ただ薄暗く、冷たい場所。

太陽の光も届かぬ場所。

そこに居るのは白衣を着た数人の人間。

そこで“それ”は目覚めようとしている。

けして目覚めてはいけないもの。

けして人が触れてはいけないものが・・・・・

              絶望の大地 〜紅の竜 “覚醒”〜

共和国軍第3研究所

ハウンドは現在、そこの防衛任務にあたっていた。

(割の良い仕事だとは思ったが・・・まさかこんな所の防衛だとはな)

普通、研究所などの重要な場所は、機密情報が漏れないように信用できる自軍の部隊が防衛している。

「盗賊にこんな仕事を依頼するとは、馬鹿な連中だ」

つい、思っていたことを言葉に出してしまう。

「上の連中の決定なんだ。しかたないだろう?」

いつの間に来たのか、隣りには煙草をくわえた女性が座っていた。

「・・・あんたは?」

髪は肩までで、冷静そうな顔立ちをしているその女性は、ハウンドの知り合いではない。

「セラ=マクロード。ここの防衛部隊の隊長をしている」

自己紹介をしながら、くわえた煙草に火を点ける。

「俺はフェル=ハウンド。盗賊だ」

マクロードが煙草の入った袋を取り出し、ハウンドに進める。

断ったハウンドは、彼女の右腕に大きな傷跡を見つけた。

「ああ・・・・これか」

それに気付くと、マクロードは傷跡を見ながら語った。

話によると、その傷は2年前にジェノブレイカーと戦い、敗北したときについたものらしい。

相手は自分と同じぐらいの腕の持ち主でだったが、マクロードが攻を焦ったために敗北し、 愛機だったブレードライガーも大破してしまったと言う。

あらかた話し終わると、マクロードは立ち上がった。

そして、ハウンドを見て、微笑しながら一言言った。

「あの時は負けたが・・・私だってこの2年間、ただ過ごしていたわけではないからな」

それを聞いたハウンドも微笑して返した。

「俺もあの後色々あってな。あの時のままの俺だったら、今頃死んでいた」

互いににらみ合うが、双方の口元には笑みがあった。

「フッ・・・しかし今は味方同士だ。いずれ、再び相見えることもあるだろう」

ハウンドが言うと、マクロードも黙ってうなずき、何処かへ行ってしまった。

深夜

見張り以外の誰もが寝静まっているときにそれは起きた。

ドドォォォン

凄まじい爆音と警戒のブザーが鳴り響く。

護衛の兵士達が、一斉に愛機に乗り込んだ。

ハウンドもブレイカーに乗り、炎上している場所を確認する。

(研究所の中?スパイでも潜り込んでいたのか?)

確認を終了し、ブレイカーを現場へと向かわせる。

途中で出会ったブレードライガーがブレイカーに通信をしてきた。

通信機には先ほど知ったばかりの顔が映し出さた。

「マクロードか」

「顔を見れば解るだろう」

半ば、呆れた、といった顔だ。

「で、用件は?」

「こっちは金を払ってるんだ。しっかり働けよ」

「・・・・・それだけか?」

「それだけだ」

ハウンドは少し表紙抜けと言う顔をしている。

が、その顔もすぐに険しいものへと変わった。

現場に着いたのだ。

そこにはすでに到着していた何機もの護衛部隊のゾイドが、バラバラに切り裂かれた 残骸となって転がっていた。

そして、その残骸の中心には、蠢く巨大なゾイドがいた。

「おい・・・なんでこんなものがここにいるんだ!?」

誰にともなく問うハウンド。

その問いに答えたのはマクロードだった。

「1年前に沿岸部で共和国の主力部隊が撃破した機体を持ってきて復元し、戦力にするつもり だったんだろ?」

言葉には出ていないが、その顔にはそこはかとなく焦りが感じられる。

「戦力にするつもりが研究所内で暴走?ハッ、とんだお笑いぐさだな・・・!、来るぞ」

ゾイドが、その巨大な鋏で攻撃をしてくる。

ブレイカーとライガーは別々の方向へ飛び、これを回避した。

鋏は、後ろの建物を一撃で破壊する。

「フッ・・・量産型とはいえ、さすがは真オーガノイド、デススティンガーだ!桁違いのパワーだぜ」

襲い来る2本の鋏を回避しつつ、この怪物の弱点を探す。

「正確にはキラー・フロム・ザ・ダーク。たしか・・・間接部の装甲が薄かったはずだ」

冷静さを取り戻したマクロードが分析し、共和国軍主力部隊レイフォースが発見した ダークの弱点を伝える。

「間接部だな!」

ブレイカーは正確にダークの間接部を攻撃していく。

しかし・・・

「なっ、エクスブレイカーが効かない!?」

ダークの唯一の弱点とも言える間接部の装甲は、この研究所に運ばれたときに改良されていたのだった。

マクロードもライガーのブレードで攻撃をしたが、傷一つつけることが出来なかった。

ドカッ!

