ROUND3「タイムアタック」
「じゃ、さっそく祐一さんのチームスタッフを紹介しますね」
予選当日の朝、秋子が新たに編成した祐一のチームスタッフの紹介を始めた。
スノークリスタル本来のクルーはそのまま名雪のチームに編成され、
祐一のチームスタッフは秋子が改めて編成したものだ。
「えっと、メカニックチーフの七瀬留美です。よろしくね相沢君」
長い髪をおさげにした少女が挨拶する。
「同じくメカニックの天野美汐です。よろしくお願いします」
落ち着いた雰囲気の少女、美汐は軽く会釈をする。
「美汐と同じ、メカニックの真琴!真琴があんたのマシンを整備してあげるんだから感謝しなさいよねっ!」
間髪いれず美汐と同じくらいの少女が声を張り上げ、それに続いて栗色の髪をした小柄な少女が真琴を押しのけ前に出る。
「データ・広報担当の美坂栞です。ほかの皆さん同様よろしくお願いしますね」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
「うん、今日の予選、頑張ろうね」
長森がスタッフを代表し、手を差し出し、祐一もそれをきっちり握り返す。
「ま、どこまでできるかわからないけどベストを尽くすよ」
「あ、でも祐一君が負けたら即、解散なんだよね」
「・・・・・・・・」
チーム皆の視線があゆに注がれる。
「ゆ、ゆういひふん、いひゃい、いひゃいふぉ〜」
祐一は問答無用であゆの頬を左右に引っ張る。
「人がせっかくやる気になってるのに水を差すな!」
「ごひぇんなひゃい〜ゆるひひゃ〜」
「・・・・・たくっ!」
「う〜、酷いよ〜」
ようやく解放された頬をさすりながらあゆが情けない声を上げる。
「自業自得のような気もしますけど・・・・」
すかさず美汐の鋭い突っ込みが入る。
「うぐぅ・・・・」
そして各チームのタイムアタックが始まろうとしていた。
「これが・・・・カノン・・・」
レーシングスーツに身を包んだ祐一が見たGSXは一晩でレース用にセッティングされ、
初めて乗ったときに付いていた装甲のようなものがなくなり、よりレーシングカーらしくなっていた。
「祐一さん、無理だけはしないでくださいね」
「わかってます。よしっ、頼むぞカノン」
『了解』
秋子の言葉に頷き、祐一はGSXのコックピットに乗り込む。
そして、チームスタッフが見守る中、GSXはコースへと飛び込んでいく。
「・・・・くっ、これがサイバーのGかっ・・・・!」
初めて体験するサイバーフォーミュラのコーナーリング時に発生する強烈な横Gを歯を食いしばりながら耐えていた。
だが、今の祐一にはそれが精一杯で、他のことに気にかける余裕はない。
走行ラインは安定せず、不安定な走りだ。
『肩の力に力が入りすぎている。もっと力を抜け』
「か、簡単にいうなーっ!」
『このマシンは非常にデリケートなのだ。アクセルワークはもっと繊細に扱いたまえ。でなければマシンに振り回されるだけだ』
「・・・・・わぁかったよっ!・・・・このっ!」
コーナー脱出時に外に膨れながらも、アクセルを踏み込み加速していく。
「祐一さん、次の周回からタイムアタックに入ってください。くれぐれも無理はしないようにね」
「了解っ!」
「留美さん、真琴、タイヤ交換の準備を」
「はいっ」
「カノン、最終コーナーに入りました」
美汐がテレメーターを計測しながら状況を報告する。
甲高いエンジン音を響かせながらGSXがホームストレートを通過していった。
タイムアタックを終えたGSXがピットに戻ってきた。
「お疲れ様です、祐一さん」
栞が笑顔で出迎えるが、コックピットから出た祐一は足がふらついて栞に倒れこんでしまう。
「きゃっ」
栞は驚いて小さな悲鳴を上げながらも祐一を支える。
