必殺仕事人 Ver.Kanon

相沢祐一、仕事人に狙われる



「ねえ祐一、いちごサンデー食べに行こうよ〜」
「昨日も食っただろうが・・・」
「いちごサンデーなら、毎日食べても足りないんだよ♪」

時は夏休み。
うだるような暑さが例年の最高気温を軽々と突破する中、俺は名雪に引きずられるように水瀬家を出た。
誰も奢るとは言ってないし、行きたいとも言ってないんだが・・・名雪の目にはもういちごサンデーしか映っていない。

(ダメだ・・・抵抗して奢らされる量を増やすくらいなら、潔くいちごサンデー1つ奢る事で損害を最低限に・・・)

俺は諦めたように溜息をつくと、逆に名雪を引きずるように百花屋へ足を向ける。
やられる前にやれ・・・そんな感じ(?)だな。
まぁ、そんなこんなで俺は今では名雪と恋人のような関係になってるってことだ。






「うぐぅ・・・良いな、名雪さん・・・」
「祐一さんも、酷いです〜・・・」
「あぅ〜、こうなったら・・・」
「・・・するの?」

祐一と名雪の後姿を恨めしそうに見ている4人・・・。
2人が曲がり角を曲がって姿が見えなくなると、うなずきあってそれぞれ別の方向へ散っていく。






「美味しかったよ〜♪」
「財布の中身が・・・」

百花屋を出て、家路につく俺達。
満足そうな笑みを浮かべてずんずん先に進む名雪。
対して、寒くなった懐に夏の暑さを忘れる俺。

予想外だった・・・まさか5杯も食べるとは・・・。

程なくして、俺と名雪は家に帰りつく。
さっきは暑いのも忘れてたけど、やっぱクーラーの効いた室内は良いな・・・。






「ターゲットの帰宅を確認しました。 えう〜、クーラーの効いた部屋が羨ましいです・・・」
「しょうがないわよっ! 祐一をギャフンと言わせるためなんだから!」

水瀬家の近くに立つ電柱の影・・・2つの影がもぞもぞと動く。
日陰にいるとはいえ、かなり暑そうだ。
2人とも頭から足まで汗だくである。

「2人とも、ジュース買ってきたよっ♪」
「・・・ただいま」

そんな2人の後ろに、あらたな2つの影。

「あう、こんな暑いのにこんなの買ってこなくても・・・」
「えう〜・・・どろどろしてます〜」
「・・・贅沢言わない」






そして時は同日の深夜に至る・・・。

「これが今回の仕事料だよ・・・」

ここは水瀬家の一室・・・あゆと真琴が寝泊まりしている部屋である。
ロウソクを真中に置いた、足を折りたたむタイプのちゃぶ台を4人で囲みながら何やらひそひそと密談をしているようだ。
あゆは仕事料・・・と言いつつ、4つのたい焼きを置く。
もちろん夏にたい焼きなど売ってるはずも無いので、秋子さんの特製たい焼きである。

「たい焼き1つ、しっかりもらったわよ〜」

真琴はたい焼きをひょいっと口に放りこむと、ニコニコしながら部屋を出ていった。

(今日こそ祐一に復讐するわよ〜♪)

「私も、もらっていきますね・・・たい焼き」

栞は4次元ポケットの中にたい焼きを入れると、ゆっくりとした足取りで真琴に続いて部屋を出ていく。
部屋を出る栞は、真琴ほどではないが笑みが浮かんでいた。

(祐一さんを懲らしめて、バニラアイスをいっぱい奢ってもらいます♪)

「・・・たい焼き」

舞は小さな紙袋にたい焼きを入れると、壁に立てかけてあった木刀を握り締める。

(祐一を連れて、また佐祐理と3人で遊びに行きたい・・・)

「祐一君・・・ボクのこと忘れてもらっちゃ困るんだよ・・・7年も待ったんだからっ!」

小さくガッツポーズをしながら、残った1つのたい焼きを手に取るあゆ。
もう片方の手には、もう1つたい焼きが握られていた。

(1つ多くたい焼きくれるなんて・・・秋子さん、ありがとうだよっ!)

