真夜中の森林を、1機のディバイソンが走っている。

何かに怯えるように、時折後方を確認する。

ディバイソンを一つの小さな影が通り越し、ディバイソンの首が落ちた。

森林は、ただ静まり返っているだけだった。

              絶望の大地 〜紅の竜 死神〜

荒れた平野では戦闘が繰り広げられていた。

荒野の中心では、ジェノブレイカーが、シャドーフォックス、プテラスの2体と交戦している。

その周りでは、4機のイグアンが、5機のゴドスを相手に苦戦していた。

左のフリーラウンドシールドに蒼く“F・H”と刻まれたブレイカーがフォックスを撃破し、 側にいた2機のゴドスの頭部をつかむ。

そして、1機を空中にいるプテラス目掛けて投げつける。

プテラスは急旋回をし、これを避けたが、避けた先に飛来したもう1体のゴドスが直撃し、墜落した。

それを見届けると、戦いはすでに終了していた。

帝国軍基地の格納庫には3機の改造レブラプターと4機のイグアン、そして1機のブレイカーが並んでいる。

このレブラプターは、通常の機体の1.5倍はある背中の鎌と両足の鍵爪に、黒がメインカラーで、 一部蛍光グリーンといった様に塗り分けられている機体が印象深い。

それが気になったハウンドは、イグアンから降り立った男に尋ねてみた。

「このレブラプターは何だ?先ほどの戦闘では駆り出されてはいなかったようだが」

「ああ、それはダークウインド小隊に配備されているゾイドだ」

男は話を続けた。

それによると、この基地にはハウンドを雇ったウィーランド小隊の他にもう一つ、 ダークウインド小隊という部隊が配属されている。

この改造レブラプター“ヘル・ラプター”は、その小隊に配備されているとのことだ。

「ヘルラプター・・・」

ハウンドは、呟いて再びラプターを見上げる。

目線をおろすと、ヘルラプターの足下に、黒服の眼孔が鋭い男が立っているのに気がついた。

「ヴェルバルト=ジェイサー。ダークウインドの隊長だ」

イグアンのパイロットもそれに気づき、彼の名を告げる。

ヴェルバルトは愛機ヘルラプターを見上げていた。

「口数が少なくあまり評判は良くないが、レブラプターの操縦技術は神業といっても過言ではない。やつ の駆るレブラプターと戦ったゾイドは、全て首を狩られて破壊されている。その独特の戦闘スタイルから ついたあだ名が“死神”だ」

夜になった。

深い闇に染まった空には2つの満月が輝いている。

ハウンドは格納庫でブレイカーの整備をしていた。

整備が終了し、貸し与えられた自室へ戻ろうとドアを開けると、ヴェルバルトと2人の男が 入ってきた。

ヴェルバルトは、すれ違いざまに呟いた。

「・・・出撃だ」

直後、格納庫の壁が張り裂け、1機のゴドスが姿を現した。

すでにヴェルバルトが搭乗したヘルラプターがゴドスに向かって跳ねた。

ヘルラプターの背部の鎌は、ちょうどゴドスの首の高さに位置している。

ヘルラプターは、ゴドスを通り過ぎ、穴から外へ出ていった。

音もせずにゴドスの首が落ち、その場に倒れ込んだ。

やがて、基地中の警報機が鳴り響く。

計3機のヘルラプターが出撃した後に、ハウンドもブレイカーで出た。

外ではすでにダークウインド小隊の3機が、9体のゴドスを相手に戦いを繰り広げていた。

2機のゴドスがブレイカーに気づいて中距離からの攻撃を仕掛けてきた。

それを軽く避け、一方のゴドスに接近する。

十分に接近し、エクスブレイカーで握り潰した。

振り向くと、もう一方のゴドスはすでに首がなかった。

そこには動けるゴドスはもういない。

1体のヘルラプターが他の2機に指示を出し、1機を除いてヘルラプターは基地へ戻った。

「何故、敵が来たと解ったんだ?」

ヴェルバルトに通信を入れ、質問してみる。

しかし、通信機に映った彼の顔は、ピクリとも動かない。

無言のまま、ヘルラプターが走り出し、近くの森の中に入っていってしまった。

その行動が何故か気になった、いや、不安になったハウンドも、ブレイカーを駆って森に入る。

真っ暗な森の中を少し歩くと、ヘルラプターを発見することが出来た。

ヘルラプターはゴジュラスと交戦していた。

先ほどのゴドス部隊の隊長機なのだろう。

ブレイカーを戦地へ向かわせようとすると、ヘルラプターが何か合図を送っていることに気がついた。

(黙ってみていろ・・・か)

小型対大型。

普通なら、即刻戦いは終了している。

しかし、ヘルラプターの身体には傷一つない。

相手の腕が悪いのではない。

ヴェルバルトが異常なのだ。

ヘルラプターが、ゴジュラスの背よりも高く跳躍した。

そして、降り立つと同時にゴジュラスの首が地面に転がった。

爆発はしなかった。

ヘルラプターがブレイカーに寄ってきた。

ブレイカーに通信が入った。

「・・・死神は、“死”の臭いをかぎ取る。奴らからはそれが出ていた。だから分かった」

他の人間がこれを言っていたら、その者は気違いとされただろう。

“死神”

その言葉は似合いすぎていた。

彼の愛機にも、彼自身にも・・・。

「しかし、小型機1体でゴジュラスの相手は無謀だ」

ハウンドは、自分が言った言葉がこの男の前では無意味だと分かっていた。

しかし、言わずにはいられなかった。

それを聞いたヴェルバルトの口元にかすかな微笑みが出来る。

「死神は・・・死なない」

翌朝、ハウンドは旅立った。

今一度、ヴェルバルトにあって、この男に勝利することを目指してこの基地を後にした。

(・・・未だこの世の全てを見た訳ではない、と言うことか)

ハウンドの頭にヴェルバルトと入れ替わり、ある男がその姿を現す。

男は、後ろに凶獣を従えている。

恐ろしく邪悪な力を持った凶獣を。

ハウンドの頭に、一つの疑問が浮上する。

“その時俺は勝てるのか・・・”

やつは、グラン=ニコラスは会うたびに確実に強くなっている。

勝てるのか・・・

分からない。分かるわけない。

しかし、解らないからこそ戦う意味がある。

“勝てるのか”

その考えを、“必ず勝つ”にするために、ハウンドは旅を続ける。

いつか、必ず来るその日のために、果てしない旅を続けていく。

それが“盗賊フェル=ハウンド”が今すべきことなのだから・・・。