その光景を見て、名雪とあゆが「あっ」と声を上げたが、今の祐一にそれに気付く余裕はなかった。
「あっ、ごめん・・・・」
「あ、いえ。気にしないで下さい」
「名雪、手伝ってあげて」
「うん」
栞と名雪に支えられながら、歩いていく祐一。
初めて体験したサーキットでの走行は祐一の体力と精神を極端に消耗させていた。
「大丈夫?はい、ドリンク」
「ああ、なんとかな・・・・・」
あゆからドリンクを受け取り、一気にそれ飲み干す。
「ふぅ・・・・で、順位は?」
「えっと・・・・・・・」
栞はボードと祐一を見比べながら、言いにくそうに目を伏せる。
「・・・・最下位です・・・・」
「・・・・・・・そっか」
「あ、祐一、落ち込むことないよ。祐一は初めてなんだもん、完走しただけでも上出来だよ」
「うん、そうそう。ボクもそう思うよ」
「まぁ・・・・・気にしてないっていったら、嘘になるけどタイムアタックはあと2回できるんだ。まだチャンスはあるさ」
ぱんっと顔を叩き、気合をいれる祐一。
「そういえば、トップのタイムは誰が出してるんだ?」
「え?えっと、トップはエターナルフォーミュラの・・・・折原浩平・・・・」
「折原・・・・浩平?」
「ええ、ヨーロッパF3、2年連続チャンピオン。祐一さんと同じで今回のレースがサイバーのデビューよ」
栞の言葉を補足するように秋子が続ける。
「F3チャンプ・・・・・か」
エターナルフォーミュラ・ピット
「調子はどうですか?」
長い髪を三つ編みにして分けた少女が、ニューマシン「スペリオンGT」のコックピットにいる少年・折原浩平に話し掛ける。
この少女はエターナルフォーミュラのオーナー代理・里村茜だ。
「バッチリ好調。タイムがそれを証明してるだろ?」
「浩平とウチのマシンならもっといいタイムが出せます。手抜きはダメです」
「・・・・・・あはは、バレてた?」
「はい。ちゃんと本気出してアタックしてください」
「はいはい、りょーかい。じゃ、ちょっくらいってくるよ」
そしてスペリオンGTは激しいエンジン音を立てながらコースへと入っていった。
「くそっ!まだ、予選通過には届かないか・・・・・」
祐一の2回目のタイムアタックの結果は36台中34位。
予選通過は24台。はっきり言って絶望的だ。
「祐一、ちょっといいかな?」
「ん、なんだ名雪?」
「うん、祐一の走りを見てて気になったんだけど、ちゃんとエンジンの音を聞いてる?」
「はぁ?そんなの嫌でもガンガン聞こえるよ」
「そうじゃなくてー、う〜ん」
どう説明したらいいものかと考え込む名雪。
「祐一はバイク乗ってたよね?そのときと同じようにエンジンの音を聞いてる?」
「バイクと同じように・・・・・」
「ほら、エンジンて、乗り方によって音の調子変わるでしょ?口じゃうまく説明できないんだけど・・・・」
(そうか・・・・・たしかに名雪のいうとおりだ。俺はGSXのエンジン音なんてまるで聞いていなかったんだ・・・)
「よしっ!」
名雪の言いたいことを感覚で理解した祐一は立ち上がり、最後のタイムアタックへとチャレンジする。
「はい、どうぞ。頑張ってください」
「おう!」
栞からヘルメットを受け取り、GSXへ乗り込む。
「ゆういちーっ、予選落ちなんかしたら許さないからねっ!」
「真琴、人前で大声上げるのは、みっともないです」
「あ、あぅーっ」
「・・・・・何やってんだか・・・・」
真琴と美汐の様子に苦笑しつつも、祐一は幾分リラックスしてコースへと入っていった。
(バイクと同じように・・・・・エンジンの音を聞くんだ・・・・)
エンジンの調子に気を配り、それに合わせてアクセル、シフトチェンジをおこなっていく。
それにより、エンジン音は今までとは違うものに変わっていった。
(そう、この感じだ・・・・!)