「いただきまーす♪」

パクッと、たい焼きを食べるあゆ。
まずは仕事料として皆に配った分から。

「・・・うん、美味しいよっ!」

続いてもうひとつのたい焼き・・・。

「・・・うぐぅ、秋子さん、極悪だよぉ・・・」(泣)






ちゃらちゃ〜ん ちゃちゃちゃちゃらちゃちゃ ちゃらら〜ん♪ (殺しのテーマ)






「ぐ〜・・・」

カチャ・・・

ギィ・・・ギィ・・・

床の軋む音に、せっかく気持ち良く寝ていたのに目が覚めてしまった。
普通なら、こんな音では起きないはずなんだが・・・ひょっとして、神経過敏と言うヤツだろうか?
いやいや、そんな事は置いといて・・・

(ったく・・・夜にこんな事をするのは、真琴か・・・近頃はやらなくなってたのにな・・・)

久しぶりの真琴の襲撃に、なんだか懐かしい感じがするけど・・・ワザワザ襲われるほど俺は優しくない。
薄く目を開けて、気付かれないように真琴を見る。

キラァァン!

(・・・!?)

ちょ、ちょっと待て!
キラァァンってなんだ! キラァンって!!
あれは間違い無く金属の光っ!

「あはは・・・」

キュピィィィィン!!

うわ、なんか針みたいに鋭いエモノを持ってるし!
まさか、秀さんかっ!?
こ、これは刺されると痛いのは間違い無いはず・・・。
こうなったら・・・!

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

やられる前にやる!
月の光に真琴の持った凶刃が光ると同時に、俺は闇をつんざく声で思いっきり叫んだ。
そして布団からガバッっと起きあがった俺の目に飛び込んできたのは、驚いて尻餅をついている真琴。

「あぅ〜・・・」

真琴の右手に握られていたのは、アイスピック・・・。
殺す気かい、コイツは・・・。

「子供には過ぎたものだ・・・没収!」

「あぅ〜、私を倒しても、まだ3人残ってるんだから!」



「・・・ったく、真琴のせいで目が冴えちまったじゃないか・・・」

真琴の襲撃で目が冴えてしまったから、リビングにお茶を飲みに行く俺。
あの後、真琴の言ったセリフが気になるが・・・今は喉の渇きを潤すという欲望を満たすのが最優先事項だ。
まぁ、不法侵入になりかねないから家の中で襲われる心配はまず無いだろう。

「ゴクッ・・・ゴクッ・・・プハァ・・・美味いな、喉の渇いた時に飲むお茶は」

冷蔵庫から取り出したペットボトルからお茶を取り出し、コップになみなみと注いで飲み干す。

『この1杯のために生きてるぅ〜♪』

なんて叫びたい気分だ。
まぁ、このセリフが1番良く似合うのは生ビールを一気に飲み干した時だろうけどな。
・・・俺は一応未成年だから飲めないけど。

「こんばんは、祐一さん♪」
「・・・栞?」

誰もいないはずのリビングで、後ろから声をかけられて慌てて振りかえる俺。
そこにはなぜか栞がいた。
もし、北川や久瀬がそこにいたなら、俺は問答無用で住居不法侵入と言っていただろう。
と言っても、秋子さんの性格なら一発で了承とか言いそうだが。

「・・・で、どうしたんだ栞?」
「ストレートに言いますと・・・私の手にかかって滅殺されてください、祐一さん。
 その後で、明日バニラアイス奢ってください♪ 更に私と付き合ってくださると嬉しいです〜」

さらりととんでもない事を言う娘だ。
特に最初の部分辺りが。
栞の顔から下に視線を向けると、栞の手には奇妙な箱が握られていた。

「これは『えれきてる』と言って、電気を発生させる機械なんですよ〜。
 さぁ祐一さん、これで感電してください♪」
「お前は『必殺V』から登場した順之助かいっ! って言うか感電死なんかしたくないわいっ!」

が、そう言った時にはすでに遅し・・・俺の左手に、えれきてる=スタンガンの先端があてられていた!
かの有名な「クイズ ○リオネア」のあの人の『ファイナルアンサー?』と言った後のあの顔に似た表情を作る栞。

「えい♪」

バリバリバリバリ!!

