はあのダークホーンをやる。それ以外はお前に任せた!」

ダークホーンは、その巨体の割に機動性が良い。

その特徴を活かして、戦場を駆けめぐりながらハイブリッドバルカンで遠距離戦を仕掛けてくる テュオはなかなかの腕をしている。

(接近戦でかたをつける!)

駆け出すシルフィードに何機かの小型ゾイドが仕掛けてくるが、その全てをスーンクロノスが 長距離支援により撃破している。

アークが接近戦が可能になる距離までテュオに近づく頃には、動けるゾイドは数えるほどにしか 残っていなかった。

「あんたがこの隊の隊長だな」

「そうだ」

シルフィードがダークホーンに接近したことを確認し、応援に駆けつけようとしたルーンクロノスに 衝撃が走る。

「きゃあ!」

先ほど倒したと思っていたレッドホーンからの攻撃だった。

レッドホーンはゆっくりと立ち上がり、シルフィードに狙いを澄まして砲撃しようとした。

「させない!」

レッドホーンに衝撃が走る。

「我々も女子供にまで手を出そうとは思わない。今すぐ立ち去れ!」

今度はルーンクロノスに照準を合わせ、スピーカーを通して言う。

「嫌です!」

「仕方ない・・・排除する!」

「何故帝国領にある町を攻撃する!?」

シルフィードがビームサーベルを展開してダークホーンに向かって駆ける。

「フン!こちらにも色々な事情があるんだよ!」

ダークホーンもバルカンを掃射して応戦する。

その一発がシルフィードの右前足に被弾した。

「ちぃ!」

レッドホーンがルーンクロノスに向けて一斉射撃をする。

その何発かがルーンクロノスをかすめたが、増強されたブースターのおかげで直撃はしていない。

「お返しです!」

ルーンクロノスが折り畳まれていたロングレンジメガビームキャノンを取り出し、レッドホーンに 向けて放った。

こちらも直撃はしなかったが、ビームがかすっていった左後ろ足が消滅し、倒れかかる。

「くっ・・・こんな小柄な女にやられた、なんて事になった死んでも死にきれねぇんだよぉぉ!!!」

倒れながらも一斉射撃を繰り返すレッドホーン。

そして、一発の弾丸がルーンクロノスの右足を貫いた。

「私だって・・・負けられない・・・」

「貴様こそこんなちっぽけな町を守ってどうする!?」

バルカンをギリギリでかわし、少しづつではあるがダークホーンに接近するシルフィード。

「一文の得にもならない事に命まで懸けるなど、正義の味方気取りか、ええ!?」

急にバルカンの雨がやみ、ダークホーンがシルフィードに突撃をする。

先ほどの攻撃で1つの足に損傷を負ったシルフィードは、ブースターを全開にし、これを避けようとする。

しかし、避けきれずに左後ろ足が破損した。

勢いがつきすぎたダークホーンが方向転換に手間取っている。

「俺が正義?・・・フッ」

シルフィードが駆ける。

その速さはすでに中型のレベルを超えていた。

「大好きな人達が不幸な目に遭わないようにするために、私は戦うの!だから、私だって負けられない!」

2度目のロングレンジメガビームがレッドホーンを貫く。

コックピットでもある頭部を失ったレッドホーンはその場で爆発をおこした。

「俺は自分を正義だとは言わない。 ただ、嫌いなやつに悪党が多いだけさ!」

前方に展開されたメガビームサーベルがダークホーンを切り裂いた。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ダークホーンもレッドホーン同様に爆発する。

夜が明けた。

「私、まだお買い物してないよ〜」

アークがシーラを引きずって町を出る。

「出来る分けないだろ!俺達の持ち金はシルフィードとルーンクロノスの修理費で空っぽになるんだ!」

さすがに2人で正規軍の小隊を相手にするのはきつかった。

負荷をかけすぎた両機は、目に見えていないところも痛んでいたのだ。

宿費は無料になったが、町も手ひどく破壊されたため、復旧する資金を考えると修理費までも 出せるはずはなかった。

「しかし・・・いくら町で修理出来ないからと言って近くの基地まで自力で行け、は無いだろう」

「そうだよね〜。せめてグスタフ1台くらい呼んでもらえればよかったのに〜」

「まったくだ」

2人は傷ついた愛機に乗り、ゆっくりと帝国軍第19基地へと向かう。

そこで2人は“彼”に出会い、さらに過酷な戦闘を強いられる事になるのだが、

それはまた別の機会に話すとしよう。