「ここでシフトアップ!・・・・・・段々感じが掴めてきた・・・・」
『確かに今までの中では一番良いタイムだ』
「はいはい・・・そりゃどーも。・・・・・・次の周で最後のタイムアタックに入る・・・・!」
『了解』
名雪のアドバイスによって、マシン操作のコツを掴んだ祐一の走りは徐々に、しかし確実に変わっていた。
「カノン・・・・・・・来ます!」
ホームストレートを通過するGSXを見届け、ボードに書き込む栞。
「祐一君がんばれっ!」
「祐一っ、ふぁいとっ!」
あゆと名雪も声援を送る。
チームのメンバーが見守る中、祐一の最後のタイムアタックが始まる。
「くうぅっ・・・・・・・!!」
横Gに絶えながら必死のドライビングをする祐一。
タイムは確実に伸びている。
「GSX、中間地点を突破。タイムは今まで一番です・・・・ですが、このままのペースだと予選通過目標のタイムには僅かに届きません」
テレメータを計測する美汐が状況を報告する。
「祐一ーっ根性みせなさいよっ!」
「祐一さん、頑張って!」
真琴と栞も声を張り上げるが、今の祐一には激しいGとの戦いでそれどころではない。
『後方よりマシン接近。注意せよ』
祐一がバックミラーを確認すると一台の真紅のマシンが凄まじいスピードで迫っていた。
「あれが、隣のチームのニューマシンか・・・・・悪いけど・・・・一気に抜かせてもらう!」
真紅のマシン。それは浩平の駆るスペリオンだ。
GSXがコーナーでアウトに膨らむ隙を逃がさずインからオーバーテイクしていく。
「相手が誰だろうと・・・・・簡単に負けられるかーっ!!」
「祐一さんっ、無理をしないでっ!」
秋子はスペリオンと張り合う祐一に無線で呼びかけるが、祐一は引くつもりなどなかった。
凄まじい集中力を発揮し、まがりなりにもスペリオンについていく。
徐々に離されてはいるが、GSXのペースは先ほどよりも格段に上がっている。
『イリュージョンストレート。加速せよ』
「いくぜっ!ピーコックウイング!」
コーナーを抜けたスペリオンはブーストを稼動させ、一気に加速していく。
「くっ・・・・このままいかせてたまるかっ!うぉぉーーーっ!!」
『ブーストポッド作動、エンジン臨界点へカウントスタート』
GSXもブースト加速でスペリオンに並びかけ、イリュージョンストレートを駆け抜ける。
「何っ!?あのマシン・・・・・スペリオンについてこれるのかっ!?」
スペリオンのブースト加速は世界のサイバーフォーミュラマシンの中でもトップクラスだ。
まさか、無名のチームのマシンがついて来れるとは予想すらしてなかった。
『600Rに入る。スロットルは全開のまま』
「ぐううっ!」
トップスピードに乗った2台が最終コーナーに飛び込む。
スペリオンはそのまま綺麗にレコードラインでコーナーを通過していくが、GSXはアウトに膨らむ。
『アウトに流れている!ステアリングをインに修正しろっ!』
「う・・・・うおおおっ-----!!」
<スペリオンとカノンがコントロールラインを通過ーっ!!気になるタイムは――っ!?>
アナウンスの声が響く中、両チームのスタッフがそれぞれのタイムが出るのを見守る。
<なんとっ!折原のタイムは1分47秒077!コースレコードだ!サイバーに恐るべき新人の登場ですっ!>
エターナルフォーミュラのスタッフが歓喜の声を上げ、茜の表情にも喜びの色が見られる。
そして祐一の順位は
24
「24位・・・っていうことは・・・・」
「・・・・・うん・・・・」
あゆと名雪が顔を見合わせ・・・・・
「予選通過ですっ!」
ぽんっと手を叩く栞が声を上げると同時にピット内が歓声に包まれる。
「やった!やった!美汐ーっ!予選通過っー!!」
「ええ・・・・頑張った甲斐がありましたね」
「やりましたね!秋子さんっ!」
「まさか・・・本当に予選通過しちゃうなんて・・・・・大したものね・・・・」
「浩平、コースレコード、おめでとうございます」
マシンから降りた浩平を嬉しそうな顔をした(と言っても微妙な変化だが)茜が声をかける。
「ま、俺の実力とこのマシンなら当然だろ。ところでさ・・・・最後に俺についてきたマシン・・・・なんて名前なんだ?」
「あれは確か・・・・スノークリスタルのニューマシンでカノンGSXといったはずです」
「カノン・・・・・GSXか・・・・・」
わずか半周だが、自分についてきたマシンに僅からながらも興味をもつ浩平だった・・・・・・・・
そして決勝へと続いていく
2001/12/20
2001/12/23修正
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はぁ・・・・なんかいっぱいいっぱいです。
チームメンバーについてはリメイク前と比べてどうでしょう?
前の奴だとマコピー&美汐の出番があまりに少なそうだったんでこんな形になりましたが・・・・
吉とでるか凶と出るか・・・・・