電流が流れてくるーーーっ!!
俺、感電死しちまうのか・・・とか思って覚悟を決めたんだ。
けど・・・

「お、なんか気持ち良いな・・・栞、肩に当ててくれ・・・肩こりが酷くてさ」

流れてきた電流の電圧が低くて、妙に気持ち良かったんだよ。
思わず、栞にマッサージのお姉さんになってもらいたかったくらいだ。

「えぅぅ、電圧が最小になってました・・・改めて、電圧を最大の500KVに・・・」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「待てません〜、祐一さん、覚悟はよろしいですか?」
「よろしくねぇぇぇぇぇぇ、俺はまだ死にたくなぁぁいっ!!!」
「この電圧だと、30分くらい動けなくなるだけですよぉ〜〜!!」

ここは逃げるが勝ち!
そう思った俺は玄関へ一目散にダッシュする。
今が夜で、他の人が起きないように静かにしなきゃならないなんてのはもう関係ない。
今はとにかく逃げる事。

バァァァァァン!!

勢い良くドアを開け、裸足のまま外に飛び出す俺。
今は夏だからな、裸足で外に出ようが寒くは無いぞ。
名雪との朝の登校ダッシュで培ったこの脚力を見てみろぉ!!
これが夜じゃなかったら無意味に高笑いしてたな、絶対。

(このまま北川の家でも襲撃するか・・・あいつなら、叩き起こしても誰も文句は言わんだろう・・・本人以外は)

そんな事を考えながら、パジャマ姿で北川の家へ足を進める俺。
にしても・・・暑ぃ・・・。




「祐一君・・・逃がさないよっ!」

水瀬家を裸足で飛び出してきた祐一を確認したあゆ。
あゆの右手には、輪の形に巻かれた三味線の弦が握られていた。
その弦の先を口で挟み、まっすぐに伸ばす。

ビィィィィィィ・・・




シュルルルルル!!

「な、何だっ!?」

思いっきりダッシュしていた俺の右腕に、黄色っぽい糸が巻きついた。
しかも何か知らんけど凄い力で引っ張られてるし!!
こ・・・これはまさかっ!?

「三味線屋の勇次さんかっ!?」
「祐一君・・・逃がさないよ♪」
「あゆっ!?」

俺の目の前には、紺色の羽織を羽織ったあゆが。

(まさかとは思うが、背中に『南無阿弥陀仏』とか書いてないだろうな・・・?)

「よくわかったね、祐一君」
「あ、当たりなのかぁっ!」
「考えてる事を口に出す癖、直さなきゃだめだよっ!」

そう言いながら、さらに弦を引っ張るあゆ。
あゆが引っ張ると、俺の右手は上に向かって引っ張りあげられる!

(なんで上に行くんだよっ?)

