今は夜。

今宵は月もなく、辺りには暗黒と沈黙が広がっている。

そんな中、この沈黙を切り裂くかの様に疾走する一機のゾイドがいた。

真紅の魔装龍“ジェノブレイカー”であった。

 

 

 

 

 

 

 

絶望の大地 〜帝国軍第306小隊〜

 

 

 

 

 

 

その紅い身体には無数の傷が残っている。

左のフリーラウンドシールドもずたずただが、青く書かれた“F.H”の文字は消えてはいなかった。

帝国軍第306小隊“フェルハウンド”の隊長であったパイロットのフィクス=フェネラル中尉は愛機のコックピットの中で一日の事を考えていた。

戦闘が始まったのは今から約18時間前だった。

仕掛けたのはこちらだった。

ジェノザウラー、アイアンコング等の150機からなる混成部隊を敵主力部隊400機にぶつける。

そのどさくさに紛れてフィクス率いる“フェルハウンド小隊”を敵本陣に送り込み、撃破する。

司令塔を失った敵はもろく、2倍以上の戦力の差も埋めることが出来る。

それが今回の作戦だった。

危ういが、援軍も頼めずに2倍以上の戦力差を埋めるにはこの作戦に賭けるしかなかった。

この作戦、確かに途中まではうまくいっていた。

混戦部隊の突撃により敵主力の注意はそれ、彼らは確実に敵の中核に向かって進むことが出来た。

目標の周りには幾つもの岩があった。

その岩陰に隠れて進行するフェルハウンド小隊。

敵の本拠地が目前にせまる。

全てがうまくいっている。

この作戦は成功する。

そういった安堵感は、やがて油断へと変わっていった。

その岩が自分たちを隠してくれていると共に、敵までも隠しているかも知れないということをすっかり忘れていたのだ。

「各人、モニターのレーダーからは絶対に眼を放すな」

フィクスが各機に通信を入れた。しかし、少し遅かった。

直後、彼らの前に蒼き獣王“ブレードライガーAC(アタックカスタム)”が立ちふさがったのだ。

(ブレードライガー!?この機体以外では足止めにもならん)

「こいつは引き受けた!お前達は敵の本陣をたたけ!」

フィクスのジェノブレイカーがエクスブレイカーを広げブレードライガーに襲いかかる。

ブレードはEシールドを展開し、これを防ぎつつビームキャノンで応戦する。

激しい攻防が続く。

彼の部下である5機のヘルキャットはその空きに敵本拠地に向かって進行していた。

この二機の死闘は3時間にも及んだ。

双方の動きに疲労の色が見え始める。

このころになるとパイロットの精神力の高さがものを言う。

そして、腕では互角の二人だったが精神面ではフィクスが幾分か上回っていたようだ。

ブレードライガーが勝負を急ぎ、迂闊にも最高速度で突撃を試みたのである。

ブレードを広げて向かってくるブレードライガー。

ジェノブレイカーは冷静にこれをかわし、後ろをとった。

この瞬間、勝利の女神はフィクスに微笑んだ。

慌てて方向を変えようとするブレードライガー。

しかし、勢いがつきすぎていたためになかなか止まれない。

勝機をえたフィクスはジェノブレイカーを荷電粒子砲発射形態にする。

やっと止まり、方向を変えようとするブレードライガー。

しかし、それよりも早くチャージが完了した荷電粒子が発射された。

後ろ向きでEシールドも張れないブレードライガーは荷電粒子の直撃を受け、

身体に穴を開けて沈黙した。

(あちらもそろそろケリがついただろう)

ゆっくりと機体を敵本陣へと進めるフィクス。

敵本陣から100mのところまで駒をすすめた彼は言葉を失った。

本陣前には4時間前に別れたはずの味方機が残骸となって転がっていたのだ。

モニターを拡大する。

敵本陣前に5つの巨大な影が映し出された。

「ご、ゴジュラス・・・・・・・・・・何!?」

ふと目線をそらしたかれの眼に信じられない物が映し出された。

3つの「蒼い影」。

それはまさしく先ほどまで死闘を繰り広げていた「蒼き獣王」の姿だった。

「・・・・ブレード・・・・・ライガー・・・・だと!?」

(まさか主力部隊以外に4機も配備されているとは)

エネルギー残量はすでに戦闘が出来るほど残ってはいない。

これ以上は無理、そう判断したフィクスは退却をしながら本部に失敗を告げる通信をした。

「作戦は失敗した!これより帰還する」

しかし、いくら呼びかけても返答は無い。

すでにくたくたの彼の頭に「最悪の状況」が映し出された。

(本部が敵の手に落ちたのか!?)

さいわい、追っ手は来ないようだった。

来た道を戻り、自分達が発進したホエールキングがあった場所へと戻ったフィクスは愕然とした。

そこにはホエールキングはおろか、ホエールキングの破片一片すら残っていなかったのだ。

(まさか・・・俺達は味方が退却するためのおとりだったのか?)

騙されていた。

そんなことは考えたくない。

しかし、いくら考えてもそれ以外は浮かばなかった。

確かに国のためならいつでもこの命を投げ捨てられた。

しかし、まさかこのような形で・・・味方に、国に欺かれ、この命を落とし損ねるとは思っても見なかった。

気がつくとフィクスは暗黒と沈黙に染まった広野を走っていた。

何処へ行く訳でもない。

何処へ行けるわけでもない。

そう思うと、酷くつらく、寂しくなってしまった。

魔装龍は走り続けた。

突然やってきた果てしない孤独と絶望から逃れるために。

信念ではなく、国のために散っていった仲間を弔える日が来ることを祈って・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 


どもども〜ネメシスです。

いっぽさんからゾイドSSを頂きました。

いきなりハードな展開ですが次回だ楽しみな作品です。

これからも頑張ってください〜♪