鈍い音を立てて、ダークの鋏をまともに受けたブレイカーが吹き飛ぶ。

「がぁ!」

ダークがブレイカーに集中している空きをみて攻撃を仕掛けたライガーも、その大きな尻尾で なぎ倒された。

「ぐぅ・・・!」

建物に突っ込んだブレイカーにダークの鋏が突き刺されようとした。

「うおぉ!」

間一髪のところでそれを避け、エクスブレイカーで頭部を攻撃する。

ライガーも同所に攻撃を繰り返す。

「・・・諦めるな」

ハウンドがポツリと呟く。

「最後まで諦めない事、それが真の強さだ!」

ガキィン!

金属同士がぶつかり合った鈍い音を立て、エクスブレイカーがダークの頭部に傷をつけた。

さらに攻撃を続けようとしたブレイカーだが、ダークの巨大な鋏に捕まってしまう。

「ハウンド!」

「構うな!攻撃に専念しろ!」

もう一つの鋏を避け、ライガーのレーザーサーベルがその小さな傷に突き刺り、そこから 頭部の装甲が崩壊していった。

キュォォォォォォォォ!!!!!!!!!!

さすがに今のは効いたのか、ダークが咆吼した。

「マクロード、この鋏を少し押さえていろ!」

「・・・・・・フッ、まさかその状態で?」

マクロードにもハウンドの考えが伝わったようだ。

ライガーがブレイカーを捕らえている鋏に喰い掛り、身を挺してその動きを止めた。

ブレイカーはすぐさま荷電粒子をダークの頭部目掛けて発射する。

直後、ライガーは振り落とされ、ブレイカーも再び建物の壁にたたきつけられた。

そして、装甲もなしに荷電粒子砲の直撃を頭部に受けたダークは、一度だけ咆吼し、その場に沈黙した。

「やった・・・・か」

「・・・一息つくにはまだ早いらしい」

マクロードがハウンドの言葉でダークに眼をやると、ダークの表面が、紅く変色してゆくのが 見て取れた。

「・・・・・・逃げるぞ!」

2機が走りだすと同時に、ダークの身体が爆発をともなって崩壊しはじめた。

少し離れた丘まで逃れた2人が研究所の方をみると、そこにはすでに研究所はなく、 巨大な火柱が立っていた。

「・・・戦争がなければ、あいつらも遺跡の中で静かに眠っていられた」

燃え上がる炎を見つめながら、ハウンドは呟いた。

マクロードも、炎を見つめながら黙って立っていた。

ハウンドは愛機を見上げ、もう一度呟いた。

「・・・・・あいつも・・・こいつらも・・・・戦争の被害者なんだ」

しばらくすると、共和国軍の兵士が集まってきた。

どうやら、騒ぎが起こったときにマクロードが呼んだ応援部隊が、今頃到着したらしい。

応援部隊は燃え上がる研究所を後目に、傷ついた2機をグスタフに乗せ、去っていった。

翌日、“特別手当”と書かれた袋をマクロードから受け取ったハウンドは、研究所跡を訪れていた。

そこにあったものは、崩れ去った建物と、焼けこげた何機かの共和国ゾイドの残骸だった。

「・・・・・・」

呆然とその場を眺めていたハウンドは、ある物を発見した。

ダークの残骸らしき場所にただひとつ置かれた、手のひらより小さく砕けた核の破片を・・・。

ハウンドはこげめすらついていないそれを埋め、そばにあった小さな鉄の棒をその上に刺すと、 修理された愛機を駆って何処かへ消えた。

あとに残ったものは、崩れ去った建物と、焼けこげた何機かの共和国ゾイドの残骸、 そして小さな鉄の墓標・・・。

焼けこげ、崩れた建物の間を一陣の風が天に向かって吹き抜けていった・・・。