そう思って引っ張りあげられるほうを見ると・・・上手い具合に電柱のてっぺんに弦をを通してやがる。
あゆにやられて宙吊りになるなんて、俺のプライドが許さないな。
そして俺がパジャマの上着の中から取り出したのは・・・

「アイスピック〜!」(某猫型ロボット風)

などと言いつつ、アイスピックで巧みに弦を斬る。
備えあれば憂い無し・・・というが、まさにこの事だぜ。
あゆの三味線の弦から逃れた俺は、猛ダッシュでその場を逃げ出す。

振りかえると、そこには俺が離れた反動で尻餅をつき、涙目になっているあゆがいた。

「うぐぅ、酷いよ〜・・・」

どっちが酷いんだ、どっちが・・・。

そして再び俺は北川の家へと歩を進める。

「・・・祐一」
「おっ、舞か・・・どうしたんだ、もう魔物は倒しただろう?」

北川の家へ後少しと言った地点で、舞が立っていた。
それも学校の制服姿で。
その左腕には、布にくるまれてはいるが恐らく剣・・・が握られている。

「・・・細かい事は気にしない」

まぁ・・・良いか。
そう思いつつ、俺は北川の家のインターホンを押そうと指を出す。
いや、本当に良いのか?

(・・・殺気!)

とっさに俺はインターホン前からバックステップで下がった。

ブォォォォォン!!

豪快な風切音と共に、俺の立っていた場所の足元に木刀がめり込んでいる。
もちろん、その木刀を握っているのは舞。

「お前が中村主水かぁっ! そんなもので殴られたら死ぬわいっ!」
「・・・バレた、でも大丈夫・・・ギャグ編の時は主人公は死なないのが王道」

舞は回避された事も気にしないで、再び2撃目、3撃目を放ってくる。
それよりも、死なないのが王道・・・ってまぁ確かにあってるけど、痛いのは嫌だっ!!
俺は必死にそれを回避する。

(え〜い、今日はいったいなんなんだ・・・? ・・・はっ!)

一瞬の隙が命取りになった・・・振り下ろされる木刀がスローモーションに見えたぜ・・・。

ドガァァァァァッ!



相沢祐一、仕事人に滅殺される・・・。



いや、死んでないって。






チュンチュン・・・チュンチュン・・・

「ん・・・なんだ、夢だったのか・・・」

小鳥の声で目が覚めた俺。
寝ていたのは、自分の部屋のベッドだった。
あぁ、夢だったんだな・・・そう思いながら、のっそりとベッドから起きあがる・・・が。

「祐一さん、おはようございます♪」
「・・・栞?」
「朝はおはようでしょ、祐一! 真琴にもちゃんとできるんだから祐一もちゃんとしなさいよ!」
「・・・真琴?」
「・・・朝の挨拶は大事」
「・・・舞?」
「まぁ、良いじゃないか皆。 今日は・・・ね?」
「・・・あゆ?」

夢に出てきた4人が、起きてすぐの俺の目の前に・・・。
ま、マジっすか、アレは夢じゃなかったんすかぁっ!?

「夢じゃないんだよ、祐一君♪」
「昨日みたいな目に遭いたくなかったら、今日からは名雪だけじゃなくて私達にも色々奢りなさいよ♪」
「とりあえず、バニラアイス1リットル、お願いしますね〜♪」
「佐祐理と3人で遊びに行って・・・帰りに、牛丼・・・」





「俺のこと、忘れてください・・・」

俺の受難は、まだ始まったばかりのようだ・・・。(落ちてない)





「う〜、私今回ほとんど出番無いよ〜・・・」
「あらあら・・・私も出番が無かったわね。 祐一さんには新しいジャムを試食してもらおうかしら?」


その日の夜、祐一が2人の仕事人に襲われたのは言うまでも無い。



後書き

「AngelicCafe」管理人、雪村神威です〜。
薄いギャグで、あまり面白くもないですがどうか受け取ってくださいませ。
しかも、台風で高校野球が中止になったので見た「必殺仕事人W」を見て勢いだけで書きました。(爆死
必殺が好きだったので、書きたいとは思ってたんですけどね。
何はともあれ、やっぱりシリアスとかほのぼの系の方が書きやすいと実感した今日この頃♪

 

 

 


どもども、ネメシスです。

仕事人は正直それほど詳しくもないんですが、なかなか上手くまとまってますね(^^)

なんにしろ祐一は不幸なのか幸せなのか・・・・・・(笑)